特許法改正で「使用者原始帰属制度」を導入 従業員等への補償金は「雑所得」
2017/02/28
平成27年の特許法の一部改正によって「使用者原始帰属制度」が導入された。これは、発明者(従業員等)の職務発明による特許を受ける権利を使用者に原始的に帰属させる制度で、平成28年4月1日から施行されている。
この「使用者原始帰属制度」を導入した企業から、発明者(従業員等)に支払う「相当の利益」に係る税務上の取扱いについて事前照会があり、名古屋国税局はこのほど文書回答を公表した。
そもそも改正前の特許法における職務発明制度では、特許を受ける権利は、発明者(従業員等)に原始的に帰属し、使用者等は、特許を受ける権利について、事前に定めた契約・勤務規則等により、従業員等から承継できるものとし、使用者等が特許を受ける権利を承継した場合には、従業員等は「相当の対価」の支払を受ける権利を有するとされていた。
改正後の使用者原始帰属制度では、従業員等の職務発明について、契約や就業規則などであらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、特許を受ける権利は、その発生時から使用者等に原始的に帰属し、従業員等は、使用者等から「相当の利益」の支払いを受ける権利を有することとされた。
照会者(A社)は、使用者原始帰属制度を導入。自社の職務発明規定等の見直しを行い、発明者(従業員等)には「相当の利益」として各補償金(出願補償金、登録補償金、実績補償金、譲渡補償金)を支払うこととした。なお、補償金の支払を受ける権利は、発明者(従業員等)が退職した後も存続し、発明者(従業員等)が死亡したときは相続人が承継する。
事前照会があったのは、この各補償金の税務上の取扱いについて。現行の所得税基本通達では、使用人が発明等により支払いを受ける報償金等について、特許を受ける権利の承継の際に一時に支払いを受けるものは譲渡所得、承継後に支払いを受けるものは雑所得としている。
本件各補償金は、従業員等からA社への特許を受ける権利を移転させることで生じるものではないので譲渡所得には該当しない。また、本件各補償金は、「発明者」としての地位に基づいて支払われ、発明者(従業員等)が死亡した場合は相続人に継続して支払われるため給与所得にも該当しない。また、臨時・偶発的な所得である一時所得にも該当しない。そうすると、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれの所得にも該当しないことから雑所得に該当すると判断。
また、源泉徴収の要否として、本件各補償金は、工業所有権等の使用料として源泉徴収の対象となる報酬・料金等に当たるとも考えられるが、本件各補償金は発明者(従業員等)が特許権を有しない状態のもとで「相当の利益を受ける権利」に基づいて支払いを受けるもので、使用料とはいえず、所得税法第204条第1項第1号(源泉徴収義務)に掲げる報酬・料金等に該当しないので、源泉徴収をする必要はないとした。
さらに、消費税の取扱いについては、本件補償金は、発明者(従業員等)から特許を受ける権利を譲り受けるなど何らかの資産の譲渡等を受けることの対価として支出するものではないため、消費税の課税の対象とはならないとの見解を示した。
そのほか、A社は法人にかかる法人税の取扱いについても事前照会を行っているが、照会があったすべての取扱いについて、名古屋国税局は、「照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えない」と回答。ただし、「照会に係る事実関係が異なる場合又は新たな事実が生じた場合は、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがある」とした。