経営者は請求人か父親か? 事業所得の帰属者をめぐる当局と納税者の争い
2017/10/20
請求人の父は高校卒業後、請求人の祖母が開業した飲食店(A店)に勤務し、その後、経営を引き継いだ。
請求人は大学卒業後、別の飲食店で修業を積み、平成15年1月からA店に勤務し始めた。 そして、平成17年7月、請求人は保健所からA店の営業者を本人とする食品衛生法上の営業許可を取得。平成22年にはB店を開業した。また、平成23年には、請求人が自分自身を代表者としてクレジットカードの加盟店契約やリース契約などを行い、A店の通帳やキャッシュカードは請求人とその妻が保有し、入出金を行っていた。
こうした中、請求人の父が営むものとして申告等されていたA店の事業に係る所得等について、原処分庁が「父ではなく請求人に帰属する」として所得税等の更正処分等を行ったことで、請求人が処分等の取消しを求めて争いが起きた。
果たして、A店の経営者は、請求人なのか、それとも請求人の父なのか――。原処分庁は、請求人の父が営むものとして申告されたA店の事業について次のように主張している。
「請求人は平成17年にA店の経営を引き継ぐ意思をもって保健所に営業許可の申請を行い、許可を得ている」、「平成23年以降の法律行為の名義は全体として請求人であり、また、請求人が収支の管理を行い、従業員の採用や給与の決定・昇給などを行っていたことからも、平成23年分ないし平成25年分におけるA店の経営主体は父ではなく請求人であり、その事業に係る所得は請求人に帰属する」。
一方の請求人は、「平成17年の営業許可の申請は、店舗のあるビルの建替えにより、単に営業許可が必要となっただけで、店長として自分が提出するのが一般的だと考えて申請した」、「クレジットカード会社から、契約者が経営者でなくてもよいと言われ、店長である自分が行ったが、単に父から契約を任されたに過ぎない」、「通帳やキャッシュカードの所有者は父であり、一般的な他の企業の経理担当に行わせるのと同様に、請求人および妻に売上金の入金管理を行わせ、その都合上、保有・管理していた」などと主張した。
収支管理や採用の決定は店長として任された裁量
これに対して審判所は、「事業所得の帰属者の判断に当たっては、事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべき」と指摘。
本件においては、「各年分におけるA店の賃貸借契約は父名義で行われており、事業用の物的設備等のほとんどは父が所有している」、「請求人は平成23年当時、A店を経営するだけの資金力を有しておらず、その経営は父の資金力に大きく依存していた」、「平成23年以降のいくつかの法律行為等に請求人の名義が用いられていることや、請求人が収支の管理、従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたとしても、それは請求人がいずれA店の事業を承継することを前提に勤務し始めたことから、父から店長としてかなりの裁量を持たされていたに過ぎない」などとした。
そして、「これらを総合して考慮すれば、A店の経営主体は父であったとみるべきであり、その事業に係る所得は父に帰属する」として請求人の主張を認める判断を下した。(平成28年8月10日裁決)