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分掌変更に伴う退職金の分割支給 国が裁判で控訴を断念した理由

2016/08/09

事件の概要
 同族会社が多数を占める中小企業では、第一線を退いた先代の社長が業務の引き継ぎなどのために監査役や会長職などとして会社に留まるケース(いわゆる分掌変更)は珍しくない。

 東京地裁で争われた事件は、創業者であった社長が、分掌変更により非常勤取締役となったことに伴い支給した役員退職金について、金融機関へ赤字決算書の提出を避けるための方策として分割して支給したことに対して、二回目に支払われた金員(第二金員)が退職給与及び退職所得に該当するか否かが争われたものだ。

 判決では、第二金員も退職給与及び退職所得に該当するとした納税者の主張を認め、納税者が勝訴した。この判決に対して、被告の国側は控訴を断念し、本判決は確定している(東京地裁平成2 7 年2 月2 6 日判決)。

 税理士業界には「分掌変更に伴う退職金の分割支給は、否認されても致し方ない」という見方も一部にはあるだけに、本判決は税務にインパクトを与えているが、一方で「なぜ国は控訴を断念したのか」「税務否認の起因となった通達がなぜ改正されないのか」という疑問の声も広がっていた。

法基通9-2-28の考え方
 本事件の大きな争点が、第二金員について支給年度で損金算入ができるか否かだ。その根拠として焦点となったのが、次の法人税基本通達9-2-28(役員に対する退職金の損金算入の時期)の取扱い。

 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

 本通達で問題となったのが、下線の「ただし書」の部分。 国側は、本通達ただし書きは企業の実情に配慮するため、例外として認めることとしたものであって、利益調整にほかならない支払いについてまで適用することは予定していないと主張。これに対して判決では、分掌変更により実質的な退職状況にある場合であっても「ただし書」部分の適用があると認めた。

 加えて、「ただし書」部分に沿って分割により支払われた第二金員をその支給年度で損金経理した本件処理は、一般に確立した公正妥当な会計慣行とみなし得る、とも判断している。

 つまり、本判決により、分掌変更によって実質的に退職したと認められる者に対する退職金が分割支給となった場合であっても、2度目以降に支払われた退職金はその支給年度で損金経理をすることにより損金算入が認められることが明らかとなったわけだ。

なぜ国は控訴を断念したのか?
 本判決は、分掌変更に伴う分割支給は認められないと考えていた多くの税理士に対して大きなインパクトを与えた。

 だが、解せないのは、なぜ国側は一審で判決を確定させたのか、という点だ。一般的に裁判で上訴を断念するのは、上級審で原審を覆す新たな事実を提出できる可能性が低いと判断したケースだ。

 例えば、本件では、国側が退職金の支給額の決定経緯について、不透明な点があることから債務の確定に至っていないのではないかとの主張をしているが、これについては判決で明確に排斥されている。つまり、国は自らの主張を補強するための新たな事実を見出せないと判断したのではないかと推論できる。

 また、通達9-2-28について、国税庁は「分掌変更であっても実質的に退職しているという事実があるものについて一律に適用がないというものではなく、分掌変更に至った事情や支払時期などを踏まえ利益調整的な要素があるものについてまで認めるものではない」との見方を示していることも大きく作用していると考えられる。

 つまり、これを裏読みすれば、本判決では、利益調整目的の分割払いであるという国側の主張が明確に排斥されており、この点を覆す新たな材料を見出せなかった結果、本通達の趣旨、及び従前からの国税庁の本通達の解釈に対して批判を加えたものではないと整理し、高裁で同様の主張を繰り返すのは無理がある、との判断がなされたのではないだろうか。

なぜ通達の改正が行われないのか?
 「本判決で通達9-2-28に対する国の主張が認められなかったのだから、通達を改正すべきではないか」との意見も聞かれる。

 この件について国税庁は、上記のとおり、判決では本通達に関して内容の変更を迫っているものではなく、また国税庁が従前より行ってきた解釈に批判がされたものではないことから、本判決によって通達を改正する必要はない、との認識を示している。

本判決に基づく税務のポイント
 退職金の分割支給については、課税サイドから「なぜ分割しなければならないか」との疑義がもたれがちだ。というのも、同族会社では多額の生命保険金や土地等の売却に伴う収入があった事業年度に、分割した退職金を支払うケースも散見される。つまり、恣意的に利益調整の具として利用することが可能であり、また実際にそのような例も多い。

 本事件では「退職に際して退職金の全額を支払うことで赤字申告とすると経営に悪影響をもたらす」との納税者の主張に対して、裁判所は妥当とみなしていることからも分かるように、経済合理性があるならば当然に税務否認は回避できる。

 また本判決でも指摘されているように、予め分割支給を行うことを確定していた証拠として退職金の「総額」と「支給期間」を決定しておくことも重要だ。

 支給期間については実務上、一般に「3年以内」とされているようだが、この期間を経過して未払状況が継続していたとしても、経営状況を踏まえて合理的に定められている場合には、認められる余地があると考えられる。いずれにしても、このような場合には、直ちに支払えず分割支給することに至った事情等を疎明資料として残しておくことが賢明であろう。

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