脱税のために設立された財団法人
2017/05/17
非営利法人を利用して課税を免れようとする企ては後を絶ちませんが、平成20年に発覚した埼玉県所沢市の財団法人「恵明修学資金事業協会」の脱税事件ほど不埒なものも珍しいのではないでしょうか。
この財団法人は、大学歯学部への進学を希望する学生に奨学金を貸与する目的で昭和58年に設立されていました。しかし、その目的どおりに奨学金の貸与が行われていたかというと、はなはだ疑わしいのです。法人の元理事長は「面接で好印象の学生には、出世払いで返してくれと口約束していた」と言うばかりで、実際に奨学金の貸与を行っていたことを裏付ける借用証などの書類はなく、もしかすると奨学金の貸与は最初からほとんど行われていなかったのかもしれません。
それでは、この法人は何のために設立されたのかというと、なんと寄附金の偽装のためというのですから驚きます。公益法人に寄附をすると寄附金控除が受けられる仕組みを悪用して、実際には寄附をしていないのに寄附をしたことにして、集団で所得税の脱税をしていたのです。
財団法人「恵明修学資金事業協会」は、平成14年から平成17年までの4年間で、7,000万円の偽の領収書を発行し、元理事長をはじめ歯科医師ら二十数人が、確定申告で寄附金控除を受け約1700万円の所得税を免れていたことが明らかになっています。元理事長は、寄附者に対して出した領収書の控えが残っていないことについて、「燃やしてしまった」と言っているそうです。おそらくこれは氷山の一角に過ぎず、設立時までさかのぼれば偽の領収書は相当な金額に上ることでしょう。
公益法人制度は平成20年12月から新しい制度になりましたが、この法人は古い公益法人制度のもとで設立された財団法人でしたので、主務官庁である埼玉県の裁量によって設立され、理事には環境庁長官経験もある元参議院議員や元厚生官僚なども名を連ねていたそうです。埼玉県は、不透明な資金管理をしていたとして平成19年3月に法人の設立許可を取り消していますが、設立許可を取り消されると法人格が消滅するのが古い公益法人制度でした。
新しい公益法人制度の下では、公益法人はまず一般社団法人や一般財団法人の法人格をとってから、内閣府や都道府県の公益認定を受ける制度になっているため、公益認定を取り消されても、一般社団法人や一般財団法人の法人格まで消滅することはありません。