どう変わる?非上場株式評価の行先(第3回)~先行きが読めない状況に~
2026/10/27
国税庁主催の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(以下「有識者会議」という)」の第6回は9月16日に開催され、第5回で国税庁から提示された見直し案(残余利益方式)を踏まえ、残余利益方式の各論点及び残余利益方式によらず純資産価額方式で評価することが相当と認められる会社(「特定の評価会社」という。)の類型について意見が交わされた。
Ⅰ.残余利益方式における個別論点
残余利益方式を採用する場合に検討すべき事項として8つの項目が挙げられ意見が交わされた。
日本商工会議所(日商)は意見書を提出し、「国税庁が考える残余利益方式の採用を是認する趣旨のものでは一切なく、同方式による評価体系の抜本的な変更そのものに反対する立場を堅持する」としつつ、個別論点についても反論した。他の委員は、一部を除いて概ね国税庁案に賛同した。
1.残余利益方式において法人税法上の数値を使用すること
中小企業が適用する会計基準として、企業会計基準、中小会計指針、中小会計要領、法人税法があり、同一事象についても会計処理上で企業間の生じることから、すべての企業が一定の統一基準で作成する「法人税法」に基づく会計帳簿(法人税申告書)に基づき株価算定してはどうかとの提案がなされた。
日商は、法人税法に基づく会計帳簿でも減価償却の実施の有無等広範な選択が認められており、その選択は企業ごとの事情によって異なっている。中小会計指針や中小会計要領に沿って決算書類を作成している先については、それによるべきであると主張した。
2.残余利益の加算期間・時価としての妥当性
理論上は将来の無限期間分の当期純利益によるべきであるが予測することは極めて困難であることから期間5年、将来予測利益は恣意的な予測値を避けるために課税時期前5年の法人の正常利益としてはどうかとの提案がなれた。
3.多額の含み損を抱える資産がある場合の減損処理
本来の「残余利益モデル」であれば減損処理の有無に対して評価額は中立であるが、予測期間を有限とすることにより多額の減損が生じている場合に評価額が過大となる恐れがあることから、2つの要件の下で減損を反映してはどうかとの提案がなされた。
4.オペレーティングリース等の利益操作への対応
過去の利益に非経常的な損益が含まれている場合、当該損益については適正に補正し、会社の正常利益を基に評価を行う必要がある。オペレーティングリースに係る損益はなかったものとした状態に引き直して評価してはどうかとの提案がなされた。
5.利益操作としても使われる過大な役員報酬・役員退職金等の社外流出への対応
代表者の親族役員に対する役員報酬等は、代表者の所得分散目的、会社の利益操作目的で行われることもあるから一定割合(第5回有識者会議では半額)を損金から控除して評価してはどうかとの提案があった。役員退職金等についても非経常的損失なので、損金から控除してはどうかという提案もなされた。
この考えについては日商だけでなく他の委員からも法人税法の過大役員報酬等の損金不算入規定があるのだから必要ない旨の意見があった。
6.保有する子会社株式の修正範囲について
完全支配関係法人間でグループ法人税制を活用し、税負担なく親会社の資産を子会社へ移転し、評価額を圧縮するスキームが存在する。子会社株式の評価を適切に親会社の評価額にへ反映させるべきで、完全支配株式に限り親会社の評価額へ反映させてはどうかとの提案がなされた。
日商は、残余利益方式が適用されると、グループ全体で成長を目指す企業、地域の技術や雇用を守るためにグループ化する企業に対して飛躍的に税負担を増加させる可能性がある、悪質な租税回避行為においていは個別に対応すべきである、として反対した。
7.従業員持株会を有する場合の持株会株式の評価方法と控除方式
配当還元価格等の固定価格で従業員持株会の株式を流通させる場合、企業価値総額から従業員持株会価額×従業員持株会株式数を控除した差額をその他の株式数で除して、その他の株主の1株当たりの評価額を出してはどうかとの案が出されたが、従業員持株会の設置推進に逆行するとして日商以外の委員からも反対の意見があった。
8.純資産価額による頭打ちの要否と計算方法
純資産価格について、①個人事業者の財産評価との均衡を図るもの、②株式は会社財産に対する持分としての性格を有するもの、③清算価値、の3つの位置付けから、退職給与引当金等の取扱い、含み益に対する法人税等相当額の控除の取扱いについての比較がなされた。これについては次回以降で検討することになった。
