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税務の勘所Vital Point of Tax

高裁 評価通達6の適用を追認 賃貸不動産購入の相続対策

2020/07/31

 被相続人が相続対策として買っていた賃貸不動産について、相続人が財産評価基本通達の定める相続税評価によって相続税の申告をしたところ、時価と著しく乖離しているとして税務署が財産評価通達6を適用し、更正処分等を行ったことで争いとなっていた裁判で、東京高裁は6月24日、評価通達6の適用について租税法律主義に反しているとはいえないと判断、一審に続き納税者の請求を棄却した。

 この事案は、借入金で賃貸不動産を買って、相続税負担をゼロにする節税を行い、評価通達6項により税務署から否認された典型的なケースだ。ちょうど、タワーマンションなどによる相続税節税ブームが到来する中で、忽然と浮上した事件だっただけに衆目を集めることとなった。

【事案の概要】
(1)被相続人は、相続開始3年半前に都内のマンション(①不動産という。)を8億3700万円で購入、信託銀行から6億3000万円を借り入れていた。また、相続開始前2年半前に神奈川県のマンション(②不動産という。)を5億5000万円で購入、信託銀行から3億7800万円、親族から4700万円借り入れていた。

(2)被相続人は平成24年6月に亡くなり、相続が開始。相続人は平成25年3月、財産評価基本通達に従って①不動産を約2億円、②不動産を約1億4000万円と評価し、相続税の申告を行った。

(3)所轄税務署は平成28年4月、①②不動産の価額は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、①不動産につき収益還元法による収益価絡を標準に求めた鑑定評価額7億5400万円、②不動産につき収益還元法による収益価絡を標準に求めた鑑定評倒額5億1900万円として相続税の更正処分等をした。その後、相続人は審査請求を経て更正処分の取り消しを求めて出訴した。

【争点】
(1)相続開始時における①②不動産の時価(評価通達の定める評価方法によらない評価が許されるための特別の事情の内容及び本件各不動産におけるその有無。争点①。)

(2)評価通達の定める国税庁長宮の指示に関する手続上の違法の有無(争点②)

(3)更正処分等の理由の提示に関する違法の有無(争点③)

 このうち、財産評価通達6の適用を巡る争点①については、税理士などの専門家からも注目される事態となっていた。

東京地裁判決
 一審判決(東京地裁・令和元年8月29日)では、争点①について次のような判断を示している。

(1)相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定めているところ、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。

(2)課税実務においては、評価通達において財産の価額の評価に関する一般的な基準を定めて、画一的な評価方法によって相続等により取得した財産の価額を評価することとされている。適正な時価を算定する方法として合理的なものであると認められる限り、相続税法22条の規定の許容するところであると解される。

(3)しかし、評価通達の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができないなど、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである特別の事情(評価通達6参照)がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許されるものと解すべき。

(4)特別の事情があるかどうかの検討では、① ② 通達評価額は、それぞれ本件各鑑定評価額の約4分の1(①不動産につき約26.53% 、② 不動産につき約25.75%)の額にとどまっていると指摘。不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づき算定する不動産の正常価格は、基本的に、当該不動産の客観的な交換価値(相続税法22条に規定する時価)を示すものと考えられることなどから、①②不動産の通達評価額が相続開始時における①②不動産の客観的な交換価値を示していることについては、相応の疑義があるといわざるを得ない。①②不動産の相続税法22条に規定する時価は、鑑定評価額であると認められる。

東京高裁判決
 東京高裁も一審判決を支持するとともに、相続人や税務当局の新たな主張に対して概ね次のように判断した。

ア、控訴人ら(納税者)は財産を評価通達の定めによらずに評価する要件である「特別の事情」については処分行政庁のみならず納税者にとっても、その要件に該当する評価根拠事実が特定できる程度の一般化した判断基準が示されていなければ時価評価の予測可能性と法的安定性を害し租税法律主義に反すると主張する。

 しかし、相続によって取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるということは相続税法22条によって定められており、評価通達でも1⑵において財産の価額は時価によるものとし、時価とは課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じて不特定多数の当事者間において自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は評価通達によって評価した価額によるとしたうえで、評価通達6において、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる財産については、評価通達によって評価されない場合があることを定めていることからすると、相続により取得した財産について本判決において付加訂正の上で引用する原判決で説示するような場合に評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価した価額を当該財産の時価とすることについて、それがどのような場合であるかについて通達等によってあらかじめ示されていなかったからといって租税法律主義に違反するものとは解されない。

イ、控訴人らは、時価評価に全く影響のない相続開始前後の事情や租税回避又は租税負担の減少の意図などは、財産を評価通達の定めによらずに評価する要件である「特別の事情」にあたらず、租税回避否認のための特段の規定がない以上、評価通達6を租税回避措置の否認のために用いることは、租税法律主義に反するなどと主張する。

 しかし、本件における被控訴人(国)の主張や本件各通知書の記載によれば、あくまで、本件通達評価額と本件鑑定評価額との間の著しい乖離から本件各不動産を評価通達の定めにより評価することが著しく不適当であるなどとして、本件各不動産を評価通達の定めによって評価しないものとしたのであって、税負担の軽減をもたらす行為を阻止するために評価通達6を適用したものとは認められない。

 当局では相続税節税ブームを受けて、①財産評価基本通達に定められた評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如していること、②同通達に定められた評価方法のほかに、他の合理的な評価方法が存在すること、③同通達に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しい乖離が存在すること、④上記③の著しい乖離が生じたことにつき納税者側の行為が介在していることの4つのチェックにより同通達6の適用を推進している模様で、行き過ぎた節税には注意が必要といえそうだ。

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