日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

税務の勘所Vital Point of Tax

判例等からひもとく交際費の基礎的知識

2021/12/16

はじめに

 法人税上の交際費等は「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」(措置法61の4 ④)をいいます。
 昭和29年に創設された交際費課税の理由としては、①冗費・濫費の抑制、②現物給与の代替課税、③懲罰的課税(社会的な批判)、そして④資本の充実が挙げられています。
 これらの理由によって、交際費は、本来は費用性を有するものです(所得税は必要経費として認められています)が、法人税ではその全部又は一部を損金算入できないようにしています。
 交際費については、納税者と課税庁の間では、その隣接する費用との区分の争い(判例・裁決)が多くあります。また、交際費の範囲についても、社会における交際費の認識と法人税でのそれとは異なっています。本稿では、交際費の基本を理解するために、過去に争われた交際費の判例・裁決を中心に検討したいと思います。

1.交際費課税の要件

 交際費課税の要件の学説としては、次の(表)のように「旧二要件説」「新二要件説」そして「三要件説」があります。なお、新二要件説は、目的が取引先との関係の円滑化であれば交際費に該当するため、旧二要件説よりも交際費の範囲は広いとされ、三要件説は、新二要件説に「行為の形態」を追加したものを要件としています。
 製薬会社が負担した英文添削の差額費用が交際費に該当するか否かについて争われた萬有製薬事件があります。「東京地裁平成14年9月13日判決」は、新二要件説を採用し、交際費に該当すると判断しましたが、「東京高裁平成15年9月9日判決」では、三要件説を採用し、「行為の形態」を要件とすることによって、その支出内容を限定し、「英文添削の差額費用」は交際費に該当しないと判示しました。

2.交際費の行為とは

 記念行事を開催する主催者に接待客が「祝金」を渡した場合、主催者が受け取った「祝金」をその行事費用と相殺して、交際費処理をすることは、認められず、祝金と行事の開催に係る交際費との関係は、同一の機会に行事の主催者と招待客との2つの交際行為を行い、それぞれが交際費を支出したという関係にあるとの「東京地裁平成元年12月18日判決」があります。すなわち、下の(図)に示されているように、交際費の計算においては、記念行事費用から受け取った「祝金」は控除できないという「原処分庁の主張」が認められました。

3.従業員の慰労と交際費

 「事業に関係のある者等」には、直接その法人の営む事業に取引関係のある者だけではなく、間接にその法人の利害に関係ある者及びその法人の役員、従業員、株主等も含まれます(措置通61の4(1)-22)。従業員の慰労のために支出した酒食の提供費用は、交際費に当たるとする、次の「神戸地裁平成4年11月25日判決」があります。

 「法人がその従業員の慰労のために費用を支出した場合も、(旧)措置法62条に定める交際費等に当たることがありうるのであり、本件支出は、従業員の慰安のために支出した費用であるから、(旧)同条3項括弧書きの旅行費用等に当たらない限り、交際費等に当たるということができる。」
 また、法人が従業員等の慰労のために忘年会等の費用を負担した場合、社員の福利厚生のために法人が費用全額を負担するのが相当であるものとして通常一般的に行われている程度のものである限りその費用は交際費に該当しないが、その程度を越えている場合にはその費用は交際費に該当するという「東京地裁昭和55年4月21日判決」もあります。

 これらの判例からも分かるように、税法上の交際費の範囲は、社会において認知されている交際費よりも、広く解されていますから、注意しなければなりません。

4.無償交付の優待券と交際費


 法人が無償交付した優待入場券について、現に使用されている遊園施設への入場等がされたときに、その者に対し、当該法人の提供する役務に係る原価のうちその者に対応する分につき費用の支出があったものと認められた「東京高裁平成22年3月24日判決」があります。しかし、無償交付した優待入場券について、わざわざ原価を計算し、それに対応する部分を交際費として課税することに対しては、批判があります。例えば、私鉄は、一定数の株式数を保有している株主に対して、フリーパスである「株主優待乗車証」等を配布していますが、私鉄に対して、「株主優待乗車証」等のコストを別個に計算して、それを交際費として課税するということはしていません。

5.支出金額の多寡と交際費

 措置法施行令37条の5第2項1号では「カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用」については、交際費から除かれています。この規定を受けて措置法通達6 1の4(1)-20「『これらに類する物品』とは、多数の者に配布することを目的とし主として広告宣伝的効果を意図する物品でその価額が少額であるものとする」と規定されています。従って、税法が想定している「物品を贈与する広告宣伝費」とは、カレンダー、手帳、扇子などで、通常のものであれば、一般に金額も高くなく、それ以外の物品でも明確に「その価額が少額であるもの」と限定していることから、交際費の判断基準として支出金額の多寡があると思われます。これに関して、クラブを経営する請求人(納税者)が特定の顧客等に対して美術書を贈与したことに対して、交際費か広告宣伝費かで争われた「昭和53年12月14日裁決」があります。
 「本件美術書は、出版先に依頼して送付したものであり、カレンダー、手帳等に類する少額の物品と認められない贈呈品であるから、本件費用は、措置法施行令37の5(交際費等の範囲)に規定する交際費等から除かれる費用には該当しない。」
 なお、売上割戻し等と交際費の区分について、交付する物品の費用が少額(おおむね3,000円以下)である場合には、交際費に該当しないと、具体的な金額基準が措置法通達61の4(1)-3 で規定されています。

6.社葬費用・香典と交際費

 役員又は使用人が死亡したため社葬を行い、その費用を負担した場合において、その社葬を行うことが社会通念上相当と認められるときは、その負担した金額のうち社葬のために通常要すると認められる部分の金額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。そして、会葬者が持参した香典等を法人の収入としないで遺族の収入とすることもできます( 法基通9-7-19)。この場合、遺族に対して「一時所得」になる可能性があります。
 なお、「おとき」に要した費用は、交際費として取り扱われたとする、次の「昭和60年2月27日裁決」があります。
 「請求人の前代表者の死亡による社葬費用を法人の損金に算入することは妥当であるが、葬儀に引き続き場所をホテルに移して行った『おとき』は、死者に対する追善供養を目的とする法会の一環であり、主として請求人の取引先の者に飲食を供したものであるから、それに係る費用を社葬費用に当たるものとみることはできない。したがって、『おとき』にかかる費用のうち、取引先の者を対象とするものは交際費、また現代表者の親族、友人を対象とするものは現代表者個人の負担とするのが相当である。」

おわりに

 交際費の本質は、「個人の消費欲を満足させる支出」です。そして、消費欲を満足させることによって、その個人の努力を期待する支出が交際費なのです。従って、交際費として処理されていなくても、その実質的な内容が「個人の消費欲を満足させる支出」であれば、広告宣伝費、福利厚生費、売上割割戻し、寄附金などの勘定科目に関係なく、交際費に該当することになります。交際費の支出の内容について争われ、不服申立て、訴訟までいった多くの裁決・判例があります。本稿では、その一部を紹介したのですが、交際費処理については、事前に、その支出の内容(目的)を検討し、適切な処理を行うことが肝要かと思います。

 アドバイザー/八ツ尾順一 税理士・公認会計士

PAGE TOP