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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

相続放棄の申述は有効か? 滞納国税の納付義務の承継をめぐりバトル

2021/06/04

 請求人は平成31年1月に死亡したAの配偶者。Aは、G社の代表取締役を務め、平成28年頃からH社の顧問として同社から顧問料の支払いを受けていた。

 平成21年、AはG社の滞納国税の保証人となり、G社は換価の猶予を受けていたが、猶予期間中に滞納国税を完納しないことが確定したとして、翌年2月に換価の猶予が取り消され、AはG社の滞納国税の納付義務を負うこととなった。原処分庁は平成22年3月3日を期限とする納付通知書により告知したが完納しなかったため、同月4日、納付催告書により督促した。

 H社のB代表取締役は、平成3 0年7月から翌年2月までの間、請求人名義の口座(本件口座)に、毎月25日頃に50万円を振り込み、請求人は平成31年1月の振込分まで50万円を出金した。平成31年1月25日に本件口座に振り込まれた50万円を「本件金員」という。

 請求人は同年3月27日、本件口座から振込みの方法によりBに50万円を送金した。

 原処分庁は本件相続にともない、同年2月4日付で請求人を含む法定相続人全員に、被相続人の滞納国税について各法定相続分に応じて納付義務が承継される旨を通知。同月12日、請求人が承継したとする滞納国税を徴収するため、請求人が所有する本件各不動産を差し押さえた。

 請求人は家庭裁判所に本件相続に係る相続放棄の申述を行い、受理された。そして令和元年5月9日、本件各差押処分に不服があるとして審査請求をした。

 争点は、請求人に民法第921条に規定する法定単純承認事由に該当する事実があるものとして、本件滞納国税の納付義務を承継するか否か。

 原処分庁は、「本件金員が被相続人の報酬として振り込まれたもので、相続財産であることを認識していたにもかかわらず、何らの異議を述べずに受領していることからすると、当該受領した行為は相続財産の処分に該当する」、「請求人が本件金員を出金し、生活費として自己の財産に組み入れた行為は、管理行為と考えられる限度を超えており、相続財産の処分に該当する」、「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産を管理できるまで、相続財産を管理しなければならないが、請求人はBに本件金員を返納しており、義務に反して行われた相続財産の処分に該当する」などと主張。


 一方、請求人は、「本件金員は生活費として自己の財産に組み入れておらず、相続財産の処分と評価する余地はない」、「原処分庁の職員から、本件金員が被相続人の給与の一部であり、請求人が相続したとみている旨の見解を述べられたことで、本件金員をBに返納しており、これは相続放棄する者の適切な行為」などと主張した。

 審判所は、「本件金員は相続財産に該当すると認められるが、本件金員は委任契約に基づいて本件口座に振り込まれたものに過ぎず、請求人が出金した本件金員を一部でも費消した事実は認められない。請求人が振込名義人あてに送金したのは相続放棄の申述が受理された後であり、これらはいずれも相続財産の処分には該当しない」と判断。

 また、原処分庁は、本件各不動産は被相続人の相続財産と主張するが、審判所は「本件各不動産が被相続人に帰属する財産であることを認めるに足りる証拠はない」とし、「本件金員および本件各不動産について、請求人に法定単純承認事由に該当する事実はなく、請求人の相続放棄の申述は有効であり、請求人は被相続人の納税義務を承継しない」として原処分庁の処分を全部取り消す判断を下した。(令和2年4月17日裁決)

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