最近の資産税調査 追徴税額を意識してターゲット絞り込み
2022/03/01
国税の相続税等資産税の調査は、コロナ禍にあって実地調査件数を増やせない状況に追い込まれている。しかし、ここ数年、国税当局は調査件数の積み上げを追わず、実地調査1件当たりの追徴税額(申告漏れ部分の本税+加算税)の増加などを意識したターゲットの絞込みを積極的に行い、深度ある調査を展開し、それが実績にも表れている状況だ。
国税当局の資産税調査に対するスタンスは、先日公表された調査事績の次の文章で明らかだ。「相続税の実地調査については、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案など、大口事案や悪質な不正が見込まれる事案について、実地調査を実施しています」。
このことは、最新の内部資料(資産課税課の事務運営方針)でも確認できる。そこには「真に調査すべき納税者への重点化を更に推進するため、追徴税額を意識した調査優先度判定を実施するとともに、大口事案や悪質な不正が見込まれる事案に対して優先的に調査事務量を確保し、深度ある調査を実施する」ことが明記されている。
ターゲットの絞込みは、まず申告書やその他関係者の課税事績、蓄積資料から調査対象を大まかに抽出し、問題となるポイントを整理。次に、実地調査対象に選定するかどうかも含め、事案に即して問題点となる事項のほか、そのほかの資産についてもチェックを行う。その際には、逆に財産評価が下がるなど税額が減額となるケースはないかも入念にチェックされる。こうして追徴課税にフォーカスしてターゲットを選定している模様だ。
一方で、国税当局は「より階級の高い事案に調査事務量を投下する観点から、低階級事案に対する調査に当たっては、悪質な不正や多額の追徴税額が見込まれるなど真に調査すべき事案を除き、机上調査(実地調査以外の調査)による効率的な処理に努める」としている。要約すれば、①実地調査は追徴税額重視のターゲットに絞込み、大口悪質事案を優先、②①以外は机上調査で処理する、という2点になる。
国税当局の調査の狙いがデータからも浮き彫りに
最近の「相続税の調査等の状況」(いわゆる相続税調査事績)を国税当局の内部資料「資産税事務処理状況表」で補完すると(表1)のようになる。国税当局の「より階級の高い事案に調査事務量を投下する」とのスタンスがはっきりするデータになっている。
表1のとおり、1億円未満の実地調査件数は大幅に減少しているものの、3億円以上の調査件数の減少はそれほどでもない状況だ。
最新の令和2事務年度(令和2年7月1日から令和3年6月30日)のデータが公表されたが、1件当たりの申告漏れ課税価格や1件当たりの追徴税額は、目に見えて増加している(表2)。これは調査件数自体が半減しているのと対照的で、当局の調査の狙いが有言実行されていることが分かる。
無申告や海外資産などは情報収集の取組みを強化
重点的に調査しているのが、無申告事案や海外資産関連事案と呼ばれるものだ。国税当局の資料によれば「無申告事案への対応に当たっては、各種資料情報を活用するなどして積極的な把握に努めるとともに、把握した無申告事案については、原則として文書照会(行政指導)を活用することにより効率的な処理に努める。また、多額の追徴税額が見込まれるものは必要な調査事務量を優先的に確保した上で調査を実施するなど無申告事案への取組を強化・徹底する」としている。文書照会は、事業者からの情報提供なども視野に入っているものと見られる。
一方、海外資産関連事案への取組みについては、事案の「的確な把握・調査国外送金等調書、国外財産調書及びCRSに基づく自動的情報交換資料等を活用し、海外資産関連事案を的確に把握する。特に、CRSに基づく自動的情報交換資料については、局において、他の資料情報等とも併せてデータマッチングと分析を行い、署に対して情報提供等を実施するとともに、署においては、課税上の問題が認められる場合には確実に調査等を実施する」としている。
また「海外取引・海外資産に係る資料情報の収集等効果的・効率的に海外取引や海外資産の保有状況を把握するため、有効な資料源の開発に努める」としており、取組み全体として「情報戦」の様相を深めている状況だ。
実際、海外資産に関する調査では、外国語堪能な調査官がインターネットなどで取引先や仲介先の企業を捜し、物件についての情報やその所有者情報を収集している事案がある。国税当局は、こうした人材を中途採用などで充実させる一方、研修などによって調査の底上げを図っているものと見られる。