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インタビューInterview

家族信託を正しく活用して資産や事業の円滑な承継を実現!

2018/06/28

遠藤家族信託法律事務所
代表 遠藤 英嗣 弁護士

――まず、信託の仕組みについて簡単に教えて下さい。
 信託では、信託を設定する人を「委託者」(オーナー)、信託財産の管理など信託事務を担う人を「受託者」、信託の利益を受ける権利を有する人を「受益者」といい、信託終了後清算手続時に受益者とみなされ最終的に残余の信託財産の給付を受けるのが「帰属権利者」となります。信託は、基本的にはこの「委託者」(オーナー)が一定の財産(信託財産)を信頼できる受託者に信託譲渡して「受益者」のために財産管理し、しかも帰属権利者等(後継者など)に信託財産を承継遺贈する制度です。


――遠藤先生が提案されている「家族信託」とは、どのようなものなのでしょうか。
 家族信託とは、家族のための民事信託で、本人の資産を適正に管理し、家族と本人の生活を護り、しかも円滑な資産の承継を実現する新しい財産管理制度です。この制度は、「信託契約」「遺言信託」「自己信託」の3つの法律行為から設定できますが、最近は「信託契約」を利用される方が多いですね。家族信託契約は、まさに家族のための財産管理承継制度で、財産を「管理(守る)」「活用(活かす)」、そして「承継帰属させる(遺す)」という機能を一つの法的仕組みでできる、他にはない特殊なワンストップの制度です。


――財産を管理するという点では、成年後見制度もあります。
 本人の資産をしっかり管理し、家族と本人の生活を護るというのは、まさに後見的な財産管理制度ですが、信託と成年後見制度では守備範囲がまったく異なります。成年後見制度は、本人の財産は本人のためにしか使えません。家族信託契約は、委託者の資産を本人以外の家族のためにも活用できますし、最終的には本人の意思に従って特定の者に、自社株式や事業用資産を確実にしかも円滑に承継することができます。それも一代に限らず何代も継続承継できます。


――財産の継続承継となると、遺言とも違ってきますね。
 遺言は、遺言者が長年の間に築き守ってきた大事な財産を、相続人など誰にどのように配分して遺し、後世に役立たせるかの意思表示ですが、その視点は遺言者の死亡時の一点です。しかし、家族信託は、遺産分割型信託契約のように、委託者死亡時に資産を承継させるものもありますが、利益を享受する受益者を次の世代に連続させたり、あるいは民法では認められない後継ぎ遺贈型の財産承継も可能です。しかも、これを組み合わせて「後継ぎ遺贈型受益者連続」の仕組みを作ることもできます。この後継ぎ遺贈型受益者連続信託によって、信託を設定する委託者の思いを100年近くの間も実現でき、あるいは特定の不動産等を長子、次に孫の長子、そしてひ孫の長子に確実に承継するいわゆる「跡取り(家督)連続承継」もできます。


――税理士の先生方から関与先の信託活用について相談を受けることもありますか。
 結構ありますね。以前は、財産管理などで信託の活用を相談されることが多かったですが、最近は関与先の事業承継対策として信託の活用をお手伝いする機会が増えています。中小企業庁も、「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」を発表するなど、信託を活用した中小企業の事業承継の円滑化に向けてさまざまな提案をしているところです。


――信託の仕組みを考えると、事業承継において有効活用できそうですね。
 問題なのは、後継者不在の経営者がしっかりと問題意識を持たず、「まだいい」などと対策を講じないで放置しているケースが少なくないということです。後継者対策は、経営者の判断能力がしっかりしているうちにというのが鉄則です。また、M&Aや廃業など、経営者が事業の撤退を考えている場合も、早期に対応すべきです。問題を先送りしている間も経営者は年齢を重ね、事業引継ぎ(M&A)の手続や廃業の清算手続に必要な判断能力が低下し、従業員や取引先離れが進み、経営者の考えが実行不能になり、悲惨な結果に陥ることも十分あり得るのです。


――確かに、手続きの途中で倒れてしまうことも考えられます。
 経営者が正しい判断ができなくなれば、適正な手続を踏んでの撤退は不可能になります。その結果、多くの人に迷惑を掛ける倒産廃業の道しか残っていないということもあり得ます。本人の手で廃業する場合はもちろん、事業引継ぎ(M&A)を実現させるにも最低3年は必要だと言われていますが、高齢の経営者にはこのような時間がない場合も少なくありません。


――万が一に備えて信託を活用しておくわけですね。
 事業引継ぎ(M&A)であれば、身内のキーマンに受託者を託し、自らは議決権行使の指図権を持つなどの設定により、当初は共に事業引継ぎを主導し、いざというときに主導者がいなくなるということを避けることができます。同じく廃業する場合でも、自己の代わりの者を受託者に立てて、廃業への道筋プランを立て、最終的には途中で現経営者が死亡したとしても、そのプランに沿って清算手続を結了させ事業を閉じることが可能です。


――信託の活用で留意すべき点はありますか。
 家族信託は「家族で信託の内容を自由に決められる、何でもできる制度」と言う人もいますが、これを信じてはいけません。家族信託も基本的ルールがあります。また、「正しい信託」、「生きた信託」でないと意味がありません。正しい信託とは、法律、その他信託の基本的ルールを守り、公序良俗に反しない社会的にも認められる委託者の希望を叶える長期間機能する家族信託のことです。また、家族信託を制作するには、信託の長期的な管理機能を確実に働かせて、目的を達成させるため、何十年もの間、信託が機能するように細心の注意を払うことが大事です。この細心の注意を払って、できあがったのが「生きた信託」です。もちろん、長期の事務処理や受益者保護のために、機能不全に陥らないよう、信託の変更を視野に入れておく必要もあります。


――最後にメッセージをお願いいたします。
 中小企業では、後継者の確保がますます困難になっており、数年後には100万社の企業が後継者不在の「大廃業時代」に追い込まれると言われています。今後、廃業の道を選択する経営者も増えてくることが予想されますが、家族信託は、財産承継や事業承継だけでなく、経営者が求める事業引継ぎ(M&A)や廃業を実現させる仕組みとして、これからの大廃業時代において大きな役割を果たすと信じています。


遠藤英嗣 弁護士
 1971年、法務省検事。最高検察庁検事、高松地方検察庁検事正などを経て、2004年に検事退官。2005年、公証人任官(東京法務局所属)。2015年、公証人退官。2015年4月、弁護士登録。同年、遠藤家族信託法律事務所を開設。日本成年後見法学会で常任理事を務める。「新訂 新しい家族信託」「家族信託契約」など著書も多数。

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