日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

税務の勘所Vital Point of Tax

「個人事業者の事業承継税制」は個人開業の医師・歯科医師も対象に!

2019/05/14

 個人事業者の高齢化が急速に進展するなか、円滑な世代交代を通じた事業の持続的な発展の確保が喫緊の課題となっています。このため、平成31年度税制改正で個人版事業承継税制が相続税・贈与税ともに10年間の時限措置として創設され、個人開業の医師や歯科医師も新税制の対象とされました。


1.個人の事業用資産についての相続税の納税猶予および免除制度
(1)概要
 特例事業相続人等が、平成31年1月1日から平成40年12月31日(2028年12月31日)までの間に、相続または遺贈により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、特例事業相続人等が納付すべき相続税額のうち、相続等により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する相続税の納税が猶予されることとされました。


(2)特例事業相続人等とは
 特例事業相続人等とは、被相続人から相続等により特例事業用資産を取得した個人で、承継計画に記載された後継者であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律による特例円滑化法認定を受けた者をいいます。承継計画とは、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて作成された特定事業用資産の承継前後の経営見通し等が記載された計画で、平成31年4月1日から平成36年4月31日(2024年3月31日)までの間に都道府県に提出されたものをいいます。

 また、特例事業相続人等は、相続開始直前に特定事業用資産に係る事業に従事し、相続が開始した後、相続税の申告書の提出期限までに事業を引き継ぐと共に特定事業用資産のすべてを有し、かつ、自己の事業の用に供していること、さらに、相続税の申告書の提出期限において特定事業用資産に係る事業の開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けることなども要件とされます。
 個人開業の医師や歯科医師の事業承継に際し、後継者がこれらの要件を満たす場合には新税制の適用を受けることができます。

(3)特例対象とされる「特定事業用資産」
 被相続人の事業(不動産貸付事業等は除かれます。)の用に供されていた次の資産で青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているものが該当します。


①宅地等(面積400㎡までの部分に限る。)
②建物(床面積800㎡までの部分に限る。)
③機械・器具備品
④車両・運搬具(自動車税又は軽自動車税において営業用の標準税率が適用される自動車等が該当)
⑤生物
⑥無形償却資産

 個人開業の医師・歯科医師であれば、診療所用の土地等・建物、診療機器等が対象となります。小規模宅地等の評価減特例は「土地等」が対象とされるのに対し、新税制は宅地等のほか、「建物」や「診療機器等」なども対象とされる点が画期的といえます。

(4)猶予税額の免除
①全額免除

 特例事業相続人等が、その死亡の時まで、特定事業用資産を保有し、事業を継続した場合や一定の身体障害等に該当した場合、また、相続税の申告期限から5年経過後に、後継者へ特定事業用資産を贈与し、後継者がその特定事業用資産について贈与税の納税猶予制度の適用を受ける場合には、猶予された相続税額の全額が免除されます。

②一部免除
 同族関係者以外の者へ特定事業用資産を一括して譲渡する場合や経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特定事業用資産の一括譲渡または特定事業用資産に係る事業の廃止をするときは、猶予された相続税額の一部が免除されます。なお、経営環境の変化を示す一定の要件とは、過去3年間のうち2年以上が赤字の場合などが該当します。

②一部免除
 同族関係者以外の者へ特定事業用資産を一括して譲渡する場合や経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特定事業用資産の一括譲渡または特定事業用資産に係る事業の廃止をするときは、猶予された相続税額の一部が免除されます。なお、経営環境の変化を示す一定の要件とは、過去3年間のうち2年以上が赤字の場合などが該当します。

(5)猶予された相続税と利子税の納付
 特例事業相続人等が、特定事業用資産に係る事業を廃止した場合等には、猶予された相続税額の全額を納付することになります。また、特定事業用資産の譲渡等をした場合には、その譲渡等をした部分に対応する猶予税額を納付することになります。猶予税額の納税とともに利子税の納付も必要になります。

(6)留意点
 特例の主な留意点は以下のとおりとなります。
①被相続人は相続開始前に、特例事業相続人等は相続開始後に、それぞれ青色申告の承認を受けていなければなりません。
②特例事業相続人等は、相続税の申告期限から3年毎に継続届出書を税務署長に提出しなければなりません。
③特例事業相続人等が、相続税の申告期限から5年経過後にすべての特定事業用資産を現物出資して会社を設立した場合で、納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、資産の移転はなかったものとし、現物出資により取得した株式等を特例適用の特例事業用資産とみなすこととされています。
 ところで、この取扱いは「会社」が対象とされています。また、個人開業医が法人化する場合、医療法人の形態は「持分なし」となり財産拠出者が株式等の保有をすることは不可能です。さらに、医療法人化した場合には個人事業は廃止となります。現時点で医療法人化した場合の特例が設けられるかは明確ではありませんが、将来法人化する可能性がある個人開業医師・歯科医師は、納税猶予の選択に際し、法人化により猶予相続税と利子税の支払が生じる可能性に注意する必要があります。
④納税猶予の特例を受ける場合は、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例受けることができません。従って、地価の高い都心部では小規模宅地等の特例を、また、地方では新税制を選択する場合が想定されます。


2.個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予および免除


(1)概要
 特定事業用資産を有していた一定の個人が、特例事業受贈者に、平成 31 年1月1日から平成 40 年 12月 31 日(2028年12月31日)までの間に、その事業に係る特定事業用資産のすべての贈与をして事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、期限内申告書の提出によってその特例事業受贈者が納付すべき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税が猶予されることになります。


(2)「特例事業受贈者」とは
 特例事業受贈者とは、贈与により特定事業用資産を取得した個人で①贈与の日において18歳(平成 34 年3月 31 日(2024年3月31日)までの贈与については、20 歳)以上であること。②特例円滑化法認定を受けていること。③贈与の日まで引き続き3年以上特定事業用資産に係る事業に従事していたこと。④贈与の時から贈与税の申告書の提出期限まで引き続き特定事業用資産のすべてを有し、かつ、事業の用に供していること。⑤期限申告書の提出期限において特定事業用資産に係る事業の開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること。⑥事業が資産保有型事業や資産運用型事業などに該当しないこと。⑦贈与者の事業を確実に承継すると認められる一定の要件を満たしていることのすべてを満たしている受贈者が該当します。


(3)留意点
 特例事業受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人以外の者であっても、その贈与者がその年1月1日において 60 歳以上である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができます。また、猶予税額の納付、免除等は、相続税の納税猶予制度と同様とされています。贈与税の納税猶予特例は相続税の納税猶予特例に引継ぎすることも可能です。

 解説/青木 惠一 税理士 

     税理士法人青木会計 代表社員/日本医師会有床診療所委員会 委員 

PAGE TOP