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インタビューInterview

生産性を向上させることがSDGsへの貢献に繋がる

2022/08/12

アイネックス税理士法人(京都・京都市)
代表社員 川端 雅彦 税理士

 「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals、略称:SDGs)に取り組む企業が増えているが、その動きは税理士業界でも見られるようになってきた。アイネックス税理士法人(本社=京都・京都市)もそのひとつ。SDGsを日々の事務所経営にどのように落とし込んでいるのか、代表社員の川端雅彦税理士に話を聞いた。

――税理士法人としてSDGsに取り組もうと思ったきっかけからお聞きします。
 SDGsに掲げられた達成すべき目標である「17のゴール」の中に、私自身が持っていた問題意識と共通するものが複数ありました。例えば、「質の高い教育をみんなに」、「ジェンダー平等を実現しよう」、「働きがいも経済成長も」などの目標は、企業経営をしていくうえで避けては通れない重要なテーマであり、それは事務所経営においても同様です。アイネックス税理士法人では、職員一人ひとりのSDGsに対する意識を高め、行動に移せる人材を育成するために様々な取組みを実施しています。

――SDGsというと、脱炭素化などをイメージしてしまいます。
 確かに、そういう方も多いと思います。SDGsで掲げられている目標は世界レベルの大きなもので、自分には関係ないと思われる方もいるかもしれませんが、中小企業や税理士事務所が抱える課題、例えば社員の働き方や働きがい、生産性の向上、待遇の向上といった課題解決に向けて行動することは、実はSDGsの目標として掲げている取り組みとも深く関わっているのです。

――具体的な取り組みについて教えてください。
 まず、「質の高い教育をみんなに」という目標です。お客様に対して税務や財務の改善を指導するためには、税制に関する知識を常にアップデートするのはもちろん、税務や会計のほかにも様々なスキルを身につける必要があります。そこで、職員には年間60時間の研修を推進し、それらの研修費はすべて税理士法人が負担しています。私どもは人事評価を年3回実施していますが、研修によって習得したスキルを評価する項目も設けています。ただ、この人事評価は、職員を評価すること自体が目的ではなく、職員の成長のスピードを加速させることを目的としています。

――確かにSDGsの目標と関連していますね。
 「ジェンダー平等を実現しよう」や「働きがいも経済成長も」という目標も、私どもが取り組める重要な課題と位置付けています。特に、育児や介護をされている方は時間的な制約があるため、定時までの勤務や残業が難しく、高い能力があっても正社員として働くことを諦めている方がいます。そこで、アソシエイト職という正社員の時短勤務制度を採用したところ、優秀な方がたくさん仲間に加わってくれました。子育てや介護にはお金もかかりますので、フルタイムで働いている正社員と比べて待遇面でもそれほど遜色がないような制度にしています。保育園や介護施設などから急な呼び出しがあった時は、遠慮なく帰っていただける環境を整えています。

――ジェンダー平等とともに働きがいも向上するような制度ですね。
 職場や仕事に働きがいを感じている人と、働きがいを持ち得ない人の生産性は2倍くらい違うと言われています。働きがいを感じないフルタイムの正社員をたくさん抱えるより、働きがいを持って仕事をしてくれる時短勤務の社員を集めたほうが、生産性が高まるのは間違いありません。実際、アソシエイト職を新設したことで、税理士法人の女性比率は50%を超えています。もちろん、私どもの生産性もかなり向上しています。そのほか働き方改革として在宅勤務も導入しています。週2日は出社で、残りは在宅と出社のどちらかを選べるようにしています。

――在宅勤務を選択している職員の割合はどれくらいですか。
 ほぼ100%の職員が、週2~3日の在宅勤務を選んでいます。職員向けにアンケートを実施しましたが、こうしたリモート勤務形態の満足度は非常に高く、心身の健康に効果的な働き方になっています。在宅勤務で使用するノートパソコンなどはすべて支給するほか、通信費などもこちらで負担しています。現在、業務効率や生産性を向上させるため、業務の80%を電子化していくことを目標としていますが、DX化によってペーパーレスを可能にすれば、森林伐採などによるCO²削減に寄与することになり、また、在宅勤務を取り入れることで、エネルギーをたくさん消費する車や飛行機による移動を抑えることにもなるわけです。

――関与先とZOOMなどでやり取りする機会も増えましたか。
 増えましたね。私どもの職場はIT化にかなり前向きに取り組んでいますが、それでも新型コロナの影響がなかったら、ZOOMで打合せをすることにお客様から理解を得るのは難しかったと思います。私どもは大阪にも事務所がありますが、京都と大阪の職員たちをZOOMで繋いでディスカッションしたり、お客様に対してもZOOMを活用して各営業所の一斉研修を行うなど高いレベルのご支援ができるようになりました。

――SDGsの取り組みは独自に行っているのでしょうか。
 SDGs経営の実践をサポートしている(一社)日本ノハム協会とパートナーシップを結び、税理士法人としての目標を掲げ、取り組みを進めています。この協会の神田尚子代表理事とは、稲盛和夫さんの「盛和塾」での塾生同士という関係もあって、メンバーシップ企業として加盟させていただきました。ただ、外部のサポートがあっても、一番大事なのはSDGsの意識を自分たちで高めていくことですので、朝礼の時に「私が取り組んでいるSDGs」といった事例を職員に発表してもらい、全員で意識の向上に努めています。

――SDGsへの取り組みを対外的にアピールしていますか。
 名刺にSDGsのロゴを印刷して、配布する際に自分たちの取り組みをアピールするほか、税理士法人のホームページ内にある採用コーナーでも周知をしています。特に、今後の社会を担っていく「Z世代」が就職先を決めるポイントとして企業の「社会貢献度」を重視する傾向にあると言われていますので、SDGsへの取り組みは人材採用という点でも大きな効果を発揮すると思います。

――関与先の反応はいかがでしょうか。
 お客様に名刺を渡すと「自分のところでもSDGsに取り組もうと思っていた」とか、「私のところでも取り組んでいる」などとおっしゃる方の割合が増えてきましたね。SDGsに関心のあるお客様には(一社)日本ノハム協会をご紹介したり、社内のDX化や人材育成にお悩みの場合は、私どもが一緒にサポートしています。

――今後の展望をお聞かせください。
 SDGsの実現に少しでも貢献できるように日々精進するとともに、SDGs経営に向けたリーダーシップを発揮する社員の育成、さらに未来に繋がる人材が集まる組織作りを目指していきます。また、SDGsの普及・促進にも力を入れていきます。特に、電子帳簿保存法や電子インボイスは、税理士事務所がペーパーレス化に取り組むチャンスといえますので、それをきっかけにSDGsを意識する事務所が少しでも増えてくれば嬉しいですね。

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