Ⅱ.特定の評価会社における個別論点
1.特定の評価会社の位置付けと対象
残余利益方式によらず純資産価額方式で評価することが相当と認められる会社(特定の評価会社)として、以下の4類型の整理が示された。
・株式の価値の大半を保有資産の価値が占めると考えられる会社:資産管理会社(資産保有特定会社)
・評価通達における残余利益方式での評価が技術上困難と認められる会社:組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前の会社
・残余利益方式の前提である継続企業の前提に疑義がある会社:休業中の会社
・残余利益方式の前提である継続企業の前提を欠いている会社:清算中の会社
2.資産管理会社の区分と組織再編直後の会社の取扱い
資産管理会社は“単に資産の保有・管理することを主たる目的とする(と認められる)会社”として純資産価額により評価する。資産管理会社の該当基準は、事業承継税制の対象から除かれる「資産保有型会社」及び「資産運用型会社」を参考に形式基準を設定すると示された。
日商は、不動産賃貸業等は事業実態を有する一般の事業会社であり、原則的評価方法により評価すべきであるとした。
3.適用する純資産価額方式の位置付け
1.の類型によって、適用する純資産価額についてⅠ.8.の3つの位置付けを使い分けることも考えられるとされた。
Ⅲ.日本商工会議所による意見書
日商は、第4回、第5回に続いて意見書を提出し、残余利益方式による評価体系の抜本的な変更そのものに反対する立場を堅持するとした。大会社の約7割、全体でも4割超の企業が現行方式より評価額が上昇するとし、国税庁提出資料とほぼ同様の傾向値が示されている。また残余利益方式は理論的検証も判例上の裏付けも欠いており、その評価額が時価と言えるのか、国税庁はその法的・理論的根拠を明確に示すべきであると迫っている。さらに、中小企業の実態に見合った評価や税負担に関する議論がないまま、評価体系全体の見直しには強く反対するとした。
Ⅳ.経済産業省・中小企業庁による意見書
第6回には、第1回からオブザーバーとして出席していた中小企業庁が経済産業省(経済産業政策局、イノベーション・環境局)を巻き込んで意見書を提出し、「現行の評価方式の中で対応できる事項について、十分に議論がつくされていない」、「このような大規模な評価方式の見直しを行うのであれば、事業者への影響の大きさに鑑み、拙速に結論を出すことは避けるべきである」、「関係者の納得が得られるように十分な時間をかけて丁寧に議論を行うことが必要と考える」、「今回の見直し案は、・・・政府の政策の方向性に逆行するものであると言わざるを得ない」と、国税庁の進め方・方向性について手厳しく批判を行った。
経産省・中企庁の意見書の影響なのか、片山財務大臣は10月6日の閣議後の記者会見で「(非上場株式の評価に関する質問に対し)はっきり言って全く結論出てないし、見直しの方向性すら全く決まっていない」、「非上場株式の評価見直しについては、事業承継税制の見直しとあわせて検討していく」旨の発言を行った。
10月7日の衆議院本会議において非上場株式評価についての質問があり、高市首相は「取引相場のない株式の評価方法については、現時点でなんらかの結論や見直しの方向性が決まっているということは全くなく、・・・ゼロベースで検討を進める。」旨答弁した。片山財務大臣も同趣旨の答弁を行っている。
10月14日の予算委員会で片山大臣は「4月から国税庁において有識者会議、勉強会のようなものを催している」、「審議会でもない勉強会で言われたわけでもないのに非常に厳しい案の過程のようなものだけが出回るということがなぜ起きたのかということを私どもはよくわからない」、「国税庁の方で評価の問題ですから、・・・税調にかけないで評価ですからということを想定された方がいるのかなと思いますが、それは全くそんなことではなくて、これは税調のプロセスにかける」と言い切った。
9月16日の中小企業庁の意見書以降、国税庁が強引に進めてきた残余利益方式の導入に暗雲が立ち込めてきた。取引相場のない株式評価問題については、有識者会議の第7回以降の開催有無も含め、年末の「令和9年度税制改正大綱」に向けて先行きが読めなくなった。
解説/玉越賢治税理士 税理士法人ゆいアドバイザーズ 代表
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 委員
日本商工会議所税制専門委員会学識委員
◎今後の有識者会議の議論や制度改正の動向につきましては、当サイトにて、玉越賢治税理士に引き続きご解説いただきます。