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相続対策と事業承継を実現! 『家族信託』の活用事例を紹介

第11回 節税効果がある配偶者居住権制度 ~人生100年時代において利用は得かどうか~

2020/03/02

■ いよいよ始まる配偶者居住権制度
 民法1028条以下で定める配偶者居住権の規定が、令和2年4月1日より施行されます。配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利であり、要は、相続が発生する前から住んでいた自宅については、配偶者がその自宅の所有権を相続しなかったとしても、ずっと住み続けることができる権利です。

 配偶者居住権という仕組みは、所有権という権利を、「使う(住む)権利」と「その他の権利(負担付所有権)」に分離をして、別々の人が相続することを認める仕組みですが、配偶者には「使う(住む)権利」を、その他の相続人(子)には「その他の権利(負担付所有権)」を相続させるというものです。

 ※「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)」についての説明
   http://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf


■ 遺言書か遺産分割協議が必要である
 ところで、より困ったのは、この新制度が国民に正しく理解されていないということです。私は、昨年来、多数回セミナー等で一般の方を相手に改正相続法の説明をしていますが、出席者のご婦人に、「新しく配偶者居住権というものが新設されますが、知っていますね。ご主人がお亡くなりになった場合、当然にご自宅に奥様が住む権利だとお思いの方は挙手を願います」と質問すると、9割の方が手を上げられます。そこで、私は「この権利は、ご主人に遺言にしたためてもらうか、お子さんとの遺産分割協議で合意ができなければ取得できないのです」と説明すると、「うちはどっちもだめだ」という悲哀に満ちたため息が流れてくるのです。

 そうです、生存している配偶者が配偶者居住権を取得するには、被相続人の遺言書にその内容が書かれるか、遺産分割協議で決める必要があります。配偶者が亡くなったからといって、生存している配偶者に自動的に配偶者居住権が与えられるわけではありません。

■ 配偶者居住権は所有権の複層化
 私は、資産の承継の方法として家族信託を推奨していますが、信託では、信託受益権の複層化という仕組みを構成することがあります。信託受益権とは、受益者において信託財産から生じる利益を受け取る権利ですが、複層化の場合、「収益受益権」と「元本受益権」とに権利を分けて考えます。それは、収益性も兼ねた不動産の場合、信託不動産の一部を受益者の住まいとして利用する権利もあれば、管理運用によって生ずる賃料等の利益を受ける権利もあります。これが収益受益権と言われるものです。他方、元本受益権とは本信託に関する権利のうち信託財産である信託不動産自体を受ける権利をいいます。

 これを配偶者居住権にうつし替えてみると、収益受益権に当たるものが配偶者居住権で、元本受益権に当たるものが「負担付所有権」ということになり、後者は「元本所有権」ともいうべきものです。

■ 配偶者居住権の節税効果
 夫が1億円の家屋(土地建物)を遺産として遺した場合、自宅を5000万円の配偶者居住権と5000万円の元本所有権に分割し、妻が配偶者居住権、子は元本所有権を相続。子には相続税がかかるが、妻は配偶者控除で非課税となります。

 妻(母)が亡くなれば、配偶者居住権は消滅し、自宅(完全な所有権)は子のものになります。しかも、妻(母)が財産を遺していないから子には相続税がかからないというのであります。このように、「配偶者居住権」を利用した場合の二次相続時の節税効果は大きいといわれています。

 問題は、配偶者居住権の価格の決め方をはじめ、いくつかあります。
 ※「長期居住権の簡易な評価方法について」
  http://www.moj.go.jp/content/001222142.pdf

■ 価額の決め方
 遺産分割にあたって配偶者居住権の価値を評価する際、考え方としては、相続人たちで自由に決めることができるとされていますが、法務省は価額の目安を「負担付き所有権の価値(価額)は、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮し配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定した上で、これを現在価値に引き直して求めることができる」としています。

 これでは、一方では自由に定めることができるといいながら、素人にはわからない算定の仕方を理論的に示したに過ぎないようです。さらに、深堀すると、相続人が描ける夢(自由)はないようです。

 これを利用するに当たっては、節税効果はいくらになるのか、これを知る必要があります。結局は、税理士に依頼して算出される、配偶者居住権等の相続税法上の法定評価(相続税法23条の2)に頼ることになるのだと思います。ただ、近い将来、AIを活用した、即時計算機がいずれ出てくるのでしょうが、手数料もかかり、節税効果が期待どおりでなく、お子さんの相続税が予想外に高いことも考えられます。

■ 配偶者が長生きすれば「悪夢」にかわる!?
 人生100年時代、ますます平均寿命は延びています。一方、高齢者の認知症は増加の一途、節税効果を期待している子が、母親の面倒をみるのでしょうか。その子も定年退職を迎える年代になるのです。

 このように、この制度は、相続税評価の方法も難しく、さらに居住権を取得した者は建物の通常の必要費を負担する義務を負うのですが、敷地の固定資産税については不動産所有者が負担することになり、その不服や不満は、配偶者が長生きするほど大きくなるのです。しかも、この権利はあくまで「家に住む権利」であるため、手持ち金が不足し、あるは老人ホームに入所するとして、不動産所有権のように当該不動産を売却したりすることはできないのです。100歳を超えて長生きすることにより手元に残るお金が年金だけとなって、建物の必要経費はもちろん生活費や通所費用すら払えなくなるおそれは大きいのです。

 果たして、配偶者居住権制度を使うのがよいのでしょうか。考えさせられます。

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