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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

幼稚園の園長に退職金を支給 嘱託園長としての再雇用に当局が「待った!」

2016/08/24

 学校法人である請求人が設置運営するM幼稚園。平成年、A氏は理事を兼務する園長に就任し、平成15年に理事長に就いた。A氏が60歳に近づいた頃、定年退職を前提に、B副園長に後任の園長になってほしいと何度となく頼んだが、園の顔としての役割は荷が重いなどと引き受けてもらえなかった。その頃、M幼稚園の40周年記念式典を控えており、後任の園長の引き受けもないまま退職することもできず、A氏は平成22年3月末での定年退職を断念した。

 その後もB副園長に園長の後任を頼んだが、依然として引き受けてもらえず、最終的にB副園長の役職は副園長としたままで、実質的には園長の仕事をしてもらうことで了解してもらい、平成24年3月31日をもってA氏は定年退職した上で、園長の役職に再雇用という形で就くことになった。

 請求人はA氏に対し、平成24年5月1日付「退職金支払通知書」を交付し、同日、A氏の預金口座に金員を振り込んだ。しかし、原処分庁は、退職に当たる事実がないことから、金員に係る所得は給与所得(賞与)に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行ったことで争いが起きた。

実質的に単なる従前の勤務関係の延長か否か
 請求人は、「A氏は、平成24年4月1日以降、常勤の園長から非常勤の嘱託園長となり、園長として行うべき業務の大部分を副園長に委ね、自身はサポート役に徹しており、A氏の勤務関係の性質や内容に重大な変動があった」、「A氏は定年退職後、請求人との間で再度雇用契約を締結し、雇用形態や勤務時間、基本給も変わっており、労働条件に重大な変動があった」として、「実質的に単なる従前の勤務関係の延長とみることはできず、金員に係る所得は退職所得に配当する」などと主張。

 一方の原処分庁は、「A氏は、平成24年4月1日以降もM幼稚園の園長として他の常勤職員と同様に出勤し、請求人から給与を受領していることから、勤務関係は終了していないと認められる。また、理事長の業務も行っており、B副園長に『引き継いだ』なる行為は、事務を代行させた(手伝わせた)にすぎない」、「A氏の勤務時間は週30時間を超えていたと推認され、基本給等は3分の2程度に減額されているが、減額された割合や金額等に大な変動があったとは認められない」とした。

 両者の主張について、審判所は「A氏は、請求人の理事長およびM幼稚園の園長としての地位にあるものの、実質的な園長としての職務のほとんどをB副園長に引き継ぐことで、その職務内容は量的にも質的にも大幅に緩和された」、「A氏の行う職務全体に占める理事長の職務の割合は、M幼稚園の園長の職務に比べてごく僅かなものであった」、「A氏の雇用契約上の勤務時間や基本給は、他の再雇用された教職員と同様に変更されている」などとして、「A氏と請求人との勤務関係は、その性質、内容および労働条件等に重大な変動があり、形式的には継続している勤務関係が、実質的には単なる従前の勤務関係の延長とみることができない特別の事実関係があると認められる。また、金員が一時金として支払われていることからすると、金員は、『退職所得、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与』の『これらの性質を有する給与』に該当すると認められる」と判断。金員に係る所得は退職所得に該当するため、請求人に対する納税告知処分は違法であるとして、その全部を取消した。

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