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保険・不動産Vital Point of Tax

税務上のデータから見る「親の家」の相続状況

2023/08/10

 相続財産の中でも多いのが、親の持ち家を相続するケースだ。相続人のうち誰がそこに住み続けるか決まっている家庭もあれば、相続人たちが遠方に住んでいるため、住む人が誰もいなくて空き家になってしまうケースもある。各家庭によって様々な事情を抱えているが、今回はそうした「親の家」の相続に関係する税務上のデータを考察してみる。

 国税庁によると、令和3年分の相続税の申告対象となった被相続人数は13万4275人。令和3年分の被相続人(亡くなった人)の143万8982人に対する割合は9.3%だった。相続財産は19兆6794億円で、そのうち土地の割合は33.2%で6兆5428億円。家屋の割合は5.1%で1兆133億円となっている。65歳以上の高齢者のいる世帯の持ち家比率は8割を超えるとの調査もあり(総務省:平成30年住宅土地統計調査)、親の家が相続財産になっている可能性は高い。近年、都市部の不動産価格が上昇していることから、「親の家」に関する相続の事前対策や、相続後の納税資金の確保などについてアドバイスを求める人も多いことがうかがえる。

小規模宅地等の特例の特定居住用宅地等は8万4331件

 小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、相続税の計算上、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される税制上の特典だ。このうち、亡くなった親が住んでいた実家の敷地などを相続し、その敷地が「特定居住用宅地等」に該当する場合、その土地について最大330㎡まで価額を80%減額する(租税特別措置法69条の4)。

 令和3年の記録では、「特定居住用宅地等」による全国の小規模宅地等の特例の適用件数は8万4331件。この適用件数は、令和3年分の相続税申告対象となった被相続人数(13万4275人)の6割に上っており、同特例は合法的な節税の定番となっていることが分かる。

 ちなみに、「特定居住用宅地等」による適用件数は、相続税の基礎控除が引下げられた平成27年以来、初めて8万件の大台を超えた。また、適用した相続人は全国で9万5970人となり、やはり基礎控除引下げを実施した平成27年以降、初めて9万人を超えている。平成28年以降の適用状況は表1のとおり。



 小規模宅地等の特例の適用に当たっては、税理士事務所のサポートが必要となる場面も多いだろう。ちなみに、相続税申告に対する税理士の関与件数は表2のように増加傾向にある。



 空き家譲渡特例の適用件数創設から6年間で2.5倍に

 空き家譲渡特例は、一人住まいの親が住んでいた住宅を、その親の死亡にともない相続した人が売る場合に譲渡益から3000万円を控除できる優遇税制。この制度は、相続を機に空き家が放置されるケースが多いことを受けて、空き家になった親の住宅を流通市場に乗せて、空き家を減らす政策意図から誕生した。平成28年度に創設され、直近までの適用件数は表3のとおりだ。


 創設から6年間で適用件数はおよそ2.5倍になっている。国税局ごとの適用件数を見ると、譲渡所得の申告者の住所地ベースとなるが、大都市圏に居住する人が、相続により取得した住宅を売却するケースが多くなっている。実際、東京、大阪、名古屋の三大都市圏を管轄する国税局の合計は、全体の8割水準となっている。

 なお、この空き家特例では、手続き上、売った空き家の所在地を管轄する市区町村長から「被相続人居住用家屋等確認書」をもらうことが必要になっている。同確認書では、相続の開始の直前において、被相続人が被相続人居住用家屋を居住の用に供しており、かつ、被相続人居住用家屋に被相続人以外に居住をしていた人がいなかったことなど一定の事項を確認したものだ。同確認書の交付状況(国土交通省調査:令和3年分)と空き家特例の適用状況(令和3事務年度)を国税局ごとに照らし合わせたのが表4になる。



 適用件数と交付件数のカウントの期間にズレがあるが、適用件数は譲渡所得の申告者の居住地ベースで、一方の確認書は空き家の所在地ベースのデータであるため、両者を比較して、適用件数のほうが多い場合は、その局外において空き家の譲渡が超過し、反対の場合は、その局内の空き家の譲渡が超過していることが推測される。例えば、東京や関東信越では局外の空き家の譲渡が進んでいるのに対し、大阪や名古屋では局内の空き家譲渡が活発とみられるわけだ。

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