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第9回 相続時融通のきかない家族信託(その1)~民事信託のデメリット:遺産分割ができない信託財産~

2019/05/07

特異な家族信託の事例
 平成最後の月、いささか難しい相談が持ち込まれました。
 
 この相談事例は、平成30年10月、委託者複数の家族民事信託として設定した事案ですが、その委託者の一人である父親が死亡したというのです。そこで、委託者の一人で受託者をも兼ねるTさん(長男)と、税務の相談を行っているという税理士Z氏が当事務所に相談に見えられたのです。

 要は、信託と相続の問題でした。

 この冒頭の説明だけでも、特殊な信託だろうと、察しはつくはずです。この点は、後に回して、二人の相談ですが、信託設定の2か月後の12月に委託者のSさん(父)が死亡したというので、信託財産について遺産分割をして、その相続問題を解決したいというのです。

 この信託の設定は、極めて特殊なものでした。信託財産にする不動産(マンション1棟)が3人の共有となっており、うち一人が受託者となって信託を設定したものです。一般には、受託者法人を設立して信託を設定するのが一般的ですが、この信託では、委託者の一人が受託者となって共有不動産を管理するというスキームなのです。長男のTさんがあくまでも法人名義を嫌ったので、特殊な形態になったのです。

 かかる形態は、当然ありそうな信託と考えられそうですが、これまで組成されたとは聞かない類型でした。それは、信託契約と自己信託の混合型の信託だからです。

この信託は共有不動産を一人の意思で管理する仕組み
 共有の土地建物を有する者にとっては、共有という法律関係が忌まわしいものと感じられている人は少なくないと思います。これを管理運用することは、共有者の意思の一致が求められ、これが合致しないと結局不動産は活用も処分もできず事実上無価値のものとなってしまう恐れがあるからです。

 これを避けるために、家族民事信託が活用されるのです。

 事例はこうです。
 父親Sさん名義の広大な土地に、融資を受けてSさんご夫婦と長男のTさんが出資をして自宅も兼ねたマンションを建築して、三名の共有の建物として登記をし、これをTさんが管理するというものでした。この不動産の管理運用について単独の意思で行うこととして、Sさん達が選択したのが家族民事信託のスキームでした。

 もちろん、高齢のSさん夫婦の相続対策(合理的な方法による節税対策)をも兼ねて信託を利用したものですが、その委託者の一人の父親Sさんが死亡し、相続が始まったというのです。

Z税理士の相続についての考え方
 実は、Tさんが相談したZ税理士は、信託の知識は全くないのですが、Sさんの相続に関わって話をまとめようとしていたのです。Z税理士が中心になってSさんの相続問題に取り掛かり、それぞれの相続人の希望を聞き、相続税対策も考えて一応相続対策を取りまとめたというのです。

 Sさんの家族関係ですが、妻Aさん、長女Bさん、それに長男のTさんです。Bさんには、お子さんはおらず、信託財産となったマンションの一室に居住しています。同じ階には、母親のAさんが住んでいます。

 本件の信託行為の内容は、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託となっており、実は、第2次相続時(母親Aさん死亡時)の相続税を考慮し、後継受益者となるはずの母親Aさんには、受益権は取得させず、Bさんに遺留分相当の8分の1の受益権(居住する権利も含む)を、残りの受益権の全部をTさんが取得するとなっていました。

 ところで、話し合いの場では、先ず、Bさんが「一生涯、マンションに住み続けたいので、自分の部屋の部分は相続したい」といい、母親Aさんも、「自分の部屋もBに相続させたい」と言い出したということです。

 そこで、Z税理士は、両名の希望を全面的に取り入れることと、Aさんにできるだけ財産の2分の1を相続させて、可能な限り相続税を軽減したいという考え方を示されたのです。

答え―その1
 すでに、信託を学んでいる税理士の方であれば、このZ税理士のアドバイスは全く信託を理解していない人の考え方であることはお判りだと思います。

 実は、父親が信託財産にしたマンション(共有持分)は、もはやSさんの相続財産ではないのです。信託契約による信託の設定によって、Sさんの財産であった信託財産は、Sさんの遺産から消えて「誰のものでもない財産」になってしまっているのです。したがって、相続人が勝手に遺産分割協議で、遺産分けができないということです。

 Sさんの相続開始時(死亡時)は、本件のように受益者連続信託となっている場合は、Sさんの権利(受益権)は、信託条項に定められた後継の受益者に承継移転(多くは、新たな受益権の取得という形態で移転)されるのです。

 これは確定的に(遺産分割等の手続を踏まずに)財産が移転するのです。信託が終了して、帰属権利者に残余財産が帰属する場合も同じです。

 この財産権の移転は、基本的には動かすことができないのです。見方によれは、融通が利かないと言えばそれまでです。

答え―その2
 後継受益者である相続人は現物を取得はできません。特別の定めをしていれば別ですが、信託財産の一部(区分所有権)を相続させることは不可能です。

 しかしながら、信託を継続しても、Bさんの希望は叶えることはできます。Bさんが取得する信託受益権の中身として、マンションの居室を住まいとして生涯利用できる権利(収益受益権)を有しているからです。Bさんとしては、本信託において、住まいは確保されていますし、また生活費や交際費等の受益を得る権利を有していますので、契約を解除してまで現物にこだわる必要はないのです。

 Aさんの関係は、次回に説明します。

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