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税務の勘所Vital Point of Tax

「放置」が一番のリスク 空き家問題の課題と対策①

2017/05/29

賃貸住宅の空き家(空室)問題

 空き家の主な問題点としては、①管理や保有に係るコストや税金がかかる、②管理コストを掛けなければ、後々多大な改修又は撤去等の費用が発生する、③地震等による倒壊にともなう人身への損害リスク等がある、④賃貸住宅が空き家の場合には、相続税の財産評価上の不利がある…などが挙げられる。


 中でも、空き家になって困るのは、賃貸住宅といえるだろう。家賃収入が少なくなる一方で、普段の管理にかかるコストは減ることはない。税金のコストもある。固定資産税や都市計画税がそれだ。このほか、設備の修繕や改修の費用は、築年数が経過すればするほど増加する。空室のまま放置していれば、設備等は劣化するばかりで、費用回収の道は遠くなるわけだ。

 オーナーの相続を間近に控えた賃貸住宅については、相続税の問題も無視できない。賃貸住宅は、敷地部分が貸家建付地、建物部分が貸家として、次のように相続税の評価が行われる。

貸家の相続税評価額=固定資産税評価額×((1-借家権割合30%)×賃貸割合))
貸家建付地の相続税評価額=自用地の評価額×(1-(借地権割合30%×借家権割合))×賃貸割合

 
ただし、賃貸の集合住宅で空室がある場合には、全体に占める空室の床面積の割合に相当する分については減額されない。これが賃貸割合である。財産評価の時点である相続の開始時点で空室がある場合には、原則として賃貸割合の計算上、賃貸されていないものとしてカウントされるため、空室は相続税に影響してくるわけだ。

 もっとも、相続開始時点で空室であっても、一定の場合は貸家扱いとされる。たとえば「空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること」(国税庁タックスアンサー)といった場合。

 空室かどうかは、相続前後の事情等により総合的に判断されるが、最近の裁決事例では、共同賃貸住宅で複数の空室があり、相続開始時点の前後で空室期間が最短約5カ月だったケース(平成27年2月17日)、相続開始前後で空室期間が最短約3カ月だったケース(平成27年11月11日)で「一時的に賃貸されていなかった空室」とは認められなかった厳しい事例も出ている。

 「賃貸住宅経営自体に魅力がない」、「経営に時間をとられたくない」ということであれば、物件売却による投資の手じまい、あるいは撤退となる。その場合、物件の現金化を通じて、別の投資を行ったり、相続対策として活用することもできる。

 もし、経営を継続するのであれば、今後その場所で、賃貸住宅の経営を続けて目論見どおりの収益があげられるかどうかを精査する必要が出てくる。その立地の人口動態の傾向を調べて今後の入居の可能性を予測するほか、実際に立地付近を歩いてみれば、賃貸住宅の供給状況や競争相手も見えてくる。新たに賃貸住宅が供給されている立地であるのか、そうでないのかを見るだけでも、その立地に対するニーズの一端が分かるはずだ。

 また、節税を意識した借入金を利用した賃貸住宅経営では、10年目頃から賃料の下落と減価償却の進み具合等から、節税効果が薄れてくるケースも少なくない。今後、再投資をするかは、近隣のマーケット動向を踏まえつつ、手堅いシミュレーションによる投資回収リスクの検証が必要となるだろう。(つづく)

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