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税務の勘所Vital Point of Tax

アメリカを中心とする国際的な相続手続のポイント

2024/05/09

 最近増えている国際的な相続では、日本の相続法と相続税法だけでなく、外国の相続法と相続税法の知識や、これらとの調整が必要となります。今回は、アメリカにある財産を日本居住の相続人が相続する場合に知っておくべき留意点をQ&A形式でご紹介いたします。

Q1 アメリカにある遺産を相続するには「プロベート」という手続が必要と聞きましたが、具体的にどのような手続でしょうか。

 日本では、遺言がある場合には遺言に基づいて、遺言がない場合は相続人全員による遺産分割協議に基づいて、裁判所や公証人の関与なく相続手続を進めることができます。一方、アメリカでは遺言の有無にかかわらず、また相続人間の争いの有無にかかわらず、原則として全ての相続手続が、裁判所が関与するプロベートを経ることになります。

 プロベートの申立てがあると、裁判所は、遺言がある場合は遺言の定めに基づいて遺言執行者(Executor)を、遺言がない場合は、通常は相続人の中から遺産管理人(Administrator)を選任します。遺言執行者や遺産管理人は、相続人や相続財産・相続債務の調査を行い、相続債務の支払いや税金の申告・納税を行い、残った残余財産を法定相続人や受遺者に分配します。なお、アメリカは連邦制度を採用しており、相続法の内容や手続は州ごとに異なります。

 プロベートには、遺言や遺産の内容が公開されてしまう、相続財産の分配までに時間と手間と費用がかかるといったデメリットがあります。そこでアメリカでは 、信 託(Trust)、共有名義口座(Joint Account)、合有財産(Joint Tenancy)、死亡時承継人指定登録(Transfer-on Death: TOD)といった制度を利用して、財産をプロベートの対象となる遺産から除外し、プロベート外で名義変更できるように相続対策をすることが一般的となっています。

 なお、単独名義の銀行預金の場合でも、プロベートを経ずに日本へ送金できることもありますが、金融機関によって対応は異なり、ケースバイケースでの対応となります。

Q2 海外遺産を相続する場合の日本の相続税計算のポイントは何でしょうか。

(1)納税義務

 世界の相続税制度には、日本のように相続人に課税する相続税(Inheritance Tax)と、アメリカのように被相続人(遺産)に課税する遺産税(Estate Tax)があります。 
 日本の相続税の納税義務は、相続人や被相続人の相続開始時及び相続開始前10年以内の住所や日本国籍の有無、在留資格などによって分類されます。日本居住の日本国籍である相続人は「居住無制限納税義務者」として、相続した全世界の遺産が相続税の課税対象となります。

(2)海外の相続財産の評価

 海外の相続財産も、原則として「財産評価基本通達」に定める評価方法により評価しますが、アメリカには路線価がないため、宅地等については、売買実例価格や精通者意見価格(不動産鑑定士による評価価格)等に基づいて評価します。
 小規模宅地等の特例は、相続人や被相続人が外国籍や外国居住でも、また宅地等が海外にある場合でも、要件を充たせば適用されます。

(3)相続人の数

 法定相続人や法定相続分は、適用される国の相続法によって大きく異なります。日本では「被相続人の本国の相続法」が準拠法となるのが原則ですので、被相続人が外国籍の場合、原則として、当該外国の相続法による法定相続人や法定相続分に基づいて、日本でも相続手続が進められます(被相続人が外国籍でも「反致(はんち)」が成立する場合は日本法が準拠法となりますが、複雑ですので説明は省略します。)
 もっとも相続税の計算上、基礎控除額、生命保険金や死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の計算において用いる「相続人の数」は、外国の相続法が準拠法となる場合でも、日本の相続法による法定相続人の数を用います。
 日本人が自己の意思で外国籍を取得した場合、日本国籍を自動的に喪失しますので(国籍法11条1項)、その結果、準拠法が変わってしまい、法定相続人や法定相続分が変わってしまうことがあるので注意が必要です。

(4)外国税額控除

 アメリカで申告・納付した連邦遺産税は、日本の相続税の外国税額控除の対象となります。納付先、納税義務者、納税額、納付時期等が分かる納税申告書の控えや納税記録等が根拠資料として必要となります。

Q3 日本の相続税の納税資金を、アメリカから送金してもらうことは可能でしょうか。

(前述のQ1の回答で述べた通り)プロベートは裁判所の監督のもと行われる手続であるため時間がかかり、遺産の分配までに数年を要することも珍しくありません。日本の納付期限に間に合うように、事前に相続税納税資金をアメリカから送金できるかはケースバイケースです。

Q4 アメリカの遺産税はどのように計算されますか。

 アメリカには連邦遺産税と、州によっては州遺産税(もしくは州相続税)があります。連邦遺産税は連邦贈与税と統一されており、原則として、被相続人の出生から死亡までの無償譲渡累計額を対象に、連邦遺産税を計算する制度となっています。

 アメリカの基礎控除額(統一移転税額控除額)は日本と比べて極めて高額です。またアメリカの配偶者控除には、日本と異なり上限額がありません。ただ、高額な基礎控除は、被相続人がアメリカ市民かアメリカ居住外国人であることが条件となりますし、無制限の配偶者控除も、生存配偶者がアメリカ市民であることが条件です。アメリカの統一移転税率(遺産税率)は低いとは言えず、たとえば100万ドルを超える部分は40%になります。

 アメリカ非居住外国人が被相続人の場合、アメリカの銀行預金などは連邦遺産税の課税対象から除外されますが、基礎控除額は6万ドル(税額控除額は1万30000ドル)に過ぎません。もっとも、日米相続税条約によって、アメリカ市民に適用される基礎控除額のうち「アメリカ所在の遺産の価額/全世界の遺産の価額」の割合に相当する額を、連邦遺産税の計算上、基礎控除額とすることが可能です。

Q5 アメリカ所在の相続不動産を売却した場合の注意点を教えてください

 相続により取得したアメリカにある不動産を相続人が売却する場合、日本では、被相続人の不動産取得価格を相続人が引き継ぐため、譲渡所得が発生することも多いでしょう。一方、アメリカには「ステップ・アップ」という制度があり、相続開始時の時価が取得価格となるため、相続後すぐに相続財産を売却する場合、譲渡所得が生じることは多くありません。そのため日本では譲渡所得が発生し、申告・納税が必要となることを、アメリカの専門家は理解していませんので、所得税の申告に必要な資料を外国から入手するためには、丁寧な説明が必要となります。また、日本への送金時の、為替変動による為替差益にも注意が必要です。

Q6 アメリカにおける遺産の受取りに際し、気を付けることはありますか。

 アメリカでは現在も小切手が多用されており、プロベートの終了後、遺産財団の管理口座から各相続人宛てに小切手が振出されることもあります。しかし、日本では現在、外国小切手の換金を受け付ける銀行はほとんどありません。そこで遺産の受取方法についても、事前に現地の代理人弁護士らと調整を行うことが必要です。

アドバイザー/西原 和彦 弁護士(日本・ニューヨーク州)  阪口 英子 弁護士

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