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インタビューInterview

意向把握、情報提供、態勢整備 動き出した改正保険業法 代理店に義務付けられた新しい保険募集ルール

2016/07/22

吉田桂公 弁護士

 5月29日、ついに改正保険業法が施行された。今回の改正は、顧客保護に主眼が置かれており、保険代理店や保険募集人には、様々な義務が課せられている。保険に関わる税理士事務所も多いだけに、今後、どのような点に注意すべきなのか、のぞみ総合法律事務所(東京・千代田区)の吉田桂公弁護士に話を聞いた。

 

――まず、5月29日に施行された改正保険業法のポイントからお聞きします。
 改正保険業法では、新しい募集ルールとして、意向把握義務及び情報提供義務が導入されました。意向把握義務では、保険募集人は、顧客の意向を把握し、その意向に沿った商品の提案・説明を行い、最終的に顧客の意向と保険契約の内容が合致しているかを確認するといった一連のプロセスが求められています。

――顧客の意向を重要視しているわけですね。
 そうですね。意向把握義務のもとでは、募集人や代理店側の都合による「商品ありき」の売り方はできません。募集人が募集プロセスの当初の段階から顧客の意向を把握していくことで、顧客は自らの意向を深く認識・理解し、適切な保険に加入することができるわけです。税理士事務所の場合、顧客の財務状況を把握できる立場にありますので、募集人が顧客の意向を十分に聞かないまま勝手に商品を選定するおそれがあります。これでは、意向把握義務を守っていないと判断されてしまうおそれがあるので要注意です。

――顧客の意向がハッキリしない場合は、どうすればいいのでしょうか。
 顧客も、保険のニーズはあっても、具体的にどのような商品があるのか、どのような保障が最適なのか、自分でもよく分かっていないケースは多いと思います。そのような場合は、顧客の話に耳を傾け、いろいろな情報を踏まえて意向を推定し、会話を重ねていくうちに顧客の意向が固まってきて、顧客自身が納得して契約することが求められてきます。これを「意向推定型」といいますが、推定の確度に留意して、合理性・妥当性ある意向推定を行うことが重要となります。

――情報提供義務では、どんなことが求められますか。
 情報提供義務は、大きく分けて3つあります。1つ目は、「契約概要」・「注意喚起情報」の交付・説明をしっかりと行うこと。2つ目は、付帯サービスに係る事項の説明を適切に行うこと。例えば、自動車保険の付帯サービスとしてのロードサービスが該当します。3つ目は、複数保険会社の商品を取り扱う乗合代理店の問題ですが、保険商品の比較・推奨を適切に行うことです。

――どのように比較推奨すればよいのでしょうか。
 大きく分けると、顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターンと、代理店独自の推奨理由・基準(例えば、販売実績が上位の保険会社の商品を勧めるなど)に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターンがあります。いずれにしろ、顧客の意向がボンヤリとしている場合、恐らく保険商品に関する情報量も少ないと思いますので、例えば、どのような特約を付けたいのか、保険料を安くしたいのかなど、顧客のニーズを引き出しながら適切な商品を導き出していくことが重要です。こうした意向把握義務や情報提供義務を果たせるように、代理店は適切な「態勢整備」を講じなければなりません。

――態勢整備はどこまで講じる必要がありますか。
 態勢整備は、それぞれの代理店の規模・特性に応じて行うことになります。保険募集人が100人いる代理店と5人の代理店で、同じ対応をせよ、ということにはなりません。代理店主のみの管理で足りるような規模なのか、あるいは、募集人の人数も多く、代理店主とは別に管理責任者を設置しないといけないような規模なのかで、講じるべき措置は変わってきます。また、比較・推奨販売を積極的に行うのか、取扱保険会社の数はどの程度なのか等の事情によって、態勢整備のレベルも異なります。

――保険会社はサポートしてくれないのでしょうか。
 比較・推奨販売は、代理店独自の業務です。保険会社は自社の商品を売って欲しいわけですから、比較・推奨販売の具体的な方法までは教えてくれません(教えるとすれば、自社の商品の推奨方法でしょう。)。したがって、代理店自身で比較・推奨のプロセスを社内規則で規定する必要があり、どういう基準で保険商品を比較・推奨していくか、代理店は自分たちで考える必要がありますので、より自主性が求められてくる部分だといえます。

――その点、一社専属のほうが、ハードルが低いのでしょうか。
 一社専属の場合、基本的には、保険会社の指導に従っていればよい、ということになりますが、ただ、保険会社が用意した種々の内部規程の雛形などのツールを活用するとしても、それを実際に使いこなすのは、現場の募集人ですので、内容をアレンジする必要がないのかといった点は検討すべきです。

――募集経緯を記録に残すことも重要でしょうか。
 そうですね。意向把握の経緯、比較・推奨販売の経緯を記録に残す必要があります。しかも、単に記録を残すだけでなく、その記録を検証してきちんと募集が行われているかを確認しなければなりません。保険代理店を営んでいる税理士にとって、こうした確認や点検などは馴染みがなかったところでしょう。

――確認や点検のための態勢整備も必要となってきそうですね。
 そもそも態勢整備は、形式を整えて終わりではなく、「PDCA サイクル」を回して継続的行う必要があります。P(Plan)は、社内規程などの策定、D(Do)は組織作りや内部規程の実行、募集人に対する教育・管理・指導です。そして、C(Check)とA(Act)により、社内規程がしっかり守られているか自分たちで検証し、問題があれば改善する必要があるわけです。

――そのほかに気を付けるべき点があれば教えて下さい。
 顧客情報の管理態勢もしっかり整備しなければなりません。例えば、税理士事務所と代理店が同じフロアで仕事をするような場合、Aさんは保険代理店の業務上、顧客Xの情報を閲覧する必要があるものの、同じフロアで税理士業務のみに携わるBさんも顧客Xの情報を閲覧できる状況となっているのは問題です。税理士事務所と代理店を分けて、保険に関する顧客情報などは代理店業務を行うメンバーだけにIDやパスワードを割り振ってアクセス制限を行うべきでしょう。

――フロアは同じでも構わないのでしょうか。
 本来であれば、部屋も電話もFAXも分けたほうがいいのですが、難しい問題もありますので、遮蔽措置を講じるなど、安易に情報が見られない物理的区分を設ける必要があると思います。すでに改正保険業法は施行されていますが、依然として、この対応があいまいな税理士事務所は多いように感じます。

――税理士が代理店に顧客を紹介して手数料を受け取るケースもあります。
 保険代理店から紹介料等の手数料を受け取ること自体は否定はされていませんが、高額な紹介料などを受け取る場合は留意が必要です。例えば、代理店手数料の50%以上を紹介料として受け取った場合、紹介行為の対価が募集行為の対価以上となるわけですが、そうすると、単なる紹介行為を超えて、保険募集を行っているのではないかと疑いを持たれるおそれがあります。無資格者が、報酬をもらって具体的な保険商品の推奨・説明を行えば、保険業法違反に問われます。顧客紹介を利用する代理店は、紹介者が無資格募集等の不適切な行為に及ばないように、紹介者を管理する責任を問われることになりますので、留意が必要です。

――最後に読者の税理士先生にメッセージをお願いします。
 今回の保険業法の改正は、すべての代理店が対象となります。税理士の先生方の代理店も例外ではありませんので、是非、新しい保険募集ルールに則った対応をして頂きたいと思います。

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