第51回 日税連公開研究討論会を開催 横浜市の会場に1800人が参加
2025/11/12
日本税理士会連合会、東京地方税理士会、千葉県税理士会、関東信越税理士会共催による「第51回日税連公開研究討論会」が10月10日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜ノースで開催された。当日は、約1800人の参加者で会場が埋め尽くされ、黒岩祐治神奈川県知事も会場に駆け付けた。この公開研究討論会は、会員による研究成果の発表・討論の過程を通じて、税制、税務行政および税理士業務の改善・進歩ならびに税理士の資質の向上を図ることを目的としたもの。今回は東地会・千葉県会・関信会が担当会となり、研究成果を発表した。

第一部「デジタル化社会における税理士の役割と納税者の権利利益の保護」 東京地方税理士会
第一部の東京地方税理士会は「デジタル化社会における税理士の役割と納税者の権利利益の保護」を研究テーマとして取り上げた。
まず、「税務行政DX~どうなる日本のデジタル化」と題してパネルディスカッションを披露。税務行政の将来像や諸外国の事例などを取り上げ、納税者にデジタルを「強いられる」のではなく、「使いたい」と思われることが重要であることを訴えるとともに、税務行政のデジタル化は、支援を受けにくい納税者に配慮することが大切だと主張した。そして、納税者利便を前提とした制度設計とすること、納税者の“安心”を担保する制度を整えることを提言した。
次に、「デジタル化の進展と税理士の役割」について考察した。その中で、オランダで児童手当の不正受給を取り締まるためにAIを活用したところ、無実の人に濡れ衣が着せられた事例を報告。デジタル化が進展していく中、税理士は、納税者のデジタル化に寄り添い、公正な立場で納税者の権利を守る存在であることを提言した。
最後に、税務行政手続きの整備と納税者の権利保護について取り上げ、デジタル化社会においてどのようにプライバシーを守るのかを考察した。そして、納税者権利憲章について国際的潮流から考え、デジタル化が進展するほど納税者権利保護の重要性が高まっていると指摘。納税者の権利を支える制度的な裏付けとして、納税者権利憲章を制定することを提言した。
第二部「多様性と税」 千葉県税理士会
第二部では、千葉県税理士会が「多様性と税」をテーマに発表を行った。
まず、「働き方の多様性」として、プラットフォームワーカーの所得区分について考察。フードデリバリー配達員、個人タクシー運転手、ネット通販配達員のそれぞれプラットフォーム事業者との関係性や報酬決定、契約解除などを検討し、依存度を測定する3つの要素として「収入依存度」、「業務遂行依存度」、「経済的安全性依存度」が高ければ給与所得に近く、低ければ事業所得または雑所得に近いという考えを示した。そして、適切に所得区分が判断できず、税負担に不公平が生じることは決してあってはならないと指摘。実態に即した所得区分の判断ができる基準を整備することが喫緊の課題だと訴えた。
次に、「地域の多様性」では、離島から見る財政と税制をドラマ仕立てで発表。平塚市における「波力発電」の取り組みについて、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)が果たす役割とともに紹介した。
最後に、「家族の多様性」として、家族・婚姻制度の多様化と税制について取り上げ、所得控除における人的控除に着目。家族の多様化に対応するためにこれからの人的所得控除の在り方を検証し、会場の参加者に対し、家族の多様化に即した税制を実現するために、「人的所得控除は、今後も法律改正を続け、維持する」または「人的所得控除は廃止し、廃止による家族の負担増は税以外の他の方法で補う」のどちらに賛成かを問いかけた。
第三部「成熟国家における公平な税制とは」 関東信越税理士会
第三部の関東信越税理士会の研究テーマは、「成熟国家における公平な税制とは」。
まず、「哲学者たちの“饗宴”」と題して5人の哲学者や経済学者になり切った発表者が、それぞれが考える公平について主張。その後、公正な税制や格差解消と税制について考察し、小括として、多様な価値観が求められる現代において、「公正な税制の最適解」は存在しないとし、さまざまな理念や思想を理解し、個別具体的な議論を重ねる必要があることを訴えた。 次に、「金持ち課税と貧困救済」では、資本および所得の格差として、格差対策につながる富裕税の検討や所得税率の引き上げのほか、所得控除の見直しとして、ふるさと納税を格差の観点から考えた。「貧困問題と再分配政策」では、「医療、介護、子育て、教育についてのベーシックサービスを充実させ、すべての人が受益者となる社会の実現」、「給付付き税額控除による、生活保護に陥る前のセーフティネットの構築」などを提言した。
最後に、「消費税は公平な税といえるのか?」と題して検証を行った。そして、「格差に立ち向かう成熟した社会福祉国家の存立基盤として、消費税自体のあり方を根幹から見直す」、「優先すべきは、事業者間の公平性と消費者間の公平性の確保、特に逆進性の問題への対処である」、「政治が租税国家としてのあるべき姿を争点として示し、提供する社会保障サービスと必要となる税収との関係性を明確にせよ」という内容を提言した。