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「フェラーリ買った」はNG? SNSも厳しくチェック

2019/05/31

これはある日の税務署員A氏と私の会話です。
「先生、本日は税務調査よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。年の瀬も迫り、署もお忙しいでしょう」
「ですね。最近は税務署も人手不足で……」
「以前は税務調査といえばペアでいらっしゃるケースが多かったのですが、最近は見かけないですものね」
「ところで先生は釣りがご趣味のようで……」
(あれ? 私の依頼人から聞いたのかな? でもまだ会っていないはずだし)
「先週はまた随分大きなシーバスを釣っておられましたね。実は私も釣りが趣味でして」
(ああ、フェイスブックで見たんだな。コワっ!)

■調査官は事前にSNSで対象者をつかむ}
 フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのSNS(交流サイト)は大流行りで、最近は若者からお年寄りまで活用しているようです。


 ただ、見ているのはあなたを応援してくれる友達ばかりとは限りません。SNSは税務職員が「調査対象者に会わずして把握する手段」としてはきわめて有効なのです。

 どこかの国の大統領がそうであるように、SNSでの発信内容はその人の素の考え方や人柄をうかがい知ることができます。

 攻撃的な人であれば事前に徹底的に証拠を集めてギャフンといわせなければなりませんし、話せばわかるタイプの人であればロジカルな説明を用意しなければなりません。そうした個別攻略に役立つだけでなく、日頃の暮らしぶりを垣間見ることもできます。

 写真入りで「フェラーリ買いました!」と投稿するのは個人の自由ですが、税務職員も「そのお金はどこから出たのか?」と思いながら見ているのをお忘れなく。

 たとえば数年前、こんなことがありました。都内で個人事業を行っていた方の相続税調査があり、調査官に「この方の死因は?」と聞かれて「自ら命を絶ったのです」と答えたら、そのときには調査官はものすごくビックリしていました。

 ところが彼は後日、ネットの掲示板でしか得られないような細かい情報について次から次へと質問してきたのです。「調査官も手の届く範囲のすべてを調べ尽くしているんだな」と感じたことを覚えています。

 SNSは本人から発信しますが、掲示板は他人が書き込む批判的な内容が多いため、非常に厄介です。もちろん事実無根の内容も多くありますので、税務職員がそれをうのみにすることはないと思いますが。

■便箋3枚で調査官を納得させた相続人
 相続税の調査において税務職員はほとんどの場合、事前に銀行調査を済ませてからやって来ます。銀行調査により被相続人(亡くなった方)や親族の生前の預金の動きを数年分チェックしていますので、その場でつじつまの合わない説明をすると、後で撤回するのに苦労することになります。


 もっとも実際には被相続人が相続人に内緒で預金を出し入れしている場合なども多々ありますので、「知らないことは知らない」ときっぱり答えてかまいませんし、たいていの場合は税理士がフォローしてくれます。

 税務調査といえばあるとき、「相続人(76歳の奥さん)の預金残高が多すぎる」と指摘を受けたことがありました。終始穏やかな口調の調査官が「こういう場合、預金の半分くらいは旦那さんのものだと考えられますねえ」ともらしたとき、彼女は憤懣やるかたない様子でした。

 その場で反論するのかと思ったら、「私はもう年ですのでこの場で曖昧な答えはいたしません。いきさつをきちんとまとめて、次回報告をします」と自らの言葉で毅然と締めくくりました。

 経緯をヒアリングしてまとめ終えた私が「私から調査官に説明しましょうか」といったところ、ご自身でお手紙を書いて読み上げたいとのこと。そこで結局は奥さん自身が税務調査の場で読み上げることになりました。

 師範学校を出て戦後まだ女性教員が少ない中、共働きで苦労しながら4人の子供を育て、家計を支えたこと。教員であるため銀行や郵便局へ行く時間がなく(当時、ATMもない時代)、事業を行っていて時間に融通が利く夫に預けたこと。引退後、そのお金を自分の通帳に戻したこと(これが疑われた)などを、便箋3枚ほどにまとめて読み上げたのです。

 テレビ番組で日頃伝えにくい感謝の気持ちを手紙にして読み上げるシーンがありますが、調査官との受け答えの中で話すよりもやはり手紙のほうが説得力があったようで、最後には調査官も「疑って申し訳ありませんでした。どうぞお体に気をつけて長生きなさってください」と帰って行きました。

 このように税務調査では、SNSにうかつなことを書かないことも含めた「事前準備」と「調査時の対応」の両方が大切です。相手は「十分に準備してくる」わけですから。

アドバイザー/内藤 克 税理士
 ※同コラムは、内藤先生執筆の書籍『残念な相続』(日本経済新聞出版社)に掲載されています。『残念な相続』の詳細、ご購読は
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