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インタビューInterview

相続人が一番不安になるのは 税理士に放っておかれること

2016/07/29

福田 真弓 税理士

 相続支援に特化している福田真弓税理士。相続案件の関与はリスクがあると言われるが、福田税理士はどんなことに注意してリスク管理を行っているのだろうか。また、顧客満足を高めるための工夫や、相続案件の落とし穴などについて話を聞かせてもらった。

――開業当初から資産税に特化されていたのでしょうか。
 もともと資産税に特化した事務所に勤めていたので、その分野を専門にやっていきたいという思いはありました。ただ、独立した頃は関与先が1件もなく、資産税だけで食べていけるとは考えていませんでしたね。その後、知り合いの税理士から資産税案件のサポートを依頼されるようになり、少しずつ仕事が増えていく中で、ある時、相続の本を執筆することが決まりました。これは、私にとってターニングポイントのひとつだったと思います。自分でも驚くほど、非常に多くの方々に読んで頂きました。

――書籍を執筆した後、どのような変化がありましたか。
 雑誌のインタビューやセミナー講師の依頼などを受けるようになりました。事務所のホームページやブログのアクセス数も増えて、相続の相談や相続税の申告依頼などが寄せられるようになりました。その頃、法人の関与先も10 件以上ありましたが、やはり資産税で食べていきたいという想いが強く、法人の仕事は知り合いの税理士に紹介しながら減らしていきました。

――開業当初の夢が叶ったわけですね。
 そうは言っても毎年何十件も相続税の申告業務を行っているわけではありません。資産家の中には、相続税の試算を一度も行ったことがない方、預貯金をたくさん持っているのに何の対策も講じていない方、家族関係が複雑な方などがいますので、生前贈与や生命保険の活用、遺言書の作成、自社株評価の引下げなど、個々のケースに合わせて生前対策をアドバイスしながら報酬をいただいています。また、相続には税金以外の問題もあれば、相続発生後にサポートすることも出てきますので、外部の力も借りながら、できる限りワンストップでサポートするようにしています。

――相続人とのやり取りで気を付けていることはありますか。
 一番は、お客様を放っておかないことです。電話やメールで問い合わせがあれば、1日以内にレスポンスするように心掛けています。もし、その時点で明確な回答ができなくても、「すぐに調べてお返事いたします」などと返します。相続人の中には、初めて税理士と関わる方も多く、相続税の申告も分からないことばかりです。常に相続人の側にいると感じでもらえるだけでも、不安はかなり取り除けると思います。

――経営者のように税理士に慣れていない相続人がたくさんいるわけですね。
 夫婦の場合、男性が先に亡くなるケースが多いですから、相続が発生して相談に訪れる方の多くはご高齢の奥様やそのお子様たちです。税金についても素人の方が多いため、相続財産に当然含まれるものであっても、本人は相続とは関係ないと思っていることがあります。ですから、こちらから細かいところまで聞き取るように心掛けています。とはいえ、相続財産は自宅と預貯金だけと言っていたのに、後々になって被相続人の先祖名義のままの土地が出てきたり、被相続人が購入した未上場株などが出てくることもあります。遺産をすべて把握できるかどうかが一番重要なポイントといえるでしょう。

――相続財産が漏れているのは怖いですね。
 厄介なのは、こちらが事前に説明したのにも関わらず、後で「聞いてないから、税理士の責任だ」と言われてしまうケースです。そうしたトラブルを回避するため、相続人とのやり取りの証拠は残しておくべきでしょう。相続財産の中でも注意したいのが名義預金です。同居の家族名義の通帳については全部確認したいとお願いしています。全部確認できない場合は、その部分については責任が負えないことも事前に伝えておきます。また、土地の評価にも落とし穴がたくさんありますので、単なる自宅であっても必ず現地に行って確認するようにしています。

--- 単なる自宅の評価も現地で確認 ---

――自分の目で確認しなければ分からないこともあるのでしょうか。
 以前、相続財産の自宅を現地で確認したところ、通り抜け私道として使われている部分が二方にあり、さらにセットバックも必要だったので、その部分をメジャーで測り、自宅の評価額から減額しました。それらは登記簿や固定資産評価明細書などからは分からない事実だったため、書面だけで土地を評価したら大変な過大評価になるところでした。相続財産に土地が絡んでくると、役所を回るだけでも時間が取られますので、10 カ月の申告期限はあっという間ですが、土地の評価は焦らず慎重に行いたいところです。特に、相続税の申告書は、申告後に別の税理士に見られることがありますので、そこでミスが見つかれば、申告書を作成した税理士が責任を問われます。私自身、二次相続の申告を依頼された時、一次相続の申告書を確認したところ、広大地評価が使えるのに税理士が見落とし過大に申告していたケースがありました。最近は、申告する前から更正の請求の営業をするような税理士もいますので、ひとりで対応するのが難しい場合は外部の力を積極的に活用すべきでしょう。

――過去に相続案件でトラブルに巻き込まれたことはありますか。
 相続で揉めているらしき人から事務所に電話があり、「変なことを吹き込んだのはお前か」などと怒鳴りつけられたことがあります。しかし、全くの人違いで、別の事務所だと何度も説明しましたが、興奮して話を聞いてもらえず、「今から事務所に行くから待ってろ」と言われた時は身の危険を感じましたね。税理士は良かれと思ってアドバイスしたことでも、相続人間で不公平感が出てしまえば、すぐにクレームに繋がりますので、相続人全員にひとつずつ丁寧に説明することが重要だといえます。また、お会いする度に言うことが変わる方、情報を隠そうとする方はトラブルが起きる可能性がありますので、こちらから仕事を断ったり、上手く相手から断って頂けるようにすることも必要ではないでしょうか。お客様を見極めることもリスク管理として大切だと考えます。

――相続に関する相談者は女性が多いと言われますが、相談相手として女性税理士のほうが有利だと思いますか。
 一概にそうとは言えないと思います。同じ女性ということで話しやすいという利点はあるかもしれませんが、友人ではありませんので、相談者と同じ目線になってしまうと争いが激化する恐れもあります。あまり深く入り込み過ぎると、相続争いに巻き込まれる可能性が高まりますので、そこの線引きはプロの専門家として常に意識しておくべきでしょう。私の場合、初回の相談も基本的に有料にしています。そのほうが仕事としてしっかり対応できますので、気分的にも楽ですね。

--- お客様の見極めも大切なリスク管理 ---

―既存の顧客から相続案件を紹介されることもありますか。
 はい。資産税の場合、お客様の親戚や知人など個人のネットワークから案件を紹介して頂けるチャンスがあります。生前対策は別ですが、相続税の申告業務は単発のため、数年前に関与したお客様から突然紹介の電話が入って驚くこともあります。いずれにしても、お客様に喜んで頂けるサービスを提供できれば、次の案件に繋がっていくチャンスは十分あると思います。

――最後に、福田先生にとって相続支援とは?
 プライベートのお金の話や、時には身内の恥ずかしい話なども聞かせて頂き、相続対策や相続税申告の仕事を信頼して任せてもらえる――、そんな職業は税理士のほかにないと思います。最愛の方を亡くされた奥様の中には、深夜や土日でも構わず電話をかけてきて、会話の途中で泣かれてしまい何時間も話に付き合ったこともあります。大変なことも多いですが、相続は一生に何度もありませんので、そのお手伝いをできるというのは、非常にやりがいのある仕事だと思っています。

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