会社運営に潜む業務上横領・特別背任の刑罰リスク ~税理士・コンサル・取締役監査役に必須の知識~
2026/03/27
〔はじめに〕
税理士の職務(税理士法第1条以下)として関与先納税者様に指導助言する際、関与先の経営コンサルをする際、事業承継・M&Aのコンサル・助言をする際、税理士が取締役や監査役に就任する際、横領背任の刑罰リスク・税務リスクを極力軽減・解消する必要があり、少なくとも、これらのリスクを増大・助長させる指導助言・コンサルをするべきではありません。
会社の帳簿上は貸金や交際費でも、業務上横領とされるリスクが高い場合には、税務申告の内容にも影響を与えます。
厳しい言い方になりますが、そもそも、如何なる行為をすれば業務上横領や特別背任罪に該当するかを知らずして、取締役や監査 役に就任すること自体が、道路交通法を知らずに自動車を運転するに等しいとも言えます。
そこで、紙面の都合上大づかみな説明になりますが、業務上横領罪および特別背任罪で、特に注意するべきポイントを解説させて頂きます。
横領・背任は、刑法の中ではやや難解な部類に属する犯罪ですが、精緻な税法(例えば基礎控除改正など)と比較すれば、平易・単純であると言えます。最初は少々取っつきにくいかも知れませんが、上記重要性に鑑み御一読下さい。
1 横領罪と背任罪の大雑把なイメージ
以下の3つが大きなポイントであり、以下の⑵の部分が横領・背任の難所 (多少ややこしいところ)です。
⑴ 横領罪は、自分が占有している他人所有の物を、権限を逸脱して処分する犯罪であり、背任罪は、委託されている任務に違反して委託者本人に損害を加える犯罪です。
⑵ ただ、横領罪も背任罪も、「本人(当該会社)の利益を図るための行為であると裁判所によって認定された場合」には、後述する要件の解釈として、横領罪・背任罪では処罰しないと解されています(有力説、裁判例)。
⑶ 会社の「業務上」横領した場合に「業務上横領罪」として、取締役・監査役など会社法第960条所定の者が背任行為をした場合に「特別背任罪」として、通常の単純横領・背任より重く処罰されます。
2 業務上横領罪と特別背任罪の関係
〔図解〕(横領と背任の処罰範囲には重なる部分業務上横領罪(権限逸脱)から先に検討したとしても
↓(業務上横領の成否を問わず!)
特別背任(信義誠実義務違反)及びその未遂罪も検討
←特別背任の方が業務上横領より法定刑が重いから
⑴ 取締役・執行役・監査役・会計参与・支配人など会社法960条(後述)に列挙された者(以下「取締役等会社法960条に列挙された役員等」と言います。)が業務上横領をした場合、同時に特別背任罪の要件も充たす場合があり、両者の処罰範囲には重なる部分があります。
⑵ まず、処罰範囲がより明確な「横領」(権限逸脱)から検討し、次に、「背任」(信義誠実義務違反)を検討するという検討順序は、思考経済としては、必ずしも悪くないかも知れません。
⑶ しかし、特別背任罪の方が(10年以下の拘禁刑と罰金が併科され、しかも未遂処罰もある点で)、業務上横領(10年以下の拘禁刑、未遂処罰なし)よりも刑罰が重いことに注意が必要です。
そこで、業務上横領から先に検討したとしても、業務上横領の成否を問わず、特別背任罪及びその未遂罪の刑罰リスクを検討する必要があります。
3 横領と背任の難所を予めシンプルに説明
横領と背任は、以下の点が実務上特に重要ですが少々難解です。そこで、後の説明で混乱しないように、予め、ポイントをシンプルに説明します。後でもう一度確認しますので、まずはざっと読み流して下さい。
横領罪も背任罪も、横領・背任の他の要件を充たしたとしても、「本人の利益を図るための行為であると裁判所によって認定された場合」には、横領罪は「横領」という要件の解釈として、背任罪は「図利加害目的」という要件の解釈の中で、横領罪・背任罪では処罰しないと解されています(有力説、裁判例)。
⑴ 即ち、横領罪の「横領」行為は、①権限を逸脱して、②「所有者でなければできない処分をする行為」と解されています(有力説、裁判例)。
⑵ 背任罪の「背任行為」は、①信義誠実義務に違反する行為と解されていますが、背任罪には別途、②「図利加害目的」という要件があります。
⑶ この横領罪の②「所有者でなければできない処分」、背任罪の②「図利加害目的」は、一見その意味が分かりにくく、学説も複雑に対立しています。
⑷ そこで、この点をできるだけ平易・単純に説明すると、要するに、有力説・裁判例によれば、この両者とも、「本人の利益を図る行為を横領・背任の処罰から除外する要件」であり、換言すれば、権限を逸脱して他人の物を処分したとしても(横領)、任務に違反して本人に損害を生じさせたとしても(背任)、「本人の利益を図る行為・目的である場合、横領・背任罪で処罰しない」と解されているのです(有力説、裁判例)。
〔図解〕
業務上横領・特別背任の他の要件を充足したとしても・・・
↓
横領:「所有者でなければできない処分」≒本人の利益を図る行為は処罰せず
背任:「図利加害目的」≒本人の利益を図る目的の場合は処罰せず
↑但し!
