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インタビューInterview

東京税理士会の学術研究機関として研究者の養成、会員の資質向上を図る

2020/05/18

藤曲 武美 税理士
日本税務会計学会 学会長 

――日本税務会計学会が設立された経緯からお聞きします。
 
日本税務会計学会(以下、学会)は、東京税理士会(以下、東京会)の学術研究機関として昭和382月に発足しました。東京会が学会を設置した目的は大きく二つあり、一つは研究発表を通して税理士業界をリードする研究者を養成することです。二つ目は、東京会の会員が税制や会計などに対する見識を高め、税理士としての資質の向上を図ることにあります。

――学会はどのようなメンバーで構成されていますか。
 現在、学会長1名、副学会長6名、常任委員24名、委員114名の総数145名で構成されています。東京会の会員の中には、学会に対して勉強好きな人たちの集まりというイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、学会は東京会の研究機関であり、東京会の会員のためのものです。そこで、学会では東京会の会員の見識を高めるためには支部の理解と連携を図ることが不可欠との考えから、114名の委員のうち48名については各支部から一人ずつ推薦してもらい、学会の活動に参加していただいています。

――具体的な活動内容について教えてください。
 学会内に研究部門を設け、それぞれ部門ごとに研究活動を行っています。学会の設立当初は、税法、会計、経営の3部門でしたが、昭和47年に商法部門(昭和53年から法律部門に名称変更)を新設。平成9年には税務・会計の国際化に対応するために国際部門、平成15年には租税訴訟の補佐人制度の新設にともない訴訟部門が創設されました。現在はこれら6部門に分かれて研究活動を行い、各部門とも年8回、それぞれ月次研究会を開催して研究成果を発表しています。

――6部門合わせて月次研究会を年48回も開催しているのはすごいですね。
 全国の税理士会の中でも、これだけの活動を行っているところはないと思います。月次研究会のほかにも、毎年10月または11月に年次大会を開催しています。年次大会では、過去1年間に月次研究会で発表したものの中から優れたものを単独発表してもらうほか、特別の研究チームを編成し、その年に話題になった税制や改正が予想される税制などをテーマに取り上げ、研究成果をパネルディスカッション形式で発表してもらいます。また、毎年1月には6部門合同の研究会も開催しています。この研究会では、外部の識者に講師をお願いしていますが、最近は財務省の主税局長にその年の税制改正の最新情報を解説してもらうのが恒例となっています。

――発表者や研究テーマはどのように決めていますか。
 発表者については、各部門の役員と委員が話し合って決めていますが、研究者を養成することが学会の目的ですので、できるだけ若い人たちに発表してもらうようにしています。テーマについては、発表者が決める場合もあれば、テーマが決まってから発表者を選ぶこともあります。テーマの内容は、日常業務に直接関係するものだけでなく、基礎理論や外国における税制など通常の研修では取り扱わないものも対象にしています。また、学会の研究会は、学術研究の成果の発表の場と位置付けていますので、例えば通説とされている考え方に疑問を呈する発表でも構いません。それに対して参加者が反論することも可能です。

――参加者が反論するということは、発表の中で議論する時間が設けられているのでしょうか。
 研修会は講師が一方的に話し、受講者はその話を聞いて終わるのが一般的ですが、学会の研究会では、原則として発表に対する質疑応答の時間を設け、参加者の誰もが質問できるように運営されています。月次研究会は基本的に毎回2時間行われますので、1時間半を発表の時間、残り30分を議論する時間としています。研究会で発表した人や参加した人は、この議論を通してより深く問題点の本質などをとらえることができるため、参加者の資質の向上に繋がると考えています。

――月次研究会や年次大会の参加費はいくらですか。
 学会は、東京会の会費で運営されていますので、東京会の会員であれば、月次研究会など学会が行う事業には無条件で参加することができます。原則として費用もいただいておりません。年次大会で使用する論文集をはじめ、月次研究会や合同研究会で使用する資料もすべて参加者に無償で配付します。個別の費用負担はなく、一切の手続きや事前連絡もなしで参加できますので、年48回開催している月次研究会の中で興味があるテーマがありましたら、是非、積極的に参加していただきたいと思います。

――昨年、藤曲先生は9代目の学会長に就任されましたが、学会長としての抱負をお聞かせください。
 昭和38年に設立されて以来、学会には長い伝統がありますので、その伝統を受け継ぎ、学会設立当初からの目的を確実に実行していくことが、学会長としての重要な課題だと考えております。それに加えて、これからは月次研究会で発表した若い人たちをさらに育てていくため、東京会や支部の各種研修会の講師として推薦できる仕組みを整えていきたいと考えております。研修の主催者側としては、実績がない税理士に講師をお願いするより、全国で研修講師を務めている有名な税理士にお願いしたほうが安心という気持ちがあるかもしれません。それも分かりますが、税理士業界の未来を考えれば、学会だけでなく業界全体で新たな研究者や研究講師を養成することも重要なことだと思います。

――有名な講師だけですべての研修会をカバーするのも限界がありますね。
 研修部の先生方から「誰か良い講師はいませんか」などと相談されることも多いですが、年間の研修スケジュールを計画するのは本当に大変だと感じます。学会の月次研究会で発表したテーマの中で、関心のあるものを支部の研修会で採用してもらえれば、次の世代の講師を養成できるだけでなく、研修会の講師選びに悩んでいる支部のためにもなり、さらには研修会を通じて支部会員の資質の向上を図ることもできます。こうした流れができれば、これまで以上に東京会の会員のための研究機関として学会の存在意義が出てくると思います。

――来年の公開研究討論会は東京会が担当会ですが、学会からも多くの発表者が選出されるのでしょうか。
 東京会の公開研究討論会では、調査研究部と本学会が共同で研究を行います。学会からは各部門から3名ずつ選出しますので、発表者の3分の2くらいは学会のメンバーになります。経験豊富な実力者を出せば、それなりの成果は出せると思いますが、東京会の場合は会員数も多く、新たな人材を発掘して全体のレベルを高めていくという趣旨から、公開研究討論会に出られるのは基本的に一人一回となっています。そのため、来年の発表者も次代を担っていく若い人たちが中心となっています。研究テーマも固まってきましたので、発表者たちをフォローしながら本番までしっかり準備を進めていきたいと思います。

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