相続人が頭を抱える「継ぎたくない不動産」とは?
2021/03/26
被相続人の借金のほかにも相続したくない財産がある。例えば、相続登記をせずに長期間放置している土地や、新型コロナウイルスの影響などで収益悪化が懸念される賃貸住宅など、相続人にとって「継ぎたくない不動産」もそのひとつだ。令和時代における不動産の相続問題とリスクを整理してみた。
1、継ぎたくない不動産の問題点
相続人にとって「継ぎたくない不動産」とは、(1)管理や保有するだけでコストや税金がかかる、⑵管理コストをかけなければ、後々多大な改修または撤去などの費用が発生する、⑶地震などにより倒壊にともなう人身への損害リスクがある、⑷賃貸住宅が空き家の場合、相続税の財産評価上で不利が生じる――などが考えられる。
保有コストの問題でネックとなっているのが、固定資産税・都市計画税だ。自分にとって必要のない不動産でも、保有していれば固定資産税や都市計画税の負担を強いられる。保有期間が長くなれば、当然、その負担も重くなるだけに、将来的なキャッシュの流失を防ぐためにも、売却がそれほど難しくなければ、早めに見切りをつけて処分することも有効な手段といえる。
一方、過去の相続で遺産分割が済んでおらず、長期間に渡って相続登記がされなかった結果、不動産の所有者が分からなくなってしまうケースもある。そうした「所有者不明土地」の問題が全国に広がっているが、その解決策として固定資産の「現に所有する者」の申告制度が設けられた。これは、相続登記未済の不動産について「現に所有する者」に住所氏名などの申告を求め、不申告の際には過料が科される制度。市町村などは条例により「現に所有する者」に対し、固定資産の「現所有者であることを知った日の翌日から3月を経過した日以後の日までに、当該現所有者の住所及び氏名又は名称その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる」としている(改正地法384条の3)。
2.固定資産税で『争族問題』の再燃も
相続により共有となった不動産の税金は、本来、連帯して共有者となった相続人全員が負担すべきものになっており(地方税法10条の2)、連帯納税義務者の1人に対し、または同時にもしくは順次にすべての連帯納税義務者に対し、その税金の支払いを請求することができるとされている(地方税法10条により民法432条の準用)。
つまり、実務では「現に所有する者」を誰か一人特定できれば、その人に納税通知書を送付することになっているわけだ。この「現に所有する者」の特定は、市町村の裁量で行われており、必ずしも共有者全員に平等に行われるわけではない。そして、原則として、督促状の送付から少なくとも10日を経過した日までに納付がなければ、財産の差押えが行われる。差押えは固定資産税の対象の不動産とは限らず、財産捜索が行われ、預貯金なども差し押さえられて強制的に税金を徴収される。
資産家にとっては、「お荷物」となっている共有不動産の固定資産税の負担が火種となり、新たな争族問題を引き起こすことにもなりかねない。実際、祖父母時代の相続未登記土地をめぐり固定資産税の滞納問題が発生し、相続したつもりもない親族に課税・徴収が及んだものの、ほかの親族には納税が及ばなかったことでトラブルになった事例も出ている(防府市裁決平成29年10月4日)。
3、賃貸住宅の相続問題
新型コロナウイルスの影響などで、空き家の増加や家賃回収ができない賃貸住宅なども不動産保有者の頭痛のタネになりつつある。家賃が減っても管理コストが減ることはない。固定資産税など税金のコストもかかってくる。改修費用は築年数が経過すればするほど増加する。そのまま放置すれば、設備などは劣化するばかりで、費用回収の道はさらに遠くなる。
また、相続を間近に控えた賃貸住宅については相続税の問題も出てくる。賃貸住宅は、敷地部分が貸家建付地、建物部分が貸家として相続税の評価が行われる。
ただし、賃貸の集合住宅に空室がある場合には、全体に占める空室の床面積の割合に相当する分については減額しない。これが「賃貸割合」である。したがって、財産評価の時点となる相続の開始時点で空室がある場合には、原則として、賃貸割合の計算上、賃貸されていないものとしてカウントされることになる。
もっとも、相続開始時点において空室でも、「空室の期間が課税時期の前後の例えば1カ月程度であるなど、一時的な期間であること」(国税庁タックスアンサー)は空き家扱いとはならない。空室かどうかは、相続前後の事情等により総合的に判断される。
入居者を呼び寄せるために家賃の引下げなども考えられるが、長期的な収益悪化につながる恐れもある。空室が目立つようになってきたら、今後も賃貸住宅の経営を続けた場合、予測どおりの収益があげられるかどうか、慎重に見極める必要があるだろう。とくに借入をしている場合には、家賃収入の道が閉ざされることは死活問題になるだけに、景気の動向などを踏まえて的確な判断をしたいところだ。
4、相続にともなう不動産のお荷物化
相続にともなう空き家も「お荷物」になることが多い。代表的なのが、親の住んでいた実家が空き家となり、ほかに利用する目途も立たず、時間の経過とともに劣化していくケース。劣化がひどくなって近隣に迷惑がかかれば、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき特定空家と認定され、管轄の市町村から所有者等に対して修繕などの必要な措置を講ずるよう「勧告」を受けることにもなりかねない。そうなると住宅用地の課税標準の特例の適用がなくなるので、所有者にとっては痛いところだ。
対策として人に貸すことも考えられるが、そのためには残存動産の整理にかかるコスト、改修の要否、マーケット動向の確認、賃貸管理リスクなどを検討する必要がある。もちろん、ほかの相続人との分割後の調整に配慮するほか、貸付後の売却時の価格下落リスク、税務面のリスクにも気をつけなければならない。
相続した実家を処分する場合には、譲渡所得課税において特例が設けられている。一人住まいの親が亡くなって空き家になった実家を相続人が売る場合に適用できる優遇税制「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」である。こうした特例を利用して不動産を現金化し、次の運用や新たなライススタイルを模索するのも良いだろう。
ここ数年、空き家特例・取得費加算の特例を利用して相続不動産を売るケースが急増している。不動産を保有していると、先々の費用負担のほかに煩わしい作業なども必要となるため、早めに現金化してサッパリする人が増えているようだ。