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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

贈与と同様の利益移転か? 夫名義の預金口座から妻名義の証券口座に入金

2022/07/22

 請求人は平成27年3月9日、証券会社に請求人名義の口座を開設した。同年3月11日、請求人は銀行の夫名義の普通預金口座から出金した金員を証券会社の請求人名義の口座に入金し、いったんファンドを購入した後に換金し、複数社の株式の購入に充てた。

 請求人は同年3月19日、5月21日にも夫名義口座から出金した金員を請求人名義の口座に入金し、投資信託などの購入に充てた。平成28年3月15日、上場株式等の配当等に係る配当所得の源泉徴収税額の還付を求めて、平成27年分の確定申告をした。

  平成29年2月に夫が死亡し、請求人はほかの相続人らと共同して、法定申告期限内に相続税の申告をした。この申告において、本件各入金を原資とする財産は、課税価格に算入されていなかった。原処分庁の調査担当職員は令和元11月5日、請求人の自宅に臨場して、本件相続に係る相続税等の実地調査を行った。

  請求人は令和2年4月15日、本件各入金を原資とする有価証券等の価額等が申告漏れであったとして、相続税の修正申告をした。原処分庁は令和2年6月30日付で、請求人に対し、本件各入金について対価を支払わないで利益を受けたものと認められるとして、平成27年分の贈与税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分をしたことで争いとなった。

 争点は、本件各入金は、相続税 法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否か。

夫の財産は妻名義の口座でそのまま管理されていた


 請求人は、「請求人名義の証券口座や投資信託口座では、請求人が取引に係る書類の記入や実際の手続を行っていたが、その管理・運用は、夫の指示または包括的同意もしくはその意向を忖度したものである。したがって、請求人が請求人名義口座および請求人名義投資信託口座の管理・運用をしていたとしても、贈与契約が成立していない以上、本件各入金を原資とした財産がいずれも夫から請求人に移転したということはできない」と主張。

 一方、原処分庁は、「本件各入金がされた後、請求人名義投信信託口座にあっては、銀行の担当者が、請求人に投資信託に関する説明を行い、その後も請求人に対して説明やフォローを行っていたこと。請求人名義の証券口座にあっては、請求人が有価証券の購入や運用について、証券会社にすべて指示や注文を行っていたことなどから、請求人は夫の意向に拘束されることなく自身の判断に基づいて有価証券の取引を行っており、その原資である本件各入金について請求人の資金であるという認識を持っていた」とした。

 これに対して審判所は、「請求人は、本件入金の前後を通じて夫の財産の管理を主体的に行っており、その管理に係る全部の財産について請求人に帰属していたものと認めることはできないから、本件口座において請求人自身の判断で取引を行った事実をもって利益を受けたと認めることはできない」、「分配金の入金があっても、請求人が私的に費消した事実が認められない本件においては、これを管理・運用していたとの評価の範疇を超えるものとはいえず、確定申告をしたことは、申告をすれば税金が還付されるとの銀行員の教示に従い深く考えずに行ったものとの請求人の主張が不自然とまではいえず、殊更重要視すべきものとは認められない」などの事情を考慮し、「本件入金によっても、夫の財産は本件口座においてそのまま管理されていたものと評価するのが相当」として、「相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当しない」と判断、請求人への処分を全部取り消す裁決を下した。

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