裁判所によって「本人の利益を図る行為・目的」と認定される必要
しかし、それは保障の限りにあらず
↓(横領・背任の刑罰リスクを避けるには)
極力、権限濫用(横領)、信義誠実義務違反(背任)を避けること
⑸ 但し、極めて注意が必要なことは、役員が「本人(会社)の利益のために」と思い込んでいるだけではダメで、横領罪・背任罪の他の要件を充足している場合に処罰を免れるためには、「主として本人の利益を図る行為・目的」である旨、裁判所によって認定される必要があることです。
⑹ 特に、「本人(会社)の利益を図る」行為・目的と「役員個人の利益や第三者(親族・親会社・グループ会社に注意)の利益を図る」行為・目的が併存する場合に、「主として本人(会社)の利益を図る」行為・目的である旨、裁判所に認定して貰うことは容易なことではありません。
⑺ そこで、横領・背任のリスクを避けるには、「会社のためになるから」という理由で、安易に「権限逸脱」や「背任行為」をしないことが極めて重要です。
⑻ なお、これは、【会社の取締役・監査役にとって要注意】ですが、同族会社のオーナー家や親族・親会社・グループ会社は、当該会社にとって「第三者」であり、主として第三者の利益のために「権限逸脱」や「背任行為」をしても、処罰を免れることはできません。
以上を踏まえて、以下、業務上横領罪と特別背任罪の要件と会社運営上の注意点を検討します。
4 業務上横領罪の要件と会社運営上の要注意点
~業務上横領の刑罰リスクを可及的に回避するために~
〔図解〕業務上横領罪のポイントと会社運営上の要注意点
⑴ 「業務上」…通常の横領と比して重罰
⑵ 「自己の占有」…預金や登記等の法的占有を含む
【注】会社の中で誰が管理責任者かを明確に!
⑶ 「他人の」…他人(会社)に一応所有者らしい外観ある場合を含む(刑法独自に判断)
【注】役員の所有か会社所有かを明確に区別!
