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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

申告漏れは「隠蔽」か? 帳簿に記載しなかった工事代金をめぐるバトル

2024/10/25

 請求人は、平成29年に建築工事等を目的として設立された法人。設立時の代表取締役はA、取締役はBだった。Bは令和4年11月30日、Aに代わり代表取締役に就任した。
 原処分庁の調査担当職員は令和4年8月、請求人の同2年12月期、同3年12月期の法人税をはじめ、同2年12月課税期間、同3年12月課税期間の消費税および地方消費税などに係る調査を開始した。
 同調査で請求人は、調査担当職員から請求人が請け負った工事7件について、帳簿に記載されておらず、売上げとして計上されていない旨の指摘を受けた。その後、調査担当職員から、現金で受領した本件工事代金を総勘定元帳に計上せず、受領した金員をBが個人的に費消したことを認める書面の提出を求められ、書面の文案を示された。請求人は同4年11月、調査担当職員から示された文案に修正を加えた「申立書」と題する書面を作成、原処分庁に提出した。
 申立書には、次の内容が記述されていた。①本件工事代金については、Bが現金で受領した際、領収証の発行を失念したことから、売上げに計上するための原始記録がなく、帳簿に記載することができなくなり、総勘定元帳に計上していなかった。②本件工事代金として受領した金員の管理が不十分であったため、どのようにしたか分からないが、個人的に費消したと思われても仕方がない。③売上げに計上していなかったのは、当社の書類の整理がずさんであったために起きてしまったことだが、悪気がないということを理解していただきたい。
 請求人は、本件各事業年度の法人税などについて修正申告書を提出。なお、請求人は、法人税の各修正申告書において、本件各工事に係る売上計上漏れの処分として社外流出欄に賞与と記載していた。
 原処分庁は、請求人が現金で受領した本件工事代金について、Bが請求人に帰属する金員として認識して受領した上で帳簿に記載せず、個人的に費消したと認められ、請求人も修正申告でBに対する役員賞与を支出したと追認していることから、これらの行為は故意であり、国税通則法第68条《重加算税》第1項の「隠蔽」に該当するとして、重加算税の各賦課決定処分をしたことから争いとなった。

| 帳簿への不記載が故意だと裏付ける証拠は見当たらず |

 審判所は、「請求人が領収証の控えが存在しながら帳簿に記載しなかったことをうかがわせる証拠はないことから、本件工事代金が帳簿に記載されていなかったのは、請求人が本件工事代金に係る領収証を故意または過失により発行しなかったか、その控えを故意または過失により破棄したものと認められるところ、Bの申立てからは過失により本件工事代金に係る領収証を発行しなかった事実は認められるものの、故意に領収証を発行しなかったこと、あるいは、領収証の控えを故意に破棄したことなどにより、故意に帳簿に記載しなかったことを裏付ける証拠は見当たらない」と指摘。
 また、「取締役が本件工事代金を個人的に費消したと取り扱われても仕方ない旨申し立てたことや、請求人が本件工事代金相当額を修正申告で役員賞与の取扱いをしたことは認められるものの、取締役が自らの所持金と混同するなどにより本件工事代金を個人的に費消した可能性を否定できず、請求人に帰属する金員と認識した上で個人的に費消したと認める証拠もない。そうすると、請求人が課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実について、隠匿あるいは故意に脱漏したとまでは認められない」と判断。原処分の全部を取り消した。
 令和5年12月4日裁決

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