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トラブルは現場で起きている!

非営利型法人の否認で100億円の申告漏れ

2018/06/19

 一般社団・財団法人には、公益法人並みの収益事業課税を受ける非営利型法人と、会社並みの全所得課税を受ける法人の2種類があります。その中で、非営利型法人は、誰にも私物化されていないことが求められ、特定の個人や法人に特別の利益を与えてはならないこととされています。それで、もし特別の利益を誰かに与えていたことがわかって、非営利型法人の否認という伝家の宝刀が抜かれた場合には、その与えていた時点から全所得課税になるだけでなく、それ以前の非課税の留保利益まで引きずり出されて、課税を受けることになります。

 この聞いただけで震え上がるような課税を受けることになったのが、静岡県にある陸上自衛隊東富士演習場の土地を国に貸し付け、賃貸収入を得ていた一般社団法人と一般財団法人の10法人です。しかし、2018年6月8日付のこのニュースを聞いて、当然の結果と受け止める向きも少なくないはずです。

 富士山の裾野に広がる原野は、昔から周辺の農家の入会(いりあい)地として利用されてきました。明治時代に演習場ができた後も、共有地として所有権や入会補償の権益が主張され、戦後は社団法人や財団法人を作って地域で管理されてきました。早い話が、国からの賃貸収入を社団法人や財団法人で受取り、地権者である農家に分配していたのです。国からの賃貸収入は、収益事業課税の法人では非課税とされています。社団法人や財団法人は、平成20年の公益法人改革までは公益法人でしたので、当然非課税で、住民への分配にも特に目くじらを立てる者はいませんでした。今から思うとおおらかで牧歌的な時代でした。

 それが新制度で一挙にピンチに追いやられます。住民への分配ができなくなったのです。新しい公益法人制度では公益法人になれず、やむなく一般社団法人や一般財団法人に移行したものの、非営利型法人としてあからさまな分配ができなくなったこれらの法人では、地元高齢者への「敬老祝い金」や会員向けの記念品などの形で分配していたようです。

 これが、名古屋国税局から「特定の個人や団体への特別の利益」と認定されたのです。その結果、非営利型法人が否認されて全所得課税となり、それまで非課税とされていた国からの賃貸収入も課税されることになると、10法人の総額で約100億円の申告漏れとなり、追徴税額が過少申告加算税を含めて約20億円に上ることが明らかになりました。

 もっとも、これに先立って、2年前の2016年5月30日には、同じように東富士演習場の賃貸収入を得ていた一般社団法人須走彰徳山林会が、名古屋国税局から3億円の所得隠しを指摘されたという報道がありました。住民ら約80人の会員に対して記念品や現金を渡していたり、関連会社に除草作業などを委託した形にして実際には作業に従事していない会員に給与を支払ったりして分配していたことなどがわかっていました。

 同じように入会地を管理する一般社団法人や一般財団法人は、全国にまだまだあるはずですから、これで幕引きということにはなりそうもありません。

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