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税務の勘所Vital Point of Tax

相続直前の不動産購入に通達6項を適用 審判所 税務署の追徴課税を支持

2025/10/29

 相続開始直前に高額借入れで不動産を購入し、相続税の節税を図ったところ、税務署が財産評価基本通達6項を適用して相続税の追徴課税を行ったことで争いが起きた(国税不服審判所裁決・令和7年1月10日)。国税不服審判所は、令和4年の最高裁判決の考え方を踏まえ、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があると判断、税務署の処分を支持している。

事案の概要
 病院に入っていた被相続人は、相続が開始する3か月ほどの間に、約15億円の借入れで5件の不動産を購入した。購入金額、借入金額、納税者申告時の財産評価基本通達(以下、評価通達)の評価額(以下、通達評価額)、税務署の鑑定評価額は(表)のとおり。

 相続人3人は、平成31年に本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、法定申告期限までに相続税申告を行った。その際、不動産の評価額は通常の評価通達通りで合計約3億8千万円とした。そして、申告から3年後となる令和4年、相続人らはこれら不動産を売却等するとともに債務を返済した。

 ところが、税務署は令和5年になって相続税負担の軽減が著しいとして、不動産鑑定書を基に評価通達6項の適用を国税庁長官に上申。長官の指示を受け、税務署は相続人らが約3億8千万円と評価した不動産について、鑑定価額約13億8千万円と再評価し、相続税の増額更正処分をした。

 これに対して相続人は、税務署の更正処分等を不服として審判所に審査請求していた。

評価通達6項とは
 相続税の計算に当たり、相続財産の金銭的価値を見積もる評価の方法については、国税庁が簡便な見積もり方法で、かつ公平性を保てるようルール(評価通達)を定めている。ただし、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情が認められる場合には、例外的に評価通達とは別の方法で評価することが評価通達の中で決められている。それが「評価通達6項」だ。

 この6項を巡っては令和4年4月19日に、最高裁がその適用にあたって考慮すべき上記事情の考え方を深め、新たな判決を下している。以降、6項発動件数が令和7年6月末までに19件と増加。相続税の節税動向を巡る状況が一変した。本裁決も、最高裁の令和4年判決の影響下のもと、下されたものだ。

 争点は、評価通達どおりに評価することが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるか。これについて相続人は、次のように主張した。

①被相続人は、遅くとも平成29年6月頃には、自身の財産形成のー環として不動産の購入を決断しており、不動産の取得・借入れも、被相続人が単独で決断している。相続人の一人は被相続人からの指示に基づきその代理人として諸手続を行ったにすぎない。

②仮に、不動産の取得・借入れが租税負担の軽減を意図して行われたものであったとすれば、相続の開始後、可及的速やかに不動産を売却して現金化を図るのが自然かつ合理的。しかし請求人らは、相続税の調査が開始した令和2年11月27日に至っても不動産をいずれも売却しておらず、また売却する予定もなかった。従い不動産の取得、借入れは請求人らの租税負担の軽減を意図して行われたものではない。

 上記②の主張は、平成4年3月11日の東京地裁判決を下敷きにしたものと見られる。同判決は、相続直前に約8億円の借金で約7億5千万円のマンションを購入し、相続税申告直後に相続人により約7億7千万円で売却、借入れが返済されたケースで評価通達6項の適用が是認された事例だ。

審判所の判断
 審判所はまず、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるかどうかの判断に当たり、相続人らの租税負担の軽減の程度について、不動産取得・借入れが行われなかった場合に比べ、本件は相続税の負担は著しく軽減されることになったと指摘。

 次に審判所は、(1)被相続人が集中治療室で治療を受けていた平成29年12月末頃においては、被相続人の相続が近い将来発生することを予想していたものと推認されること、(2)被相続人の相続が近い将来発生することが予想された平成29年12月末以降約3か月間に、上記不動産取得・借入れが急いで進められたと認められること、(3)相続人の一人が上記不動産取得・借入れに積極的に関与していたことなどを認定・指摘した。

 これを踏まえ審判所は「近い将来発生することが予想される被相続人の相続において請求人らの相続税の負担を減免させるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて企画して急ぎ実行されたと認められるから、( 上記不動産取得・取得・借入れは)請求人らの租税負担の軽減をも意図して行われたもの」と判断。「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある」として評価通達6項の適用を認めている。

 さらに審判所は相続人の主張について、次のように指摘している。

【主張①について】
租税負担
の軽減の意図は、他の意図・目的とも併存し得るのであるから、仮に被相続人が自身の財産形成の意図を有していたとしても、不動産取得・借入れが相続人らの租税負担の軽減をも意図して行われたものであって、不動産について評価通達どおりの評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるという上記判断を左右するものではない。
【主張②について】
相続人ら
が相続開始後、不動産を売却していないとしても直ちに不動産取得・借入れが租税負担の軽減を意図して行われたものではないことを推認させる事情とはいえない。

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