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税務の勘所Vital Point of Tax

判例から学ぶ税理士損害賠償請求 ~その4~

2019/03/01

契約書の存在しない顧問契約における受任範囲と善管注意義務の内容(粉飾事案)
東京地裁 平成25年1月22日判決(税理士勝訴)

(1)事案の概要
 税理士Yに対し税務代理業務等を委任していたXが、Yに対し、Xにおいて利益を過大に計上する不正経理がされたところ、Yが委任契約に基づく善管注意義務に違反しあるいは不法行為(使用者責任)により、上記不正経理を是正せずに税務申告手続をしたため、Xが過大な法人税等を支払わざるを得なかったとして、債務不履行等に基づく損害賠償を請求したという事案です。

 裁判所は、Yの受任の範囲に原始資料から会計帳簿を作成する業務が含まれていたとはいえないなどとして、請求を棄却しました。

(2)裁判所の判断
①本件委任業務の内容
 本件では委任契約書がなかったところ、裁判所は、本件委任契約の内容につき、「会計顧問の業務」が含まれていたと認定したうえで、会計顧問業務の内容を判断するにあたり、次のように述べました。

 「会計顧問の業務は、税理士法2条2項が定める付随業務に含まれると解されるところ、その業務内容について一般的に規定する法令や定まった解釈が存在する訳ではなく、その業務内容は契約当事者間の合意により個別に決定されるものというべきである。したがって、Yが会計顧問であることから、直ちに、原始資料に基づき仕訳伝票をチェックする業務が委任業務に含まれていたということはできない。また、会計帳簿の記帳代行業務が本件委任契約の委任業務に含まれているとしても、そのことから直ちに、その前提として原始資料に基づいて仕訳をして会計帳簿を作成する業務、あるいは、原始資料に基づき仕訳伝票をチェックする業務までが委任業務に含まれていたということはできず、これが含まれていたか否かは、やはり契約当事者間の個別の合意の内容によるものというべきである。」

 そのうえで、「本件委任契約締結時の関係者間のやりとり」、「Xにおける原始資料からの仕訳伝票作成とYの委任業務遂行の状況」から、「本件委任契約締結に際し、XY間において、原始資料から仕訳を行う業務までを委任業務に含める旨の合意が成立したものと推認することはできず、原始資料からの仕訳はXが行うものとの合意が成立したものと推認せざるを得ない」、「…XがYに仕訳の基となる原始資料を預けることはなかったこと、Yが原始資料を直接確認する作業を行っていないことについてXが異議を述べたことはなかったことから、本件委任契約締結に際し、XY間において、原始資料に基づき仕訳伝票をチェックする業務までを委任業務に含める旨の合意が成立していたと推認することもできない」と認定しました。

②注意義務の内容
 「本件委任契約の委任業務に、原始資料から会計帳簿を作成する業務、あるいは、原始資料に基づき仕訳伝票をチェックする業務が含まれていたとはいえないから、本件委任契約上のYの善管注意義務には、Xが作成した仕訳伝票あるいは仕訳データの基となった個別の取引の実在性、個別の資産あるいは負債の実在性等を原始資料に当たって精査すべき義務は含まれていなかったものというべきである」と判断しました。


(3)予防策
 本件は契約書が作成されていない中、委任業務の内容等が争われた事案でした。(2)①記載のとおり、受任業務の内容は契約当事者間の個別の合意により決まることから、契約書の作成が重要です。裁判所により、結果として、実際の合意内容どおりの事実認定がなされたとしても、そこに至る時間と労力そのものが損害ともいえます。重要事項である委任業務をはじめ、各条項につき誰がみても一義的に解釈できる契約書を作成することが肝要です。

 また、いわゆる、不正是正義務等が問題となる場合は、原始資料を直接確認する業務を受任していたか否かが問題となることが多いように思います。したがいまして、原始資料に当たらない場合は、受任業務についての条項でそれとわかる記載をすることが有益と考えます。

 アドバイザー/堀 招子 弁護士

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