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税務の勘所Vital Point of Tax

店舗併用住宅(事務所兼用住宅)における家事関連費の取扱い

2019/10/01

はじめに
 家事関連費に該当する費用について、国税庁では、例として、交際費、接待費、地代、家賃、火災保険料、水道光熱費が挙げられています。個人事業者の場合、少しでも経費を抑えるために自宅兼事務所で事業を営むことが多いため、支出する費用には家事費と必要経費が常に入り混じって存在しています。このようなことから、家事関連費の経費性をめぐって税務調査での争点となることも少なくありません。


家事関連費の取扱い
 家事関連費とは、個人の支出する費用で、その支出する目的が、①必要経費、②家事費、との双方に関連するものをいいます。所得税法では、家事費及び家事関連費は、原則として必要経費に算入することはできないこととなっています(所法45①)。


 しかし、必要経費性の強い家事関連費まで必要経費として算入することを認めないのは合理的ではないことから、家事関連費のうち、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費については必要経費に算入することができるとされています(所令96)。

 例えば、車のように事業用資産として使用していても個人所有の財産とみなされるような家事関連費は必要経費と家事費とが一体となっている支出であるため、その区分については明確にできない場合もあります。

 これについては、令96条第1号に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定するとしています(所基通45-1)。

 また、令96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとします。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えないとしています(所基通45-2)。

 すなわち、業務の遂行上必要な部分が50%を超える場合には必要経費に算入できますが、業務の遂行上必要な部分が50%以下の場合には、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できるものについては必要経費に算入できます。家事費であっても、主たる部分の業務の遂行上必要な経費であり、かつ、その部分が明確に区分できる経費であれば、必要経費に算入できるとしています。

面積按分を基準とした事例
 店舗併用住宅(事務所兼用住宅)の支払家賃のように、必要経費と家事費が一体となっている支出がある場合には、事業の必要経費となる部分と家事費になる部分とに区分しなければなりません。店舗併用住宅における経費区分について、面積按分により必要経費が検討された事例があります(東京地判平成11年1月22日)。


【事案の概要】

 納税者は、本件建物を貸主甲から賃借し、同建物において質屋業を営む青色申告者であった。本件建物の各部屋のうちの一部の床面積及び用途は次のとおりである。


(一)1階の玄関の床面積は4.30㎡であり、ショーウインドーが設置されている。
(二)1階の土間の床面積は3.74㎡であり、カウンターがある。
(三)1階の四畳半の間の床面積は6.38㎡であり、事務机及び質屋業に係る書類等がおかれ、上記(二)の土間のカウンターを挟んで客と応対できるようになっており、質屋業に係る仕事は専らこの部屋で行われている。
(四)2階の6畳間の床面積は9.72㎡であり、納税者が寝室として使用している。
(五)2階の8畳間の床面積は13.68㎡であり、乙が使用している。
(六)1階及び2階の倉庫の床面積は各18.48㎡であり、質物を保管している。
(七)1階には、廊下、便所及び浴室等がある。

 納税者は、本件建物のうちその90%を事業の用に供しているから、係争各年分の事業所得の金額の計算上、貸主甲に対する支払家賃の90%を必要経費として計上している。

【裁判所の判断】

 家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、当該費用が事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、右の意味において、それが事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないというべきである。


 本件賃料のうち、納税者の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかなものは、「本件建物のうち納税者の事業の遂行上明らかに必要な部分は(一)ないし(三)及び(六)の部分である」とする課税庁の主張とおり認めるのが相当である。そして、各部屋の床面積の合計は51.38㎡であり、これを本件建物の総床面積119.00㎡で除すと、43.18%(小数点三位以下四捨五入)となるから、本件建物の事業専用割合は43.18%とすべきである。

店舗併用住宅(事務所兼用住宅)における経費区分
 実務において、店舗併用住宅に係る支払家賃については、事業専用部分と家事専用部分との面積をもとに算定する面積按分を基準とする場合が多く見受けられますが、裁判例において、家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、その費用が事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、それが業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないということを示しています。


 家事関連費の区分については、明確な基準はなく、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定することとされており、個々の実態に即して客観的に判断されることとなります。

 本事例では、納税者は支払家賃の90%を必要経費として計上していますが、その根拠となる説明はありませんでした。裁判所は、全体の家賃をもとにその建物の利用状況等よりみて床面積により按分する方法によって算出された金額を必要経費として認めています。税務調査で否認されないためには、その根拠となる資料を備えておく必要があります。

 家事関連費は、納税者の主観的判断が入りやすく、その人の裁量次第で大きく左右されることから、なかなかその境界線を引くことは難しいと思われます。そのため、納税者には事業関連性の立証が求められることに留意しなければなりません。また、同時に、我々税理士が積極的に納税者とのコミュニケーションを図ることによって、店舗併用住宅(事務所兼用住宅)の利用状況等の実態を把握し、納税者には税務否認リスクもあることも十分に説明した上で、その根拠となる資料を備えておくことが大切です。

アドバイザー/角田 敬子 税理士

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