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相続・事業承継Vital Point of Tax

民事信託(家族信託)のニーズの一例と税理士に期待される役割 最終回

2023/05/18

Ⅱ 民事信託フラグ

 対応することができるニーズの例として次のようなものがあります。「民事信託が使えるかもしれない」という“フラグ”にしていただきたいと思います。

<生前対策>
①高齢のため多額の資産の管理に不安がある
②リフォーム詐欺や振り込め詐欺、悪質商法の被害予防を検討したい
③加齢や身体障がいのため財産管理に支障をきたしている
④認知症に対する備えを検討したい(預金凍結は避けたい)

<相続対策>
①賃貸物件の賃料収入は家族で分けて、管理権限は一本化したい
②遺される家族の資産管理能力に不安がある
③障がいをもつ子どもがいるため将来の生活費の管理に不安がある
④引きこもり等で自活が困難な子どもの将来の生活費の管理に不安がある
⑤特定の人(配偶者や第三者等)へ特定の財産を確実に相続させたい
⑥再婚した配偶者の将来の生活を保障したいが、その家族へ財産が流れるのは防ぎたい
⑦先祖代々の資産、一代で築いた財産、事業用財産の離散を防ぎ、血縁者へ承継したい
⑧自分の相続だけでなく、子どもの相続のときの相続先も指定したい
⑨複数所有する不動産の評価額が区々のため推定相続人間でうまく分けられない 

<事業承継対策>
①承継先を決めきれずにいる
②共同相続による経営への支障を生じさせたくない
③配当金を受け取る人と議決権を行使する人とを分けたい

Ⅲ 民事信託との付き合い方

 「家族信託」の文字を街やウェブ上で当たり前のように見かけるようになりました。しかし、身近になった(認知度が上がった)からといって、誰もが安全に民事信託を利用することができるようになったわけではありません。低廉な費用を謳って顧客を誘引するウェブサイトや、メリットだけを謳うセミナー、不正確・不十分な説明により誤解を招くおそれがあると危惧される「専門家」と称する業者が多く存在するのが、残念なことに民事信託の提供者側の現状です。税理士の先生方は、どのように民事信託と付き合うのがよいのでしょうか。

【水先案内人として】
 記帳や申告等の業務を引き受ける税理士の先生方は、一定の資産を保有し又は事業活動を行うオーナーとの継続的な接点があります。そのオーナーが抱える課題の解決に民事信託が役に立ちそうであれば、民事信託を取り扱う事業者への“水先案内人”となっていただきたいと思います。先ほどの「フラグ」の一つにでも該当すると思われるときは、先生方が事業者に問い合わせます。
 もっとも、取り次いでおしまいとしてはいけません。オーナーの事情を知り、しかも客観的にそれを見ることができる立場にあるのが税理士の先生方です。オーナーの実情や想いを代弁してください。私のような民事信託の設定に携わる者から、そのオーナーの事情に即した“ぴったりの民事信託”を提供することができるようになります。

【伴走者として】
 また、民事信託は、信託契約書を作成し、不動産登記をすれば終わりという業務ではありません。そこから、財産の管理といういわばマラソンが始まります。比較的短期と言われる認知症対策としての信託でも10年以上続くものもあります。その間、法律により年1回は必要とされる受益者への報告や税務署への届け出、信託関係者が死亡した場合の対応、信託の変更をしたいときなど、信託ならではのイベントが次々と起きます。また、信託財産の管理では会計上のアドバイスが必要になる場面もあります。そのようなときも、先生方の出番です。日常的に業務を依頼されている先生方が初めの相談相手となるでしょう(いきなり弁護士に相談しづらい方が多いようです。)。民事信託の利用者は、ほぼ全員が信託の素人です。誰にも相談できずに放置されてしまうと取り返しのつかない大きな問題に発展してしまいます。走り続けるランナーを支援する“伴走者”の役割は、税理士の先生方の立場と親和性が高いと考えます。

【他士業と連携する際の注意点】
 先生方の中には、相続税等の資産税についてはこれを専門とする他の税理士に紹介又は共同受任するなどされている方も多いのではないでしょうか。考え方は、民事信託の場合も同様です。相談できる専門家と前もって繋がっておきましょう。顧問先から相談されたら、一緒に話を聞きに行けるような民事信託の専門家との繋がりを用意しておきましょう。もっとも、紹介先・連携先選びは慎重に行うようにしたいところです。
 これに関連した近年の裁判例として、東京地裁令和3年9月17日判決があります。民事信託を利用するにあたっての支援を委任された司法書士が、民事信託を利用することにより依頼者が被るおそれのあるリスクの説明を怠ったとして、不法行為に基づく損害賠償責任ありとされたものです。原告依頼者に対し被告司法書士を紹介したのは、その依頼者が日頃から付き合いのあった税理士でした。その税理士は恒常的に被告司法書士を紹介していたようです。紹介先を誤ってしまうと顧問先からの信頼を損なうことになりかねません。

【最後に】
 多くの税理士の先生方が、民事信託の活用可能性に目を向けてくださり、民事信託への“水先案内人”兼“伴走者”となられ、顧問先の課題解決を図っていただければと思います。

アドバイザー/金森民事信託法律事務所 金森 健一 弁護士

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