⑷ 「物」…有体物(情報が記録されたUSB等記録媒体は含む)
⑸ 「横領」…①権限を逸脱して、②自己・第三者の利益のために消費・着服等
【注】役員報酬や売買・貸借の会社法上の要件を欠けば横領リスク
【注】使途不明瞭の支出・証拠不十分の貸付や交際費も横領リスク
【注】「本人の利益のために」と裁判所に認定して貰うのは必ずしも容易でない
⑹ 故意(以上⑴から⑸までの認識)
【注】真実は故意がなくとも外部の状況から故意ありとされるリスク
刑法253条によれば、以下のとおり、⑴業務上⑵自己の占有する⑶他人の⑷物を⑸横領し、そのことに⑹故意(刑法38条)がある場合には、業務上横領罪の罪責を負い、10年以下の拘禁刑に処せられます。
⑴ 「業務上」
「業務上」とは、文字どおり「会社の業務として」という意味で、会社の役員等が営業のために反復継続して行う業務を言います。
⑵ 「自己の占有」
「自己の占有」とは、実行行為時に、財物(後述)を、①委託に基づき、②事実上支配し又は③法的に支配していることを言うと解されています。
例えば、会社役員や従業員が、①会社との委任契約や雇用契約に基づき、
②会社の現金や備品を事実上管理支配(事実上支配)している場合、または、③会社の預金を通帳・印鑑と伴に管理支配している場合、会社に売った土地の登記名義を有している場合(法律上の支配)がこれに該当します。
【会社運営上の注意点】
備品や預金の管理責任者を明確に定めないと、会社関係者のうち、当該物を「誰が占有しているか」の認定が困難になります。
⑶ 「他人の」
「他人の」物とは、財物が、他人の所有に属することを言います。
ここで特に注意するべきことは、他人に「所有権がある」のか、自分に「所有権があるのか」については、民法(民事裁判の結果)を基準にするのではなく、刑法(刑事裁判)独自に判断されることです(刑法独自説、判例)。
つまり、民法裁判の結果、社長や役員個人の所有物であったと認定されたとしても、他人(会社)に「一応所有者として尊重するべき経済的利益」(言わば所有者として一応尊重すべき外観)があれば、刑法上は「他人の物」に該当し得る、と解されているということです(判例の基本線)。
【会社運営上の注意点】
例えば、民事上は会社の社長や社長の親族所有の備品や不動産であったとしても、備品の帳簿・ネームプレード・購入した際の領収書の宛名・登記などにより、会社が利用している物の所有者を明確にしておかないと、会社の他の役員や従業員、その他の第三者(税務当局等)から見て、その物が会社の所有物であるかのような外観を呈する危険があり、刑法上その物が「他人(会社)の」所有物である、と認定されるリスクがあります。
⑷ 「物」
「物」とは、有体物に限られ、情報(会社の企業秘密のデータ)それ自体は、横領罪の客体ではなく、後述の背任罪の客体となり得ます。
但し、企業機密が記録された会社所有のUSB等の記録媒体や会社所有コピー用紙は横領罪の客体たる「財物」に該当し得ます。
⑸ 「横領」
「横領」行為とは、非常に大づかみに言えば、①委託された権限を逸脱して、②いわゆる着服をする行為です。
裁判例に即して言えば、「横領」とは、①委託者から付与された権限を「逸脱」し,②所有者でなければできない処分(=所有者でなければできない処分をする意思が外部に発現する行為)をすること、と解されています。
ア 権限逸脱についての実務上の要注意点(1)
「権限逸脱」について、特に注意するべきことは、例えば利益相反取引・事業譲渡・役員報酬等、取締役会決議や株主総会の承認決議が契約の有効要件である場合に、有効な決議が存在しないまま、役員や従業員が会社財産を処分・利用・消費すると、会社の資金等を、①権限を逸脱して、②処分したことになりかねないことです。
イ 権限逸脱についての実務上の要注意点(2)
さらに極めて注意を要することは、これは税務調査で指摘されがちなことかも知れませんが、役員や従業員が会社から使途不明の(使途を明瞭に証明できない)資金を取得・消費することです。
例えば、「中小企業と役員間」や「グループ会社間」で、声の大きい会社のオーナーの言うがままに、確たる証拠書類を作成しないまま、役員と会社の消費貸借(貸金契約)を繰り返すと、役員が会社の資金を借りたのか、それとも個人的に着服したのか判然としなくなります。
役員が会社から金銭を借りたつもりが、あるいは役員が会社に貸した資金を返済して貰ったつもりが、「会社の資金を無権限で着服した」との嫌疑・刑罰の訴訟リスクを負いかねません。
