インタビューInterview

経営者の「気づき」を引き出す 管理会計を軸にした経営支援

2026/01/29

八重洲税理士法人 代表社員 曽宮 崇広 税理士

 経営コンサルティング会社の勤務時代に、企業のさまざまな経営課題に携わってきた曽宮崇広税理士。その経験や培ってきた視点を活かし、管理会計を軸に未来を見据えた数字を示すことで、経営者自身の「気づき」を引き出す支援を行っている。現在は産婦人科の支援に重きを置き、医師やスタッフの思いに寄り添いながら、経営課題の解決に向けて全国を奔走している。

――これまでのキャリアについて教えてください。

 就職氷河期の世代で、大学在学中は税理士である父の勧めもあり、公認会計士を目指して専門学校に通いました。ただ、三年間と期限を決めて挑戦し、区切りをつけて建設会社の経理部に就職しました。数字をつくる立場で現場を支えていましたが、不景気の中で社内に入っていた経営コンサルタントの姿を見て、数字で経営を動かす仕事に惹かれるようになりました。その後、会計事務所を母体とする経営コンサルティング会社に転職し、建設業を中心に経営改善や人事評価制度の構築などに携わりました。抜擢の多い会社で、20代後半には大阪支社長や執行役員を任され、全国を飛び回りながら実践的な経験を積みました。

――順調にキャリアを重ねる中、なぜ税理士の道を選ばれたのでしょうか。

 公認会計士や税理士の上司が現場に入ると、その一言で空気が変わる。専門資格があることで、発言の信頼性や影響力が高まる場面を何度も目にしてきました。そうした経験を重ねる中で、資格を持たないコンサルタントとして、自分の信用だけで勝負し続けることに次第に限界を感じるようになってきました。そんな折、父から「事務所を継がないか」と話がありました。この言葉をきっかけに、税理士という立場で父の事務所を拠点に、経営支援に本気で向き合おうと決意し、30歳で会社員生活に区切りをつけ、事務所を継ぐ道を選びました。

――顧問先支援において大切にしていることはありますか。

 経営者自身が、数字から気づきを得られる状態をつくることです。こちらが正解を示すのではなく、経営者が「こうしたい」と未来を描き、その実現に向けて、数字からどのような道筋が見えるのかを一緒に考えていきます。そのために、財務会計や税務会計に加え、経営判断に役立つ「管理会計」を軸に支援しています。過去の結果を見るだけでなく、経営者が業績の着地予測や足元の状況を把握できるよう、少し手を加えた分かりやすい財務諸表や決算書を作り、「今、意識すべき数字」に気づいてもらいます。あわせて、管理会計は費用対効果が重要なため、省力化・合理化を図りながら納得できる数字を出せるよう一緒に考えていくことを意識しています。こうした管理会計のエッセンスを共有しながら、経営者自身が課題に気づき、次の一手を選べる状態を目指しています。

――事務所を継ぐ立場として、どのような問題意識を持たれていましたか。

 父が長年かけて築いてきた事務所を引き継ぎ、スタッフを預かる立場になることには、大きな責任と強い緊張感がありました。「温故知新」という言葉を大切にしていますが、父が大事にしてきた価値観と自分が目指す方向性のどこを残し、どこを変えるのか、その判断は今でも簡単ではありません。また、紹介による顧問先の増加はある一方で、長くお付き合いしてきた顧問先の「自然減」も避けられず、事務所としての強みをより明確に打ち出していく必要性を感じていました。

――事務所の強みをどう打ち出すかが課題だったわけですね。

 はい。ただ、近年は特化型事務所も増えて、「相続に強い」「医療に強い」といった内容では差別化を図るのは難しい状況です。そうした中、コンサルタント時代のご縁で、産婦人科の先生方を対象にしたセミナーを行う機会がありました。その際、産婦人科の収益構造が建設業とよく似ていることに気づいたんです。建設業では、受注が決まった段階で工期や工程が見え、将来の入金の流れを想定できますが、産婦人科でも妊娠が分かれば予約金が入り、検診、分娩、退院会計、出産育児一時金まで、収入を時系列で見通すことができます。どちらも、収益が一定期間をかけて積み上がる一方で、人件費などのコストが先行して発生する構造です。にもかかわらず、過去の数字を振り返ることにとどまり、将来の収支を見通す視点が持たれていない現場が多い。この分野であれば、自分が培ってきた管理会計を軸とした支援が生きると考え、専門性を高めました。

――産婦人科では、今どのような課題に直面しているのでしょうか。

 出生数の減少で患者数は増えにくく、今後は分娩の保険適用化によって単価も上げにくくなります。一方で、人件費や設備投資、資材高騰、金利上昇などコストは増え続け、将来への不安を抱える先生方が非常に多いのが現状です。そこで、管理会計によって将来の数字を可視化し、設備投資や賞与、節税などの判断を前倒しで行えるように支援しています。不妊治療や無痛分娩の導入支援に加えて、場合によっては分娩をやめて、婦人科外来クリニックへ転換する選択肢を提示することもあります。また、全国30か所以上の支援実績から得た成功・失敗事例を匿名で共有し、経営判断の材料として活用しています。

――産婦人科支援において大切にしている思いを教えてください。

 多くの医療はマイナスをゼロに戻す仕事ですが、産婦人科はゼロからプラスが生まれる特別な場所です。私自身4人の子どもを産婦人科で授かり、温かい空気を何度も感じてきました。一方で、医師や助産師、看護師の方々は厳しい環境の中24時間体制で現場を支えています。だからこそ、経営の不安や数字の見えにくさを減らし、安心して医療に向き合える環境を整えることが、自分にできる支援だと考えています。産婦人科が元気になれば、地域も社会も、そして日本の未来も明るくなると信じています。

――曽宮先生は租税教育にも力を入れていると伺いました。

 もともと子どもと接することが好きで、租税教育のお声かけをいただいた時、新しい挑戦として迷わず引き受けました。税を身近な社会の仕組みとして「自分ごと」と考えるきっかけを届けたいと考えています。授業後に子どもたちが駆け寄って質問をしてくれる時間は、何度経験しても嬉しいものです。初回の授業以来、租税教育は私にとって大切なライフワークとなっています。

――子どもたちと接する際に、心がけていることはありますか。

 相手の目線まで自分が「下りていく」ことです。租税教育の現場や、休日にサッカーコーチとして子どもと向き合う時も、上から教えるのではなく、友達のような距離感で一緒に考え、学ぶ姿勢を心がけています。「教えてあげるからついてこい」ではなく、「一緒に成長できるといいよね」という感覚です。この考え方は、顧問先への経営支援でも変わりません。相手と同じ目線で向き合い、考えを共有することでこそ、本当の気づきや前向きな一歩が生まれると思っています。

 

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