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税務署が突然「弟の税金を払え」と。「物納」が止めた時効

2019/05/17

今から7年ほど前の相談者との会話です。
「先生、大変なことになりました」
「一体どうしたんですか」
「実は15年前の母の相続のときの相続税を、弟が払っていなかったようなんです。それで税務署から、私に払うようにと通知が来ているんですけど……」
「あなたの分でなく弟さんの分ですか?」
「ええ、そうなんです。私の分は期限内にきちんと納めたんですが……」
「それは“連帯納付義務”についての督促ですね。税務署に確認してみましょう」

 税務署から届いた通知書をよく読んでもらったら、「あなた以外の他の相続人も含めて連帯納付の義務があるので、みんなで話し合って払ってください。さもないとどなたかの財産を差し押さえることになります」という結構ドッキリする内容でした。

■あまり知られていない「連帯納付義務」
 ここでは、「連帯納付義務」について説明していきましょう。日本の税金で連帯納付義務があるのは相続税と贈与税です(法人税でも一定の条件のもとにはありますが、あくまで間接的な連帯納付義務です)。


 あまり知られていませんが、相続税に関しては相続人同士がお互いに連帯して納付する義務を負い、贈与税に関しては贈与者(あげた側)が受贈者(もらった側)に対して連帯納付義務を負っています。

 税の世界にはあげる側ともらう側を一体と考え、どちらかが払えないならもう片方が責任を負いなさい、という考え方があるからです。

 現在は「申告期限から5年以内に税務署長が督促を行った場合にのみ連帯納付義務が生じる」と改正されましたが、以前は冒頭のケースのように15年もさかのぼって追及されることもありました。

 現在の相続税の課税体系は、財産全体に対して全員で一緒に申告する方法(遺産課税方式)になっていますが、もらった人がもらった分に対してそれぞれ別々に申告する方法(遺産取得課税方式)に変更されない限り、連帯納付義務の廃止は難しいといわれています。

■納税に時効はある?
 さて連帯納付義務に加え、時効というテーマもあります。日本のほとんどの税金は5年で時効を迎えます(贈与税は相続税法で特別に6年と定められています)。ただし脱税など悪質な場合の時効は7年です。一般債権と同様、途中で督促状を送れば時効は中断され、新たにカウントすることになります。


 冒頭のケースは15年前の相続のことですので通常は時効が成立しているのですが、なぜ追及されてしまったのでしょうか。実はこのケースは督促状が来たことによる時効の中断ではなく、「物納」で時効が中断していたのです。

 物納とは、税金をお金で払えない場合に相続で取得した不動産や有価証券などの「現物」で納税する方法です。物納の申請中は徴収の猶予扱いとなり、時効は停止しています。なので15年以上経過しても国税徴収権が消滅しなかったのです。

 種明かしをすると、6人いる相続人のうち私の相談者を含む5人は申告期限内にお金で納税を済ませていましたが、1人だけ納税資金が足らず、相続した不動産の物納を試みていたのでした。他の兄弟はこのことは知らなかったので、前述の督促状が届いたときには全員びっくりしていました。

 現在は物納申請をしてから3カ月以内に収納(物納を認めること)されるかどうかが判断されますが、当時は収納するかの判断に何年もかかるケースも多く存在しており、他の相続人の納税状況(滞納状況)は開示されないので、誰が未納なのかはわかりません。つまり自分のところにいつ火の粉が降りかかってくるのかわからない状態だったのです。

 そこで相談者と一緒に税務署に行って折衝したところ、「すでに皆さんの財産調べは終わっていますので、もし話し合いで誰が払うか決まらなかった場合には、税務署の判断で差し押さえをさせていただきます」とのことでした。私の相談者は長女で若い頃お嫁に出たため、本家の財産には一切タッチしていません。したがって現在の財産は配偶者とともに形成されたものが多いということを力を入れて説明し、事なきを得ました。

 他の兄弟は「どう払うか」よりも「自分だけはどう差し押さえから逃れるか」で頭がいっぱいだったようでしたが、最終的にはその後きょうだいのどなたかが泣く泣く納付されたようです。

 このように納税資金の問題はきょうだいのそれぞれが自分だけ解決してもダメで、連帯納付義務がある限り、全員で協力して考えなければいけないのです。

 アドバイザー/内藤 克 税理士
 ※同コラムは、内藤先生執筆の書籍『残念な相続』(日本経済新聞出版社)に掲載されています。『残念な相続』の詳細、ご購読はこちら。

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