生前贈与はどう変わる!? 相続・贈与税一体化の行方
2022/06/23
平成31年度税制改正大綱において「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築」が課題として取り上げられて以来、相続税と贈与税の一体化の行方に注目が集まっている。令和4年度税制改正大綱では、具体的な改正案は見られなかったが、相続税や贈与税が抱える課題や格差の固定化に対する懸念が明確に示されており、見直しに向けて「待ったなし」の状況となってきた。
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間に財産の贈与を受け、その合計額が基礎控除額である110万円を超える場合、その超えた部分に贈与税が課税される。この基礎控除額の範囲内で行われる生前贈与は、相続財産を減らす代表的な手法として広く利用されている。
一方、富裕層を中心に110万円を超える金額を毎年贈与している人も少なくない。令和2年11月の政府税制調査会の資料によると、平成30年分における暦年課税の申告件数は37万4千件、贈与財産額は1兆5000億円。このうち取得財産価額が150万円以下は約13万人、400万円以下は約12万人となっており、700万円以下のもの(限界税率:10%~20%)が92%を占めている。また、贈与額が400万円以上の場合は翌年以降も複数年にわたって連続して贈与を行っているケースが多く、受贈者の年齢層が低いほどその割合は高い。
相続税・贈与税が抱える問題 資産移転時期に中立的とは?
暦年課税は、原則として1年ごとに贈与税が計算され、相続前3年間の贈与のみ相続財産額に加算して相続税が課税される。そのため、長期間にわたって財産を小分けに贈与すれば、相続のみで全財産を移転した時よりも税負担を減少させることが可能となり、「資産移転の時期に中立的ではない」との指摘があった。
これに対し、相続税精算課税制度を選択した場合は、生前贈与と相続の税負担は一定となるため、「資産移転の時期に中立的」といえるが、相続時精算課税による課税件数・贈与額は減少傾向にあり、暦年課税を選択する人が圧倒的に多いのが実情だ。
高齢世代の資産蓄積が顕著 若年世代に資産が移転せず
相続税と贈与税の一体化が議論されているのは、制度的な問題のほかに、高齢者が保有する資産を若手世代にいかに早期移転させるかという重要なテーマがある。これが実現すれば、経済の活性化も期待できるが、税制調査会の資料によると、この25年間で60歳代以上の金融資産の保有割合はほぼ倍増しており、足元では個人金融資産約1700兆円のうち、60歳代以上が約6割、約1000兆円の資産を保有している。
令和3年度税制改正大綱では、贈与税について「現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある」ことを指摘。そして、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」ことが示された。
これを受けて、各種メディアでも相続税・贈与税の一体化をテーマにした内容が取り上げられ、相続税の課税対象となる贈与財産の持ち戻し期間を、現状の相続開始前3年以内から、5年以内、10年以内、15年以内と延長する案や、暦年課税制度を廃止して相続時精算課税制度に一本化する案など、様々な見方が飛び交った。
令和4年度税制改正大綱では、具体的な改正案が示されるのではないかと注目を集めたが、前年度と同様、「本格的な検討を進める」という表現に止まった。しかし、「相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている」、「高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない」という危機感が示され、見直しの姿勢に変わりはないことがうかがえる。