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インタビューInterview

2023年に農業法人5万件へ 会計人に求められる役割とは!?

2016/08/18

森 剛一 税理士・(一社)全国農業経営コンサルタント協会 会長

 農業者の高齢化や遊休農地の増加、TPP参加の行方など、日本の農業は多くの課題を抱えている。こうした状況の中、国としては農業経営の法人化を強力に推進し、農業経営力の向上を目指しているところだ。これから日本の農業はどう変わっていくのか、また、会計人に求められる役割などについて、一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会の会長を務める森剛一税理士に話を聞いた。

――近年、日本の農業を取り巻く環境は、どのように変わってきていますか。
 これまで、国は農業の担い手として集落営農の推進に力を入れてきました。集落営農とは、集落を単位として生産工程の全部または一部を共同で取り組む組織で、いわば『農業の共同化』という点に主眼が置かれていたわけです。しかし、近年になり、国は農業経営の法人化を進める方向にシフトしました。すでに、畜産などは法人化して企業的な経営に乗り出すところも多く、キノコ栽培のような施設型農業、土地利用型の大規模な水田農業なども法人化が進んでいます。こうした法人化を後押しするため、平成28年度予算として「農業経営力向上支援事業」に6.5億円が計上されています。

――農業経営力向上支援事業とは?
 意欲のある農業者が本格的な農業経営者へと成長し、さらなる経営発展を図ることができるよう、法人化の推進や経営の質の向上を支援することを目的とした事業です。具体的には、都道府県段階において法人化推進体制を整備し、税理士や中小企業診断士など法人化・経営継承に関する専門家を派遣するほか、セミナーや研修会の開催、相続窓口の設置などを推進します。また、法人化に要する経費等の支援や、組織的経営力の向上などをサポートしていきます。日本の農業の法人経営体数は、2014年時点で1万5300法人でしたが、同事業によって2023年までに5万法人に増加させることを政策目標として掲げています。

――農業法人を設立するメリットを教えて下さい。
 例えば、農林水産省では、農業・水産業の第1次産業に、食品加工の第2次産業、流通・販売の第3次産業の要素を加えた第6次産業化を推進していますが、実際に農産物の加工販売まで自前で行うとなれば、設備投資などの資金が必要となってきます。融資などを受ける場合、家族経営よりも法人経営のほうが金融機関などに対して信用力が高まります。また、アルバイトやパートであれば、個人経営でも雇うことができますが、正社員を雇用するとなれば、社会保険などが整備された法人でないと、なかなか就職先として考えてもらえないでしょう。こうした人材確保という面でも、農業法人のほうが有利だといえます。さらに、農業者の高齢化にともない遊休農地が増えていますが、こうした遊休農地を引き受けて規模を拡大する場合も、人材がそろった農業法人のほうが適しているといえます。

――遊休農地が増えているということは、農業をリタイアされる方が増えているのでしょうか。
 はい。平成30年までに高齢化などで大量の農業者が急速にリタイアすることが見込まれており、国としても『農地中間管理機構』に農地を貸し付けた場合の贈与税の納税猶予の継続や機構集積協力金の交付など、「平成の農地改革」を強力に推進しているところです。平成28年度税制改正では、遊休農地の借受け・貸付けの橋渡しをする『農地中間管理機構』に遊休農地を貸し出した場合、固定資産税を軽減する措置が盛り込まれました。一方、遊休農地を抱えていたり、耕作を放置しているような場合は、ペナルティとして固定資産税が約1.8倍となります。

――家族経営から脱皮して法人経営を目指す場合、JA(農業協同組合)などがサポートしてくれるのでしょうか。
 JAなどの農業者組織もサポートしてくれますが、農業法人に対する経営のアドバイスや、その後の法人税申告となれば、やはり税理士の出番ではないでしょうか。私が会長を務める一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会には、農業支援のスペシャリストを目指し、100人以上の税理士・公認会計士が会員となって知識やノウハウを習得しています。

――具体的に協会ではどんな活動をしていますか。
 年に3回、農業政策や農業経営の最新情報などをテーマに勉強会を開催しています。農業経営の成功事例なども研究し、関与先へのアドバイスに繋げています。また、新規事業の開拓や設備投資などの資金調達において、農業特有の補助金や助成金などが多々あります。関与先の事業内容などに合わせて的確なアドバイスを提供できるように、単に申請方法を学ぶのではなく、その補助金や助成金が設けられた背景なども勉強しています。そのほか、国内の農業の実情を学ぶため、現地研修を毎年1回実施するほか、数年前からは日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を視野に入れて海外研修を2年に1回行っています。

日本のTPP参加も視野に入れて諸外国の農業の実態をおさえておく

――TPPに参加した場合、日本の農業はどうなると思われますか。
 参加する、しないは別として、これからの時代は自国で得意とするものは輸出するし、そうではないものは輸入するといった国際的な農業の分業が進んでいくと考えます。国際的に競争力が劣るものについては、縮小する方向に進んでいくかもしれませんが、日本ならではのブランド価値を押し出し、伸びていく農作物もあるでしょう。いずれにしても、実際にTPPに参加するとなれば、日本の農業に大きな影響を与えるのは必定です。今後輸出を考えている農業者に対して適切なアドバイスをするためにも、逆に、輸入農産物と競合にさらされる業種がどのように生き残っていくのか、農業者と一緒に考えていく上でも、諸外国の農業の実態や農業政策、消費者の動向などを先行して勉強しておく必要があると思います。

――農業支援に特化している会計人は多いのでしょうか。
 正直、多くないと思います。今から農業支援の特化を目指しても十分ビジネスチャンスに恵まれるでしょう。ただし、1件当たりの単価は高くありませんので、多くの農業者をまとめて支援できるような事務所の態勢作りが重要といえます。もちろん、農業支援を行うための専門知識を身に付けることも不可欠です。

――そのほか、農業者が抱えている課題などがあれば教えて下さい。
 直近の課題としては、マイナンバーの取扱いがあります。中小企業ではマイナンバー対策を講じるところが増えてきましたが、農業法人の中には未対応のところが少なくありません。また、農業者は、消費税の免税事業者が大多数を占めますので、インボイスが導入されれば、農産物の取引から排除されるケースが少なからず出てくると思います。これは非常に大きな課題といえます。さらに、地域によりますが、地方都市の近郊に住んでいる農家などは、土地を資産的に保有している方も多く、相続税対策が必要となってきます。実際、私どもの協会会員にも、農業経営を支援している関与先から相続支援や相続税申告の依頼が寄せられています。

――お話を聞いていると、農業支援の役割を担うのは、やはり会計人が適しているように思います。
 先ほどの第6次産業もそうですが、これからの農業経営には経営者の視点が求められてきます。果樹栽培や野菜栽培のように大規模化があまり適さないものもありますが、個人農家でもインターネットを使って野菜や農作物を直売する時代です。経営力の向上や販路拡大、他社とのマッチングなどは、会計人の得意とするところではないでしょうか。日本の農業を活性化させるためにも、是非、多くの会計人に農業支援のサポーターになって頂き、国が推進する「農業経営力向上支援事業」にも積極的に参画してほしいと思います。

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