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インタビューInterview

加速するキャッシュレスの世界 フィンテックで何が変わるのか?(上)

2016/11/08

瀧 俊雄 氏 マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長

 新聞や雑誌で話題となっている「フィンテック(Fintech)」。言葉は知っていても、世間一般ではフィンテックに対する理解度はまだまだ低く、関与先から「フィンテックって一体何?」などと聞かれる機会も今後増えてくることが予想される。
 そこで、フィンテックの基本を押さえておくため、マネーフォワードFintech
研究所長の瀧俊雄氏に話をうかがった。フィンテックはなぜ注目されているのか、日常生活でどんなことが起きるのか、そして税理士事務所への影響は――。



――フィンテック(Fintech
)を理解する前に、まず、私たちの生活の中にコンピュータがどのように浸透してきたのか、日本におけるIT
化の流れを簡単に教えてください。

 1980年代から10年代ずつ見ていきますと、80年代においてコンピュータを使っている人は、IT関連の専門家や銀行などの業務上で使用する人に限られていました。80年代にもパソコンはありましたが、それを趣味とする人は別ですが、一般の方がパソコン単体を持っていても、とりわけ面白さを感じなかったでしょう。

 個人のためにパソコンが広く使えるようになったのは、90年代に Windows3.1やWindows95などが発売された後のことです。それから間もなく世の中が大きく変わっていきます。2000年代になってインターネットが普及したことで、人々の間に「パソコンは面白い」という認識が広がり、ここからユーザー数は一気に増加します。そして、2009年頃からスマートフォンが登場し、パソコンに限らず、どこでも自由にインターネットを楽しむことができるようになりました。同時に、ソフトウェア産業なども飛躍的に栄えていき、国民にとって便利なサービスが次々と開発されてきたわけです。

――では、フィンテックとはどのようなもので、いつ頃から注目されるようになったのでしょうか。

 フィンテックとは、金融の「ファイナンス(Finance)」と技術の「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語です。様々な定義がありますが、ITを活用した新たな金融サービスと捉えていいでしょう。最近では、金融分野に強いITベンチャー企業を表す言葉としても用いられています。
 1980年代や90年代は、フィンテックにまつわる大きな動きはありません。そもそも、当時の金融サービスは基本的に「対面」で行われるのが常識とされており、銀行のATMが進化することはあっても、ITを活用した金融サービスが誕生する環境ではなかったわけです。そして90年代が終わる頃、インターネットバンキングやインターネットによる証券取引のサービスがスタートしますが、この時点ではまだ、店舗で出来ることが自宅で出来るという単なる「オンライン化」の実現に過ぎません。
 その後、スマートフォンが登場したことで、人々はいわば小型のパソコンを持ち歩くようになります。そうなると、スマートフォンを使った金融や決済の技術革新を模索する動きが出てくるのは必然です。特に、アメリカでは革新的なアイデアを持ったベンチャー企業が次々と現れ、例えば、決済サービスのフィンテックとしては「ペイパル(PayPal)」や「スクエア(Square)」が人気を集めるなど、人々にとって有益な金融サービスが次々と登場します。
 この頃、日本のメディアがフィンテックを取り上げることはほとんどありませんでした。現在のようにフィンテックが騒がれるようになったのは、ここ最近、1~2年のことです。本来であれば、日本の銀行においても、スマートフォンの波に乗って新しいサービスを提供し、フィンテックの世界で群を抜いているところが1行くらいあってもおかしくなかったかもしれません。日本でスマートフォンの波に上手く乗ったものとしてはFXがあげられると思います。
 このように、インターネットやスマートフォンの普及により、日本国内のIT化が推し進められてきたわけですが、同時に、90年代のYAHOO(ヤフー)、2000年前後のGoogle(グーグル)などの登場によってマーケティングのあり方も180度変わっていきます。
 それまで、商品やサービスというのは、メディアを通じて消費者に伝え、それらの価値に魅力を感じた消費者が求めてくるという導線でした。しかし、「検索」という機能により、消費者が「良いものが欲しい」などと複数の商品やサービスから自分に最適なものを探し求める導線になったわけです。しかも、検索というのは、人の思いそのものが入っており、消費者のパワーによって大きく進化していきます。さらに、パソコンに限らず、スマートフォンでも検索できるようになったことで、好きな場所であらゆることを調べることが可能となりました。
 消費者は、検索によってより良いものを常に追い求めてきますので、提供者側としても消費者を満足させる商品やサービスを生み出していかなければ、消費者に選んでもらえません。当然、金融機関もその流れから逃れることはできません。ベンチャー企業などが安価で利便性の高い金融サービスを次々と提供していますので、金融機関としても利用者を満足させるため、フィンテックをどのように取り込んでいくかが課題となっているわけです。

――フィンテックによって、金融はどのように変わっていくのでしょうか。

 
簡単に言えば、銀行がもっと便利になると考えています。どのように便利になるかというと、まず、世の中がキャッシュレスになることが予想されます。今後、電子マネーはさらに進化し、クレジットカードもこれまで以上に便利になっていくでしょう。さらに、デビットカードは、これまで利便性が限られていましたが、今年5月の銀行法改正により、小売店のレジや宅配業者が持ち歩く情報端末などを通じて預金を引き出せるサービスが解禁されました。わざわざATMに行ってお金を下ろす必要がなくなるわけです。現在、日本の経済取引の約55%が現金で行われていますが、アメリカ並みの約20%まで下がったとしたら、これまでと違った世界になることは明白です。2020年の東京五輪開催までには、キャッシュレスの環境整備はかなり進んでくるのではないかと見ています。

 ここから少し経理の話になりますが、電子化によってキャッシュレスになれば、それらの取引履歴データをオンライン上で取得することが可能となります。そうなると例えば、クレジットカードで携帯電話代を1万円支払えば、それは通信費で未払金になるなど、コンピュータが勝手に予測して処理してくれます。経理の担当者は、自動処理した画面を確認し、間違っていなければ登録ボタンを押すだけで終わりです。特に、毎月発生している取引であれば、先月も今月も勘定科目は同じですから、そこは労力をかけずに自動処理できるはずです。経理の作業の中で、毎月発生している取引をすべて省略できるだけでも、非常に大きな効果があると思います。
 これまでの日本は、現金の授受を前提とする取引が大半を占め、手作業や紙しか認めないという制約がありましたが、今後は緩やかに改定されていく方向にあります。国税関係書類のスキャナ保存にしても、今年9月から要件のハードルが下がりましたので、今後は移行を検討する人も少しずつ増えてくるのではないでしょうか。キャッシュレス化がさらに進んでいけば、10年後にはレシートもほとんど電子化され、スマートフォン経由でクラウド上に送られてきたり、特定のメールアドレスに送信されるような仕組みになっているかもしれません。証憑資料もインターネット経由で収集できるようになるわけです。
 もちろん、IT化が進んでも従来のやり方を好まれる方もいらっしゃるでしょう。しかし、帳簿などがすぐに出来上がれば、会社の体力をタイムリーに確認でき、経営のPDCAを早く回すことができます。すでに、そのような企業も増えていますので、競業他社に勝つためには、今後、そうしたスピード感が求められてくるのではないでしょうか。

 次回(下)は、フィンテックによる税理士事務所への影響を検証。

 

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