このような事態になれば、取締役・監査役・会計参与等は、会社の「役員」としての、会社法上の損害賠償リスクも生じます。
そこで、会社と役員・従業員・関係会社との間で資金の貸し借りをする場合、横領の訴訟リスクを最小化するためには、「単に会計帳簿に個々の貸借を記録するだけでなく」、一つ一つの消費貸借の都度、貸金証書を作成して公証役場の確定日付を取得し、株主総会等の決議が必要な場合には有効な決議があった旨の確かな証拠を残すのが望ましいと言えます。
さらに、会社と役員・従業員・関係会社との間で貸金の「返済」を行う場合には、一つ一つの貸金契約毎に区別して、振込等の動かし難い入出金記録とともに「返済」し、どの貸金契約に対し何時幾らを「返済」したのか、入出金記録と領収書を残し、些かも疑義が出ないようにすることが望ましいと言えます。
これは、資金の移動についての課税庁の疑義を解消し、税務調査の際に資金の移動を明瞭に説明するためにも有益なことです。
なお、もとより、不明瞭な方法での接待交際費の支出や、特にリベートの授受為は、税務上否認されるだけでなく、権限を逸脱する着服として「横領」とされるリスクが非常に高い行為です。
ウ 所有者でなければできない処分に係る要注意点(1)
裁判例が、「横領」行為の解釈として、「所有者でなければできない処分」という要件を加えるのは、自己の占有する他人所有の物権限を逸脱して処分したとしても、「客観的に判断して主として本人(会社)の利益のためにする行為を常に横領罪として処罰するのは行き過ぎである」という考慮の他、軽微な一時流用を横領罪で処罰しないという趣旨に基づきます。
但し、実際に処罰を免れるためには、裁判所によって「本人(会社)の利益のためにする行為」であると認定される必要がありますが、それは、上述のように保障の限りではなく、容易でない場合もあります。
何処までが処罰に値しない軽微な一時流用か否かも、必ずしも一義的に明白ではありません。
そこで、横領罪の刑罰リスクを最小化するためには、本人(当該会社)の利益のためにするか否か、軽微か否かを問わず、「委託者から付与された権限の逸脱をしない・させない」ことを、取締役会・会社内で徹底する必要があります。
エ 所有者でなければできない処分に係る要注意点(2)
紙面の都合上、簡潔な指摘に留めますが、判例によれば、自己の占有する他人の物を「隠匿する」(隠して所有者が使えなくする)ことも、状況によっては、所有者でなければできない処分とされる可能性あります。
⑹ 故意
横領罪成立には、上記⑴から⑸について故意(刑法38条)が必要です。
但し、人の内心を直接証明することはできない以上、内心では全く故意がなくとも、裁判の場では、「外部の状況」から故意があったと推認される場合があり得ます。
例えば、「自分の所有か他人(会社)の所有か判然としないが、仮に他人の所有物だったとしても構わない」という程度の認識であったとしても、故意(未必の故意)が認められる場合もあり得ます。
そこで、会社の日常の運営から、未必の故意を含め、横領の故意が疑われかねない「外部の状況」を徹底的に排除することが望ましいと言えます。
5 背任罪の要件と特別背任罪の会社運営上の要注意点
~特別背任の刑罰リスクを可及的に回避するために~
会社法960条によれば、⑴取締役・監査役等が、⑵その任務に背く行為(背任行為)をし、⑶株式会社に財産上の損害を加え、⑷故意(刑法38条)があり、⑸「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的」(以下「図利加害目的」と言います。)があるときは、特別背任罪が成立し、「10年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金又はこの併科」に処せられます。
〔図解〕特別背任罪のポイントと会社運営上の要注意点
⑴ 特別背任の主体…取締役・監査役等(会社法960条列挙の者)
⑵ 背任行為…信義誠実義務違反←非常に広範・曖昧
【注】役員としての「会社法上の善管注意義務違反」をしない
【注】「処罰に値する信義誠実義務違反」との判断は容易でない
【注】「会社法上の善管注意義務」の判断も容易でない
【注】会社法上の経営判断ルールに反しないことは必須
⑶ 「財産上の損害」…経済的意味での全体財産の減少
【注】債権の名目額ではなく回収可能性を含めた債権の実価で判断
