不動産貸付業に該当するか!? 個人事業税の課税基準にご用心
2023/03/23
不動産の貸付を行っている場合に注意したいのが「個人事業税」だ。個人事業税は都道府県が課税する地方税。個人が行う所定の事業に対し、所得を課税標準として、その事業を営む個人に課税する仕組みだ。
このうち不動産貸付業は、第一種事業とされ、原則として前年の所得税の不動産所得に、次の控除等を適宜、加減算して課税標準を求めればよい。税率は5%。①事業税にはない所得税の「青色申告特別控除」が控除されていれば、それを加算。②所得税にはない事業税の「繰越控除」と「事業主控除(最高290万円)」を必要に応じて控除。
問題なのは、貸付の規模や収入が都道府県所定の基準を満たす場合に「不動産貸付業」と認定され課税されるため、その基準を満たさなければ事業税の負担はないという点だ。つまり、こうした基準を形式的に満たすかどうかだけで事業税の負担に違いが生まれ、手取りの収益が異なってくるわけだ。最も原則的な基準は、不動産の貸付規模基準で、建物の貸付では多くの場合、次のようになっている(不動産貸付業の認定基準ついては事務所等所在地、住所地の道府県に要確認)。
⑴住宅の建物…10棟10室以上
⑵住宅以外の建物…5棟10室以上
当然、この規模基準に該当するかどうかで、手取り収益の面で有利・不利が生じ、納税者や不動産の投資家にとって課税が不公平となる場合がある。たとえば、貸室は9室で、貸付面積が大きく収入が2,000万円あったとしても、原則的規模基準を満たさないから事業税の負担はないことになる。一方で、10室の貸付事業を行う業者で収入が1,500万円だったとしても、基準を満たしているから事業税がかかる。これでは不公平となり、納税者からの不満は抑えられないだろう。
そこで⑴⑵の規模基準を補完する基準が設けられている場合がある。東京都の場合は、実際に貸付用建物の床面積が600㎡以上で、かつ収入金額が年間1,000万円以上である場合も不動産貸付業と認定される。つまり、収益力の高い物件の貸付の場合にも事業税がかかるというわけだ。ちなみに、神奈川県は床面積600㎡超で収入基準年間1,200万円超。埼玉県は床面積が400㎡以上で収入基準は800万円以上となっている。
ただ、この補完基準に当てはまるかどうかが微妙なケースもあり、納税者と課税当局との間で税金トラブルが起こることもしばしばだ。
最近の東京都の事例(令和4年2月2日裁決)を見ると、争いとなったのは、収入基準を満たし、住宅用の賃貸マンションが7戸だったケース。納税者は床面積について専有面積で合計しても457.83㎡しかなかったのに、不動産貸付業と認定したのはおかしいとして行政不服審査法に基づき、審査請求した。
審査した東京都は、地方税法に定める不動産貸付業の認定に関し、次のことを確認した。
⑴地方自治法上の技術的助言である「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」において「アパート、貸間等の一戸建住宅以外の住宅の貸付けを行っている場合においては居住の用に供するために独立的に区画されたーの部分の数が10以上であるものについては、不動産貸付業と認定すべきもの」とされていること。
⑵東京都の事務提要では「不動産貸付業に該当するかどうかの認定は、所得税の取扱いを参考とするが、社会通念上事業と称するに至る規模、賃貸料収入の状況、貸付不動産の管理の状況等を総合勘案して判定する」ことを前提に、上記の床面積基準600㎡以上、収入金額基準1,000万円以上が決められていること。
⑶床面積の認定に当たっては、事務提要で「各部屋ごとに貸し付けている場合は、当該貸付部分に廊下、階段等の共有部分を含めて計算する。」とされていること。
こうしたことから、東京都は共用部分を含めた床面積が655.86㎡になるとして、基準を満たすと判断、課税を認める裁決を下している。
貸付マンションの床面積は、共用部分を含める点が見落とされることがあるかもしれない。東京都によると、この床面積はマンションの固定資産税の課税明細書に記載されている課税床面積と原則として同じであるため、これを利用してチェックするといいだろう。