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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

被相続人への貸付は仮装か? 金銭借用証書に記載された「一時」に注目

2022/05/11

 被相続人は平成29年8月に死亡し、同日、その相続が開始した。共同相続人は、被相続人の長男である請求人と二男(H)の2名だった。J社は、請求人とHが発行済株式のすべてを有する同族会社。不動産の売買や賃貸を目的として設立され、請求人は設立当初から代表者を務めている。

 被相続人およびJ社は、同年4月、土地とその上の2棟の建物を売買代金4700万円で買い受ける旨の売買契約を締結。売買代金は、手付金200万円を契約締結と同時に、残代金4500万円を同年5月9日までに支払うこととされ、手付金は被相続人が現金で支払った。

 請求人は同年4月12日、K銀行の請求人名義の普通預金口座から現金600万円を、同月17日、L銀行から360万円をそれぞれ出金し、各同日、M信用金庫の被相続人名義の普通預金口座へ入金。同年4月20日付で、被相続人が請求人から合計960万円を借り入れた旨の金銭借用証書(別件証書)が作成された。

 被相続人および請求人は、同年4月27日付で、被相続人が請求人から現金500万円を借り入れた旨の「金銭(一時)借用証書」(本件証書)を作成。また、被相続人およびJ社は、同年4月27日付で、J社が被相続人から現金500万円を借り入れた旨の金銭借用証書を作成した。請求人は、同年4月27日、M信用金庫の請求人名義の普通預金口座から現金500万円を出金し、同日、同信用金庫のJ社名義の普通預金口座に入金した。

 請求人およびHは、被相続人の相続にかかる相続税について、法定申告期限までに相続税の申告書を共同で提出した。申告書には、被相続人の債務として請求人からの借入金1460万円(別件証書に係る借入金960万円、本件500万円の合計)が計上され、借入金は請求人が負担する旨の記載があった。

 令和元年12月18日、原処分庁の調査担当職員は相続税の調査に基づき、本件500万円に係る借入金の債務控除を否認。原処分庁が重加算税の賦課決定処分を行ったことで争いが起きた。争点は、請求人に通則法第68条1項に規定する「仮装」に該当する事実があったか否か。

信用金庫からの融資が頓挫し、請求人が代わりに金員を貸付

 請求人は、「金員は、J社による各建物の購入に充てるため、請求人からJ社に対して本件500万円の貸付けがされた後、被相続人からJ社へ貸し付けられたもの。被相続人の預貯金の口座を経由することなくJ社の預金口座へ入金されたのは、各建物の購入に係る決済日が迫っていたため、請求人が直接J社の預金口座へ振り込んだ」などと「仮装」はなかったと主張。

 一方の原処分庁は、「請求人は、本件500万円に係る借入金が実際には存在しないにもかかわらず、相続税の債務控除を受けるため、被相続人がJ社に金員を貸し付けるために請求人から本件500万円を借り入れていたかのように仮装する目的で本件証書を作成した」などと「仮装」の事実はあったとした。

 両者の言い分に審判所は、「被相続人は、土地の購入資金の一部である2千万円の融資をM信用金庫から受ける予定だったが、それが頓挫し、請求人が代わりに被相続人に金員を貸し付けることとなった経緯が認められ、金銭借用証書の表題に一時的な貸付けであることを意味する「一時」と付されていることなどからすれば、請求人が被相続人に同金員の貸付けをしたとしても不自然とはいえない」。

 また、「暫定的に請求人から被相続人に対する貸付けが行われた可能性があるから、請求人から被相続人に直接送金されていないことをもって直ちに被相続人の請求人からの借入れがなかったとはいえない」などと判断。「請求人に仮装があったとは認められない」として請求人の主張を認めた。(令和3年6月3日裁決)

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