相続における生命保険金の「受取人」の意義
2016/10/13
<質問>
次の2例における生命保険金について、共同相続人間で遺産分割協議を行い、その保険金の取得者を決定する予定であるが、課税上の問題はないか。
①被相続人の相続人は、子A、子B及び子Cの3人であり、配偶者は既に死亡していない。 被相続人が契約者で、かつ、被保険者となり、同人が保険料を負担していた生命保険契約がある。この契約上の保険金受取人は、配偶者となっているが、同人が死亡した後において受取人の指定・変更は行われていなかった。被相続人の死亡により相続人に対し、3,000万円の保険金が支払われた。
②被相続人の相続人は、配偶者と子A及び子Bの3人である。被相続人が契約者で、かつ、被保険者となり、同人が保険料を負担していた生命保険契約がある。その契約上の保険金受取人は「相続人」とされている。被相続人の死亡により相続人に対し、2,000万円の保険金が支払われた。
<回答>
(1)契約上の受取人が存在しない場合の保険金の受取人
被相続人の死亡を保険事故として相続人その他の者が生命保険契約の保険金を取得した場合には、いわゆるみなし相続財産として相続税の課税対象になる(相法3①一)。
この場合の課税対象者は、保険契約において指定された「受取人」であり、その保険金はその者の固有財産であるため、遺産分割協議の対象にはなり得ない。
もっとも、その受取人は、被相続人の相続開始の時に生存する者をいう。このため、保険事故の発生前に指定受取人が死亡等で生存していない場合の保険金請求権者が誰になるかという問題がある。この点について、平成5年9月7日最高裁判決(民事判例集47巻7号4740頁)は、保険金受取人の権利の割合は、民法427条の規定により、平等の割合になると解すべきであるとしている。
ちなみに、民法427条は、数人の債権者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者はそれぞれ等しい割合で権利を有すると規定している。したがって、事例の①については、支払われた保険金を均等に取得したものとして相続税の課税価格を計算する必要がある。
(2)契約上の受取人が「相続人」とされている場合の保険金の取得割合
一方、事例の②に関して、死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定されていた場合について、平成6年7月18日最高裁判決(民事判例集48巻5号1233頁)は、保険金受取人を「相続人」と指定するのは、相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨が含まれていると解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的と考えられるとしている。
したがって、事例の②については、支払われた保険金を相続人がその相続分に応じて取得したものとして相続税の課税価格を計算する必要がある。これと異なる割合で保険金を配分し、取得した場合には、相続税とは別に贈与税の問題が生じるものと考えられる。
(今回のアドバイザー:小池 正明 税理士)