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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

契約社員の退職時に慰労金 給与所得か、それとも退職所得か…?

2016/12/26

 期間契約社員の退職にともない、会社が支給した慰労金は給与所得か、それとも退職所得なのか――。その判断をめぐり納税者と当局の争いが起きた。

 平成18年3月、請求人AはF社と期間契約社員雇用契約を締結し、3年後の平成21年3月に退職した。F社の期間契約社員就業規則では、契約期間を満了した者のうち、勤務成績が良好な者には慰労金を支給することとしている。また、同社の期間契約社員マニュアルには、契約期間を満了して退職する場合、その時点での欠勤・休日出勤を含まない勤務日数に応じ、慰労金が支給されることが定められている。これらを踏まえ、F社はAに対して慰労金を支給。その際、所得区分を給与所得と判断して源泉徴収を行った。

 平成21年11月、Aは税務署を訪れ、慰労金は「退職所得に当たるのではないか?」として還付に関する相談を行った。しかし、「担当職員から明確な回答がなく、後日、税務署に電話して質問をしたが、担当職員は電話にも出ず、回答がなかった」として、慰労金を退職所得として確定申告を行った。だが、税務署が更正処分を行ったことで、両者の争いが勃発。審判所にその判断が委ねられた。

最高裁が過去に示した退職所得の要件とは!?

 当局による税務相談への対応という点については、請求人の言い分は認められなかった。問題は、慰労金は給与所得なのか、それとも退職所得なのか――という点だ。

 Aは、「慰労金は、退職に基づき支給されたもので、その所得は、給与所得ではなく、退職後の生活の糧となる退職所得に該当する」と主張。

 一方の当局側は、給与所得と判断した理由を次のように述べている。①F社は、期間契約社員に対する退職金を支給しないこととしている、②慰労金は契約期間が終了し、有給休暇を除く欠勤、遅刻および早退の日数が勤務日数のおおむね10パーセント未満の場合に限り支給され、その支給金額は契約の総期間に応じて支給されている、③労働基準法第24条第2項および同法施行規則第8条には、1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される賃金、賞与に準じ、その支払いは賃金の支払いである旨規定されているところ、慰労金は契約期間の継続勤務に対して支給される勤続手当である。

 両者の言い分について審判所は、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」の判断基準として、最高裁第二小法廷判決昭和59年9月9日で示された「退職所得となる3つの要件」を取り上げた。その要件とは、①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、③一時金として支払われること。

 審判所は、「契約期間を満了して退職するという事実によって支給されている」、「請求人は通算契約期間における出勤すべき日数の90パーセント以上を出勤し、勤務成績が良好な者に該当するとして、通算契約期間における勤務日数に応じて支給されている」、「平成21年3月度の給与として一時に支給されている」などと指摘。最高裁で示した「退職所得の①ないし③の各要件を満たしている」として、請求人Aの慰労金を退職所得として認め、当局の主張を退ける判断を下した。

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