⑷ 故意…上記⑴から⑶の要件に該当する事実を認識すること
【注】財産的損害発生の未必の故意で「損害」故意が認められ得る
⑸ 図利加害目的…主として本人(会社)の利益を図る目的ではないこと
【注】裁判所によって認定される必要があること
【注】客観的状況から内心の目的が推認され得ること
【注】「会社の利益を図る目的」と裁判所に認定して貰うのは必ずしも容易でない
⑹ 未遂処罰…結果として「財産的損害」が生じなくとも処罰される可能性あり
⑴ 特別背任の主体となり得る者
通常の背任罪(刑法第247条。5年以下の拘禁刑又は50万以下の罰金)の主体は、他人のためにその事務を処理する者(委託信任関係に基づき他人の財産を管理・保全する任務を負う者)ですが、特別背任罪の主体は、取締役・執行役・監査役・会計参与・支配人・重要な任務を委任された使用人(部長課長)等、会社法960条に列挙された者に限られます。
⑵ 「任務に背く行為」(背任行為)
「背任行為」とは、信義誠実義務に違反する行為をいうとする見解が有力であり、同趣旨の裁判例があります。
この解釈が不明瞭で広すぎると批判して、「背任行為」を「法的代理権を濫用した場合」に限定する見解もありますが通説ではありません。
実務上は、上記有力説・裁判例に従い、「信義誠実義務に違反する行為」をすれば背任罪の実行行為である「背任行為」をしたと認定され得ることを、想定せざるを得ません。
ア 背任行為に関する要注意点(1)
「背任行為」=信義誠実義務違反という用語が広範であることから、「取締役等会社法960条に列挙された役員等」の「会社法上・民法上の善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)」が、当別背任罪という犯罪の実行行為である「背任行為」にも該当すると判断されるリスクがある、ということに注意が必要です。
イ 背任行為に関する要注意点(2)
もっとも、背任罪・特別背任罪は拘禁刑という重い刑罰を伴う以上、「会社法上の善管注意義務違反」のすべてを「刑法上の背任」と解するのは相当ではなく、「刑法上の背任行為」は、背任罪・特別背任罪で「処罰に値する程度に」重大な信義誠実義務違反でなければならないと解するのが、「刑法の解釈としては理論的に相当」であると解され、類似の発想に立つ刑法学者も有力です。
ただ、実際の刑事裁判になったときに、如何なる場合が「処罰に値する信義誠実義務違反」であると判断されるかは、次に記載するとおり、「会社法の善管注意義務」が必ずしも明確でないこと相俟って、刑法学者や刑事裁判官が想定している以上に難しい判断であり、確たる予測が非常に困難であると思われます。
ウ 背任行為に関する要注意点(3)
そこで、現実の背任の刑罰リスクを回避するためには、取締役等会社法960条に列挙された役員等は、極力「会社法上・民法上の善管注意義務違反」をしないように十分注意することが必要であり、「善管注意義務」は役員の責務の一丁目一番地に他なりません。
ところが、株式会社には代表権ある取締役・業務執行取締役・単なる平取締役・監査役等様々な役職と担当がある中で、「どの役員が如何なる場合にどの程度の「会社法上の善管注意義務」を負うかが、会社法の解釈として必ずしも明瞭でなく、基本書でも必ずしも丁寧には説明されていないように思われます。
今回は、テーマと紙面の関係上、「会社法上の善管注意義務」を解説することはできませんが、「取締役」に就任した以上、次の「経営判断ルールに違反しない」ことは必須事項です。
〔御参考:経営判断ルール〕
経営判断ルールとは、「行為時の状況を基準に、①取締役が当該取引に係る経営判断をするに合理的な情報収集・検討等が行われた上で、且つ、②その種の取締役に期待される能力水準に照らし不合理な経営判断とはいえない場合には取締役の善管注意義務違反は認められない。」とする会社法の解釈上の準則です。
逆に言えば、当該取引までに、①当該経営判断に「質的にも量的にも必要十分な」情報収集をせずに、取引をしたり(作為)、適時適切に取引(対応)をしなかった(不作為)場合には、善管注意義務に違反することになりかねません。
※なお、具体的な法令定款に違反すればもちろん善管注意義務違反となります。
⑶ 「財産上の損害」
背任罪の要件である「財産上の損害」とは、経済的に見て会社の全体財産が減少することであると解されています(通説、裁判例)。
大づかみに言えば、当該行為による会社の損失と利益の双方を勘案して会社の損失の方が大きい場合を言います。
