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税務の勘所Vital Point of Tax

事業承継税制 「みなし相続の特例措置」を活用した相続税の納税猶予制度の適用

2020/12/08

1.はじめに
 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当し、かつ同法による都道府県知事の認定を受けた会社の株式等を、令和91231日までに、その会社の代表権を有していた被相続人(先代経営者)から相続又は遺贈により取得した個人が、その先代経営者の後継者として一定の要件を満たす場合、その後継者が納付すべき当該株式に係る相続税の納税が、その者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の761項)。これを非上場株式に係る相続税の納税猶予の特例措置(以下「相続税の特例措置」)といいます。

 相続税の特例措置は、事業承継に際し多額の相続税負担が見込まれる中小企業経営者にとって納税資金対策の有力なツールの一つですが、その適用が令和91231日までに開始した相続に限定されるという短所があります。この短所を補い、相続税の特例措置と同様の効果を確実に得るために、①後継者が先代経営者から生前に株式を贈与により取得し、これに係る贈与税の納税猶予の特例措置(以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けた後、②先代経営者の相続開始時に後述3の「みなし相続の特例措置」の適用を受ける、という手法がとられることがあります。以下、この「みなし相続の特例措置」を活用した相続税の納税猶予制度の適用について、その概要と留意点を解説します。

2.贈与税の特例措置の概要
 前述1の「中小企業者」に該当し、かつ都道府県知事の認定を受けた会社の株式を、令和91231日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者(特例経営承継受贈者)として一定の要件を満たす者(以下単に「後継者」という。)に当たる場合、その者が納付すべき当該株式に係る贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の751項)。

 納税猶予税額は、その贈与者の死亡等の事由が生じた場合には、後継者が一定の手続をすることによりその全部又は一部が免除されます(同第11項、措法70条の715項)。

 一方、贈与税の納税猶予税額が免除される時までに一定の事由が生じた場合には、原則として納税猶予期限の確定(猶予の打切り)となり、後継者はその事由に応じた各期限までに、納税猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要があります(措法70条の753項等)。

3.贈与税の特例措置の贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い
 後継者が上記の贈与税の特例措置の適用を受けていた場合に、その納税猶予の打切りの日またはその後継者の死亡の日以前にその贈与者が死亡したときは、前述2のとおり納税猶予とされていた贈与税が免除となります。その一方で、贈与税の特例措置の適用を受けたその株式は、後継者が贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなされ(措法70条の771項)、相続税が課税されます。

 ただし、この取扱いにより贈与税の特例措置の適用を受けた株式につき、相続または遺贈により取得をしたものとみなされた後継者は、一定の要件を満たす場合、その贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、その株式に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、その後継者の死亡の日まで納税が猶予されます(措法70条の781項)。これを「みなし相続の特例措置」といいます。

 みなし相続の特例措置の適用について定める法令等において、贈与税の特例措置に係る贈与者の死亡時期の制限規定はありません。したがって、後継者が贈与税の特例措置の適用を受けている場合は、その特例措置の贈与者の相続開始がいつであっても、つまり相続税の特例措置が期限切れとなる令和1011日以降であっても、みなし相続の特例措置の適用を受けることができます。

4.みなし相続の特例措置の適用を受けるための留意点
 前述3のとおり、みなし相続の特例措置の適用を受けることにより、後継者は相続税の特例措置と同様の納税猶予の適用を受けることができます。ただし、みなし相続の特例措置の適用にあたっては、後継者に関する要件について注意する必要があります。

 例えば、先代経営者から後継者(1人)が贈与により株式を取得する場合、その後継者が、みなし相続の特例措置の適用の前提となる贈与税の特例措置の適用を受けるためには、その贈与の時において次の三要件を満たす必要があります(措法70条の7526号)。

①代表者要件・・・その個人が、その贈与の時において対象となる会社の代表者であること。
②同族過半数要件・・・その贈与の時において、その個人およびその者と一定の特別の関係のある個人や法人(以下「特別関係者」)の有する、その会社の株式の議決権の数の合計が、その会社の総議決権の数の50%超であること
③筆頭議決権数要件・・・その贈与が行われた時において、その個人が有する会社の株式に係る議決権の数が、その個人の特別関係者のいずれの者(その時点で、贈与税又は相続税の特例措置の適用を受ける個人がいる場合はその人を除く。) の有する議決権の数以上であること。

 後継者は、特例経営贈与承継期間*中に納税猶予が打切りとならず継続されるためには、この①~③の要件をすべて満たす必要があります(措法70条の753項、70条の73項)。

*原則、その株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます(措法70条の7527号)。

 特例経営贈与承継期間の経過後は、上記①~③の要件は撤廃され(措法70条の753項、70条の75項)、後継者がこれらの要件を満たさない場合であっても贈与税の納税猶予は継続します。

 
ただし、贈与税の特例措置に係る贈与者が死亡し、後継者がその贈与者に係る相続税について、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始時点において、後継者は前述①の代表者要件、②の同族過半数要件及び③の筆頭議決権数要件を満たす必要があります(措法70条の7821号)。つまり、贈与税の特例措置の適用を受けるための後継者の要件は、特例経営贈与承継期間を経過後に緩和され、①~③の要件がなくなりますが、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始時点で、この三要件を満たしておく必要があるわけです。贈与者の相続開始の時(瞬間)に、後継者が①~③の要件のうち1つでも満たさない場合には、みなし相続の特例措置の適用が受けられず、相続税の納税が必要となりますので、注意が必要です。

アドバイザー/山崎 信義 税理士

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