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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

お尋ね文書に虚偽の記載 重加算税の判断材料となるか!?

2020/10/27

 請求人の父は平成28年11月に死亡し、その相続が開始した。相続人は、父の子である請求人と姉の2人。

 原処分庁は、平成29年5月1 0日付で、請求人に対し、「相続税の申告等についての御案内」と題する文書および「相続についてのお尋ね」と題する文書などを発送した。お尋ね文書には、注意書きとして「あくまでも概算による結果です」、「相続税の申告が不要な場合には、お手数ですが、この『相続についてのお尋ね』を作成していただき、税務署に提出してください」と記載されていた。

 請求人は、平成29年6月9日付で父の財産から葬式費用を引き、相続税の基礎控除額を差し引くとマイナスになることをお尋ね文書に記載し、税務署に提出した。そして、請求人は本件相続に係る請求人分の相続税について、法定申告期限までに申告書を提出しなかった。

 その後、請求人は税務調査を受け、平成30年8月28日、相続税に係る申告書を提出した。原処分庁は、請求人が請求人取得財産および姉取得財産の存在を隠蔽し、申告期限までに相続税に係る申告書を提出しなかったとして、平成30年11月7日付で重加算税の賦課決定処分を行った。これに対して請求人は、本件賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分に不服があるとして、平成31年1月9日に審査請求をした。

 果たして、重加算税の賦課要件を満たしているのか――。

相続財産の概括的な金額の記載を要求するにすぎない

 原処分庁は「請求人は相続税の申告をしなければいけないと認識し、お尋ね文書の提出前に、税理士無料相談会においてお尋ね文書に記載すべき内容などの説明を受けたはずであるにもかかわらず、請求人取得財産および姉取得財産を記載しなかった。このような事情によれば、お尋ね文書に意図的に虚偽の記載をしてこれを提出したといえ、通則法第68条第2項に規定する隠蔽または仮装の行為があったと認められる」と主張。

 一方、請求人は、「お尋ね文書は、課税庁からの求めに応じ、納税者が任意に協力して提出したものであり、そのお尋ね文書に一部の財産が記載されていなかったとしても、その責任を一方的に納税者に負わせるべきではないから、お尋ね文書の提出を重加算税の賦課要件の判断材料とすることは許されない」とした。

 両者の主張について審判所は、「そもそも、お尋ね文書はその記載すべき内容や提出すること自体も法定されているものではなく、あくまでも税務署が納税者に対し任意の提出を求める性質のものであるから、一般の納税者がその存在を当然に認識しているものとはいえないし、提出者に相続財産の概括的な金額の記載を要求するものにすぎない。このようなお尋ね文書の性質に鑑みると、請求人が提出したお尋ね文書の内容が事実と異なるということのみをもって、直ちに請求人がお尋ね文書に意図的に虚偽の記載をしてこれを提出したとまで認めることはできない」と指摘。

 さらに、「請求人は、税務調査の初日から調査担当職員に対して相続財産一覧表を提出し、そこに記載された財産以外にほかの財産は確認されておらず、これらの事情から、請求人は父の相続財産を隠匿するような行動には出ていなかったというべきである。また、請求人が当初から相続税を申告しない意図があり、かつ、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとされる事情は見当たらない。以上によれば、請求人が申告期限までに相続税に係る申告書を提出しなかったことにつき、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすということはできない」として、原処分庁の重加算税の賦課決定を取り消す裁決を下した。(令和元年12月18日裁決)

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