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インタビューInterview

破たん寸前のアパート経営を再建 脚光浴びる『大家さん専門の税理士』

2020/11/09

渡邊 浩滋 税理士・司法書士(東京・千代田区)

――実家のアパート経営を立て直した経験があるとお聞きしました。
 もともと実家が都内で農家をしている地主で、祖父の相続対策として複数のアパートを所有していました。それらの賃貸経営は両親が行っていましたが、私は次男だったので、兄が引き継ぐものだと思い、自分の道は自分で切り開こうと司法書士の勉強を始めて大学4年生の時に資格を取得しました。その後、商社の法務部に就職しましたが、あらゆる場面で税金が絡んできますので、漠然と会計を勉強するようになり、その面白さにハマって税理士試験の勉強を始めました。そんな時、母親から「固定資産税が払えない」という相談を受けたのです。当時、5棟86室の家賃収入がありましたので、そんなわけないだろと耳を疑いました。


――それだけの家賃収入があるのに、どうして固定資産税が払えないのでしょうか。
 調べてみると父親が家賃収入をすべて生活費として使っていたのです。通帳や帳簿を見ると残金はほとんどなく、破産するのは時間の問題でした。兄に相談したら仕事が忙しくて無理だというので、実家の窮地を救うのは自分しかいないと思い、税理士試験の勉強をしながらアパート経営を立て直すことを決意しました。

――具体的にどのようなことに取り組みましたか。
 賃貸経営の経験なんてありませんので、まずは賃貸経営に関する書籍を50冊ほど読んで勉強しました。その後、このような状況になった原因を調べたところ、事業計画を作っておらず、空室対策もまったく行っていないことが分かりました。そこで、物件のチラシを持って近所の不動産屋を30件近く営業して回ったり、簡単にできる空室対策をいろいろと考えて実践しました。

――空室対策の効果はありましたか。
 例えば、女性専用アパートの空室対策として、テレビモニターの設置などセキュリティ面を強化しましたが、すぐに満室になりました。あまりにも簡単に空室が埋まったので驚きましたが、ターゲットを選定し、その人を満足させる部屋のウリをしっかり訴求することができれば、入居希望者は必ず現れるということを学びました。アパート経営を引き継いで半年後には資金繰り難から脱出し、1年半が経った頃には預金残高ゼロ円から1400万円まで改善することができました。

賃貸経営の最大のリスクは、大家さんが行動しないこと

――アパート経営を再建させる秘訣のようなものはありますか。
 私がアパート経営を立て直すことができたのは、単に行動したからです。言い換えれば、賃貸経営が上手くいかない一番の原因は「行動しない」ということです。空室が増えても漠然と不安を抱えるだけで何も行動しない。これが最大のリスクです。また、大半の大家さんが事業計画を立てていません。賃貸経営というのは、来年、再来年はあまり変化が見られませんが、5年後、10年後は大きく変わってきます。借入をして賃貸経営を始める場合、利息は経費になりますが、元金の返済は経費になりません。元利均等返済方式で借入すると、毎月の返済額は一定ですが、返済額に占める元金の割合が年々増えていき、経費にできる利息は減っていきます。その結果、返済額は変わらないのに、手元に残っているキャシッュよりも申告所得の方が多くなってしまうという現象が起きるわけです。

――そのような情報を求めている大家さんは多いと思います。
 確かに、私も両親から賃貸経営を引き継いだ時、大家というのは非常に孤独であるということを実感しました。そこで、大家さん同士が集まって情報収集や情報交換ができれば心強いのではないかと考え、「大家さん会」というコミュニティーを立ち上げたところ、多くの大家さんに入会していただきました。皆さんが生き生きとした表情で情報交換している姿を見ているうちに、もっと大家さんの力になりたいという気持ちが強くなり、2011年に独立開業して「大家さん専門の税理士」として活動するようになりました。

――資産税専門などはよく聞きますが、大家さん専門というのは珍しいですね。
 自分でもニッチな分野だと思います。顧問契約の依頼もそんなに期待できませんので、家族を養える程度に一人でやっていければ十分だと考えていました。しかし、大家さんの仲間とともに「行動する大家さんの会」という勉強会を立ち上げたところ、毎回100人以上の大家さんが勉強会に参加し、会の登録者は800人を超えました。ちょうどその頃、私もセミナー講師などで「大家さん専門の税理士」として認知されるようになり、顧問契約の依頼が相次ぎ、独立から6年後には顧問先が400件を超えました。賃貸経営に特化した税理士がいなかったことも顧問契約が急増した理由のひとつだと言えますが、それでもこんなにニーズがあるとは夢にも思いませんでした。

――事務所規模が大きくなると職員の確保という問題が出てきます。
 現在23人のスタッフが在籍しており、そのほとんどが未経験で入ってきましたが、賃貸経営は仕訳数が一般企業と比べてとても少なく、収入は月に1回の家賃収入だけで、支出も借入金の返済やちょっとした経費だけです。パターンが決まっていますので、未経験者でも十分対応できています。基本的に入力処理はパート社員が中心となって行い、ほかのスタッフはお客様への対応業務に専念しています。というのも、お客様の99%が大家さんのため、一人ひとりの相談にしっかり応えていくことで、大家さんが抱える悩みとその解決策がどんどん蓄積されていき、賃貸経営のあらゆる問題に対応できるようになります。これは事務所にとって貴重な財産といえます。

――今後のビジョンをお聞かせください。
 実は、事務所のキャパシティ以上にお客様が増えてしまったので、現在は新規の顧問契約をストップしています。それでも賃貸経営に悩んでいる大家さんの力になりたいという想いは変わりませんので、大家さん専門税理士ネットワーク「Knees bee」を発足させ、税理士の先生方とフランチャイズ形式による業務提携を行っています。ただ、このフランチャイズはお金儲けのためでなく、地元の大家さんの力になることを目的としていますので、同じような考えを持っている人を見極める必要があります。その見極めの一環として、今年6月から『「脱」申告税理士研究所』という会員制のオンラインサロンを開始しました。申告業務を一切行わないという前提で税理士がどのように生き残っていくかを考えた時、新しい発想が生まれるのではないかとの想いから『「脱」申告税理士研究所』と名付けました。サロンでは、毎月テーマを決めて3本の動画を配信し、最後の週にZOOMを活用して会員同士が意見交換を行っています。興味がございましたら是非ご覧になってみてください。また、最近は怪しそうな大家さんの会などもあると聞きますので、オンラインによる大家さん向けの情報発信にも力を入れていく予定です。

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