日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

税務の勘所Vital Point of Tax

判例から学ぶ税理士損害賠償請求 ~その3~

2019/02/20

税理士が調査を怠り、消費税課税事業者選択届出書を提出すべき時期に提出しなかったことが不法行為に該当するとされた事案
東京地裁 平成24年12月27日判決(税理士敗訴)


(1)事案の概要
 本件は、依頼者Xが税理士Yに対し、税務書類の作成等を委任したところ、Yが調査を怠り、消費税課税事業者選択届出書を提出すべき時期に提出しなかったことにより、消費税、過少申告加算税及び延滞税を納めざるを得なかったとして、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償を請求したという事案です。

 裁判所は、Xの誤った説明を軽信して適切な時期に消費税課税事業者選択届出書を提出しなかったYには過失があったとして、不法行為責任を認めXの請求をほぼ全額認めました。

(2)裁判所の判断  過失の有無(肯定)
 「税理士は、委任者の説明に基づき、その指示に従って申告書等を作成する場合にも、委任者の説明及び指示のみに基づいて事務処理を行えば足りるというものではなく、税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負う」。

 「Xは、Yに対し、給与及び株式譲渡による収入(略)以外の収入はないと説明したことが認められる一方、Xは、Yに対し、A社を実質的に経営していることを告げており、また、Yは、A社の本店所在地とXの自宅住所地が同じであることを認識していた」という事実からすれば、「税務の専門家であるYにとって、Xが自宅をA社に賃貸することによって賃料収入を得ている可能性があることは、容易に推測可能であったというべきである。そして、委任者であるXに問い合わせれば、同賃料収入の有無を確認することができる上、…Yは、A社についても税務代理業務等の委任を受け、その資料として、A社のXに対する賃料の支払が記載された本件経理データを受領し、これを基に本件決算報告書を作成しているのであるから、Xの賃料収入の有無について調査をすることは、より容易であったものと認められる。そして、Yが上記のような調査を行っていれば、上記Xの説明が誤りであり、Xに賃料収入があることを確認することができた」。
 「Yは、わずかに一度、給与以外の収入がないかどうかXに確認したのみで、A社からの賃料収入の有無等について説明を求めることもなく、Xの誤った説明を軽信して、平成21年2月16日頃になってから課税事業者選択届出書を提出したものであるから、Yには過失があったということができる。」

(3)予防策
 上記(2)で判断されているとおり、依頼者は、税務に関しては素人であると考え、「税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負う」ことを前提に行動する必要があります。

 この考えは、裁判所の本件委任契約における免責条項(委任業務の遂行に必要な説明はXの責任において行わなければならず、Xの説明の誤りに基づく不利益は、Xが負担する旨の条項)の適用範囲の解釈にも表れており、本件では、「委任者の説明が誤っている可能性を認識することができ、その誤りの有無を調査することが可能であったものであり、このような場合についてまで、税理士である被告を免責するのが上記契約条項の趣旨であるとは到底解されない」と判示しています。

 アドバイザー/堀 招子 弁護士

PAGE TOP