中小企業も資金調達で活用 クラウドファンディングの魅力とは!?
2025/05/07
税理士法人Right Hand Associates 代表
原 尚美 税理士

クラウドファンディングが日本でも広く知られるようになり、中小企業が資金調達の手段として利用するケースも出てきている。
今回は、『税理士のためのクラウドファンディングの実務』の著者である原 尚美税理士に、その仕組みや活用法、税理士としての支援のあり方について話を聞いた。
――クラウドファンディングの仕組みを簡単に教えて下さい。
クラウドファンディングは、プロジェクトや事業を実現させるために資金を調達したい人と、それを支援したい人をプラットホーム上でつなぐ仕組みです。もともとは「病気の子供を助けたい」、「重要な文化財を修復したい」といった社会貢献を目的としたプロジェクトが中心で、その動きは東日本大震災を契機に一気に広がりました。
――なぜ、原先生はクラウドファンディングに注目するようになったのでしょうか。
お客様の中にはNPO法人や社団法人など慈善活動を行っている方々が数多くいらっしゃいます。そういう方々は、一般企業と違って営利を目的としていませんが、活動を続けるためには資金調達が不可欠です。彼らが、15年ほど前からクラウドファンディングを活用するようになり、その活動に共感した全国の方々から資金が集まってくる様子を目の当たりにして、非常に驚きました。それ以来、クラウドファンディングに関心を持つようになりました。
――実際に寄付をされたことはありますか。
はい。クラウドファンディングの取り組みを紹介するプラットフォームを定期的にチェックするようになり、お客様のプロジェクトはもちろん、一般の方々の取り組みも拝見していますが、その中で病気のため、病院で暮らさざるを得ない子供たちを支援するプロジェクトに心を打たれ、寄付をさせていただきました。ウェブサイトを見ていて意外だったのは、たくさんの中小企業も資金調達の手段としてクラウドファンディングを活用している点です。
――中小企業はどのように活用しているのでしょうか。
近年では、インターネット上で商品やサービスを販売する「ECサイト」としてクラウドファンディングを活用する企業が増えています。一般的なECサイトは、自社の商品やサービス、料金などを紹介するだけですが、クラウドファンディングの場合は、商品やサービスの開発段階において、なぜその商品を開発するのか、誰にどのように使ってもらいたいのか、自分たちの想いや開発に至ったストーリーを詳しく伝えることができます。そして、そのストーリーに共感・応援してくれるファンを事前に獲得できるところが大きな魅力だといえます。
――商品が完成する前からファンを獲得できるわけですね。
その通りです。どんな人が支援してくれているかが可視化されますので、支援者の属性を分析することでマーケティングに活かすことができます。また、たくさんの方々がコメントを入れてくれますので、商品の改良点を見つけることもできます。新商品の開発を考えている企業で、商品のコンセプトが明確かつビジュアル的に訴えかけることができるようであれば、クラウドファンディングの活用をお勧めします。私自身、もともと創業融資や一般融資の支援に力をいれていますが、資金調達のご相談の中で、金融機関の融資よりもクラウドファンディングのほうが適していると思えるような場合には、選択肢のひとつとしてご提案しています。
――資金調達の選択肢が広がるのは事業者にとってうれしいことですね。
ある革新的なアイデアを生み出したお客様が、それを実現させるために金融機関を訪れて融資を相談したところ、『3年後に実績ができたら来てください』と言われたことがあります。確かに、金融機関から融資を受ける場合は、どんなにすぐれたアイデアでも、それを実行した際の実現可能な収支計画書や、過去の決算書に基づく実績などの提示を求められます。しかし、クラウドファンディングであれば、そのアイデアや情熱に共感した支援者から資金を集めることが可能です。たとえ目標金額に到達しなくても、クラウドファンディングのプラットフォームにプロジェクトを公開することで、全国の方々に自分たちの活動や想いを知ってもらうことができます。広告宣伝効果を考えると、それだけでも、次に繋がる大きなメリットといえるのではないでしょうか。
――クラウドファンディングに成功したお客様の事例を教えてください。
あるお客様は、高性能の松葉杖を海外から輸入販売していましたが、輸入先の内戦の影響によって製造中止となってしまいました。そこで、国内製造に切り替えることを考えましたが、その金型を作るための資金が足りず、金融機関に融資を相談しても良い返事がもらえませんでした。それでも、「その商品を必要としている人たちに何としてもお届けしたい」という想いを諦めきれず、初めてクラウドファンディングに挑戦しました。最初はあまり期待していなかったようで、「100万円くらい集まれば・・・」などと思っていたようですが、お客様の熱意が多くの方々の心を動かし、最終的にその何倍もの資金が集まりました。
――プロジェクトを成功させるポイントは何だと思われますか。
今ご紹介したお客様の事例でも分かるように、誰のためのプロジェクトなのかターゲットを明確にして、その実現に向けた自分たちの熱い想いをしっかり伝えることが重要です。以前、あるお客様が、クラウドファンディングの紹介ページの作成を社内の事務担当者に任せたところ、出来上がったページは商品のスペックの説明だけで、なぜその会社がそのプロジェクトを行うのか、その熱意がまったく伝わってこないものでした。そのプロジェクトは結局失敗に終わりましたが、そうした事例を見ていますと、やはり社長自らが紹介ページを作り、SNSなどを使って生の声を発信していくことが重要だと感じました。
――最後にメッセージをお願いします。
ぜひ一度、クラウドファンディングのプラットフォームを覗いてみてください。そこには様々なプロジェクトが紹介されています
ので、興味があるもの、応援したいと思えるものが見つかると思います。その際、少額でも構いませんので、実際に支援をしてみてはいかがでしょうか。それを繰り返すことで次第に仕組みを理解し、クラウドファンディングの知識が深まり、お客様から資金調達の相談を受けた際、ひとつの手段としてクラウドファンディングを提案できるようになると思います。専門的なアドバイスでなくても、『同じような会社がこんなプロジェクトを立ち上げて成功させていますよ』などとお客様にお伝えするだけで、新たな気づきを与えることができるかもしれません。また、クラウドファンディングの形態も成熟しており、複雑なプロジェクトが増えてきましたから、会計処理や寄付金税制など、税理士のサポートが求められる場面もたくさんあります。一人でも多くの方々に関心をもってもらえると嬉しいですね。