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タワマン節税に「待った!」 マンションの相続税評価が改正へ

2023/11/22

国税庁は10月6日、マンションの財産評価を見直した個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を公表した。これは令和5年度与党大綱で、マンションの相続税評価に関し、「市場価格との乘雜の実態を踏まえ、適正化を検討する」とされたことを受けたもの。適用は令和6年1月1日以後の相続等による取得分からだ。

1.現行のマンション評価の現状
 
 マンションの相続税評価は現行制度上、国税庁の「財産評価基本通達(以下、評価通達)」に基づき、原則として自用の場合、次のようになっている。

⑴敷地の評価…宅地や宅地の上の存する借地権等の権利の評価額を共有持分で按分して求める
⑵家屋の評価…1棟の建物全体の固定資産税評価額を専有面積の割合によって按分して各戸の評価額を算定

 国税庁の評価通達は、相続税の課税対象となる財産の経済的価値を見積もる『モノサシ』であり、評価において公平性を担保し、納税者の負担を軽くするため評価方法を画一的に定めている。

 ところが、この評価通達に基づいた財産評価では著しく不適当と認められるケースが、最近よく指摘されるようになった。その代表的なのがタワーマンションによる相続税の節税策だ。家屋の固定資産税評価額では、一棟の家屋の評価をするため、その評価にはマンション上層階の眺望などの経済的価値は加味されていない。

 このため取引価額(=時価)との乖離が生まれており、大幅な節税が可能になるという不公平感があった。もっとも従来から評価通達の中に、例外的に国税庁長官の指示を受けて、この通達の評価方法と異なる評価方法、たとえば鑑定評価額などで相続財産を評価する仕組みとして「評価通達6項」がある。

 そこで先の与党大綱では、評価通達6項の発動増加を懸念し「現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある」と、マンション評価改正の指示に踏み切っていた。

2.新たな評価方法

 新たなマンション評価の方法は、1⃣評価乖離率を求め、2⃣評価乖離率に基づく評価水準の区分により、3⃣および4⃣のように補正するものだ。

1⃣評価乖離率の求め方

次の算式で求める。
評価乖離率=①×△(マイナス)0.033+②×0.239+③×0.018+④×△(マイナス)1.195+3.220

①築年数・・・
マンションの建築時から課税時期までの期間を指す。この期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とする。

②総階数指数・・・「総階数÷33」で求める。小数点以下第4位を切り捨て、1を超える場合は1とする。階数に地下は含まない。
③所在階・・・メゾネットタイプのように2階にまたがるマンションの場合は低い階数を所在階とする。評価対象の一室が地下の場合は0階とする。
④敷地持分狭小度・・・評価対象の一室の「敷地利用権の面積÷専有面積」で算出された値。小数点以下第4位を切り上げる。

2⃣評価水準
 評価水準は1÷評価乖離率で求める。

3⃣一室の区分所有権等に係る敷地利用権の価額

 新たな自用地としての評価額=「自用地としての価額」×区分所有補正率
⑴ 評価水準が1を超える場合  → 区分所有補正率=評価乖離率
⑵ 評価水準が0.6未満の場合  → 区分所有補正率=評価乖離率×0.6
(注)1区分所有者が次のいずれも単独で所有している場合には、「区分所有補正率」は1を下限とする。

イ 一棟の区分所有建物に存する全ての専有部分
ロ 一棟の区分所有建物の敷地

4⃣一室の区分所有権等に係る区分所有権の価額

 新たな自用家屋としての評価額=「自用家屋としての価額」×区分所有補正率
⑴ 評価水準が1を超える場合  → 区分所有補正率=評価乖離率
⑵ 評価水準が0.6未満の場合    → 区分所有補正率=評価乖離率×0.6
 ただし、上記3⃣の(注1)の場合を除く。

 貸家建付地や貸家など、現行の評価通達で配慮すべき一定のファクターがある場合には現行の評価通達を上記の評価額に適用する。また、評価乖離率がゼロまたはマイナスの場合は評価しない。なお、国税庁では評価乖離率を求める算式及び上記⑵の値(0.6)については、適時見直しを行うとしている。

3.改正の影響

 今年6月の「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」の資料によれば、評価水準60%~100%は補正せず、評価水準100%超のものは100%となるよう評価額を減額するとしている。

 家屋の評価額の傾向としては、築浅のマンションほど、所在階が高いほど、敷地に目いっぱいに建っている総戸数の多いマンションであるほど、評価額が高くなる。

 たとえば、20階建てのマンションで、所在階は20階、専有面積が80㎡、敷地持ち分の換算面積が30㎡、基礎となる固定資産税評価額が一定とした設定(以下、設定A)で考えてみる。

 この場合、1年目の補正は約1.9倍、20年目で約1.6倍弱となり、家屋が新しいほど評価額が高くなる。実際には、固定資産税評価額のほうで3年に一度の評価替えの際に経年減点補正率で築年数が大きくなるほど減価される(SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やRC造(鉄筋コンクリート造)の住宅で、37年で当初評価額の半分ほど、60年で4分の1ほどになる)ため、評価額はさらに下がるものと見られる。


 設定Aにおいて所在階の違いによる影響を見ると、築年数1年で所在階10階の場合の補正は約1.8倍強となる。所在階が低いほど、補正は弱まり評価額が小さくなることが分かる。総階数の違いによる影響として、設定Aの総階数を30階とすると、補正は約1.98倍になる。また、設定Aにおいて敷地の持ち分換算面積が仮に半分になると、補正は約2倍となる。

4,配慮されない「眺望」等について

 ところで、所在階の高さとは必ずしも相関しない「眺望」「一室の向き」「採光」の良し悪しなどの要素については、新たな評価方法においても配慮が明示されていない。南向きなど魅力的な評価要素によって取引価額との乖離が生じている場合にはどうなるのだろうか。

 通達には記載されていないが、その解説として国税庁が公表した情報によると、「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用されることから、(中略)本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもある」とされ、取引価額と評価額の乖離が生じ、課税上弊害がある場合、鑑定評価で対応すると見られる。

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