日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

税務の勘所Vital Point of Tax

『会社の給与』or『生活費の援助』社長の交際相手に支給された金銭

2024/07/26

 税金の世界では、男女の個人的関係をとやかく言うことはないが、そこにお金の不正がかかわるとなれば、税務署の追及は避けられない。たとえば、個人的関係にある相手への「お手当」が税務上問題になるケース。最近の事例でいえば、スナックの経営者Y子と交際を始めた自動車販売会社元社長Aのケースがある(札幌地裁令和6年1月29日)。

 判決によると、問題になったの は、元社長Aが個人的関係にあるY子に対して長年支給していた金銭。会社側は、支給した金銭を給与等として損金にして法人税等を申告していたが、税務署はAの会社においてY子の勤務実態がないと指摘。Y子に支給した金銭をAの給与と認定し、法人税等を増額更正するとともに、重加算税を賦課する処分を行ったことから争いとなった。

 裁判所が認定した事実関係の概要は次のとおり。

1.Y子は、自ら経営するスナックの顧客に紹介されてAと知り合い、平成6年頃、Aとの交際を開始。Y子が平成7年2月末にスナックを閉店して無職となったことから、AはY子に対して生活費の援助として毎月30万円を支給するようになった。支給する金額は、最終的には毎月10万円となり、平成29年1月頃まで同額の支給が続いた。

2.交際開始後、原告であるAの会社の取締役にY子が就任した旨の登記がされ、この頃から同社はY子に対して毎月金員を支給するようになった。遅くとも平成22年頃には、同社からY子に対して支給された金員は月額20万円となり、同額から源泉所得税等の額が控除された金額が給与名目でY子名義の普通預金口座に振り込まれた。

3.Y子に対する支給は、Aが会社の担当者に指示したことを契機として開始されたものであり、その際、AはY子の業務内容について特段言及しなかった。担当者は、従業員の新規採用に伴う各種手続を行うことを含めて指示されたものと理解し、Y子に無断で平成13年11月21日付けで雇用契約書を作成、社会保険の加入手続等を行った。Aの会社グループでは、通常、従業員の新規採用に当たっては、採用面接を行った上で、採用された従業員には採用通知を送付し、労働条件通知により労働条件を伝えているが、Y子について、このような手続は行なわれず、Y子は給与の額を除き、本件雇用契約書記載の労働条件を認識していなかった。

4.同業者や取引先主催の会合は、配偶者同行というケースが多かったため、平成7年頃から平成27年まで、AはY子を会合に同行させるようになった。

5.Aが平成26年に疾病により運転免許を返納したことから、Y子がAの求めに応じて送迎をした。

 裁判所は、上記の事実関係から、Y子に支給された金員の趣旨について検討。車の送迎や会合への同行について「交際相手であるAに対して私的に行ったものと理解し得る(中略)、会合への同行をAから求められたのは、同人の交際相手という立場ゆえ」とし、支給については「生活費の援助の一部を会社からの金員の支給という形で行うようになったとみることができる」とした。
 雇用関係について裁判所は、重要書類がY子の関与なく作成されていることや、Y子が労働条件を認識していなかったことなどを重視。支給金員は会社における「労務の対価ではなく、AによるY子への生活費の援助」と認定し、最終的にAが個人として負担すべき費用を会社が負担したとして(法人税法34条4項)、税務署の更正のとおりAに対する役員給与と判断した。

 また、裁判所は、雇用関係に関する書類などを作成し、給与でないものを給与として経理処理し、損金としたことから「仮装があった」と認定(同条3項)。税務署の重加算税の賦課を支持している。

PAGE TOP