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税務の勘所Vital Point of Tax

税理士が財産の確認を再三依頼 事実を告げない納税者に重加算税

2021/10/29

 相続税申告を依頼した税理士から申告書作成時に何度も預金の確認を求められていたにもかかわらず、2千万円余りの預金を故意に知らせなかったとして、重加算税が課税された国税不服審判所の裁決が明かになった(令和3年2月16日裁決)。

 裁決書によると、母の死亡による相続で、父からの一次相続で母が継いだ財産を請求人Aが全部相続した。Aはその直後の平成29年5月、B銀行に問題の預金2千万円余りがあることを確認していた。

 同月、Aは税理士法人に申告を依頼。翌月、担当税理士はAから一時相続(父からの相続)で作成された相続税試算表を受け取り、Aに対して7つの取引金融機関に預金等の存在を確認の上、通帳・残高証明書の提出をするよう指示した。同年7月、AはB銀行の問題の預金につき、相続・解約手続をしてA名義の預金口座に入金させ、担当税理士には問題の預金以外の3行の通帳・残高証明書などを提出した。

 同年9月、担当税理士はAに対して父の相続税試算表に記載の金融機関を示し、通帳等の提出のない金融機関について確認するよう依頼した。
 平成29年11月頃までの間に、担当税理士はAに対して、電話で、あるいは直接会った機会に合計5~6回程度、父の相続税試算表に記載された金融機関のうち、まだ資料が提出されていない金融機関への確認の有無などを尋ねた。このうち1回、Aは「確認したが、なかった」と回答した。

 平成30年2月、担当税理士はAに対し、申告書原案の「相続税がかかる財産の明細書」と父の相続税試算表を並べ、Aから提出された資料と照らし合わせながら財産について説明した。Aはリゾートマンションの記載漏れを指摘した以外、記載漏れはない旨回答した。

 審判所は、前記の認定事実から次のことを指摘した。

①Aが問題の預金を相続開始直後に確認し、預金の存在を認識していたにもかかわらず、担当税理士にその資料を交付していないこと

②平成29年9月の担当税理士からの預金の有無の確認依頼に対しても、すでに問題の預金の把握していた事実を告げていないこと

③同年8月または9月の確認から同年11月頃までの間に、担当税理士から合計5~6回程度、資料の提出がされていない金融機関の預金の有無を尋ねられ、確認したがなかった旨の客観的事実と異なる回答をし、その後も担当税理士から追加で把握した預貯金の有無や金融機関への確認の有無を改めて尋ねられても、問題の預金の存在を告げることなく、その都度、ない
旨の回答に終始していること

④平成30年2月2日または同月6日、担当税理士から、相続財産の記載漏れがないか確認を受けた際にも、問題の預金の記載漏れを指摘していないこと

 審判所は、これらのAの行為は「預金の存在を秘匿したものといえ、(重加算税が課税される場合の「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実として)“当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたもの”と認められる」と判断した。

 注目したいのは、税理士の再三にわたる確認作業とその過程を事実として審判所に認めさせる用意をしていた点だ。こうしたやり取りは「いった」「いわない」の曖昧な問題になりがちだが、この事例では、クライアントへの繊細な対応が要求される中で、念入りな姿勢でことに当たり、審判所に認めさせる証拠等を用意したものと推察される。

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