但し、回収可能性如何で債権の経済的価値が異なることから、「全体財産の減少」は,「いわば経済的意味での損得」で判断すると解されています。
そこで、当該債権の回収可能性が乏しい取引先に資金を貸し渡し、売った商品を引き渡した場合、民法上反対債権(貸金債権・代金債権)を取得したとしても、その時点で、「経済的意味での全体財産の減少」が生じたと認定されかねません。
⑷ 故意
特別背任罪の故意(刑法38条)として、上記⑴から⑶の要件に該当する事実を認識している必要があります。
但し、会社経営には通常損失のリスクを伴いますが、「損害が生じるかも知れないがそれでも構わない」(未必の故意)という程度の認識で、「財産上の損害」故意が認められ得ることに注意が必要です。
⑸ 図利加害目的
「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的」(図利加害目的)とは、有力説・裁判例によれば、「主として本人(会社)の利益を図る目的があった場合には特別背任罪の処罰対象としない」という趣旨の要件であり、換言すれば、「図利加害目的」は、「主として本人の利益を図る目的ではないこと」という意味になります。
例えば、「背任行為(信義誠実義務違反)」に当たる危険な冒険的取引よって会社に「財産上の損害」が発生し、「損害発生の未必の故意」があったとしても、主として会社の利益を図る目的・動機があった場合には、特別背任罪が成立しない、と解されています。
ア 図利加害目的に関する要注意点(1)
上記のとおり、背任・特別背任の処罰を免れるためには、「主として本人の利益を図る目的」である旨、裁判所によって認定される必要がありますが、そのように認定されるか否かは、保障の限りではありません。
イ 図利加害目的に関する要注意点(2)
人の内心の目的・動機は外部から直接観察できません。
そこで、取締役の内心が専ら本人(当該会社)の利益を図る目的であったとしても、当該取締役個人の利益(例えば役員としての信用失墜防止)や第三者(親族・親会社・グループ会社)の利益を図る必要性に係る外部的状況と、会社の利益を図る必要性に係る外部的状況を総合考慮するなどして、客観的状況から、裁判所から「主として役員個人ないし第三者の利益を図る目的」であったと認定される場合があり得ること注意が必要です。
⑹ 未遂処罰あり(会社法960条、同962条)
会社法962条は、「前二条の罪の未遂は、罰する。」と規定しており、背任行為の結果として「財産上の損害」が発生しなかったとしても、特別背任背任の未遂罪として処罰される可能性があります。
ただ、如何なる場合に、当該「背任行為」(実行行為)に未遂として処罰に値する程度の「財産的損害発生の危険」があると認定されるかは、必ずしも容易な判断ではありません。
6 結びとして
~税理士の関与先納税者様と関係者様のために~
以上の業務上横領・特別背任リスクが顕在化すれば、税理士の関与先納税者様である会社・社長・役員・従業員の方々の経営・信用・生活に極めて重大な支障を生じさせ、会社の稼ぐ力や将来の成長を阻害しかねません。
そこで、少々小煩い説明になり恐縮ですが、以上を踏まえ、将来に向けて、できる限り横領・背任のリスクを回避・最小化して頂ければ幸いです。
貸借・交際費・役員従業員給与・使途不明金等、法人税・所得税の税務調査の際、担当官の方が指摘されたことの中には、横領・背任のリスクを回避・最小化に資する御指摘が多くあると推察されます。真摯に耳を傾け、今後の刑罰リスク軽減にも役立てることが有益と考えます。
格別に注意を要するのは、事業承継・M&Aの際です。上述の説明に鑑み、既に横領背任のリスクがある会社を第三者に事業承継させる際、それを切っ掛けに、事業承継・M&Aの買主側から、「従来の役員や従業員が横領・背任をしていた!」等と指摘され、刑事告訴・告発を含む法的措置を取られるリスク、M&A代金の減額返還の要求をされるリスクがないとも限りません。
そのような会社を事業承継・M&Aする際には、「会社の株式を譲渡する手段+表明保証」を極力避けるのが無難です。なぜなら、株式を譲渡すれば、「会社=横領・背任の告訴告発者」を買主に譲渡することになるからです。
そのような場合は、事業承継・M&Aの手段として、「事業譲渡(営業譲渡)」(+従来の会社の通常清算)を取るのが無難であり、消費税の関係で事業譲渡が困難なら、会社分割のうち上記刑罰リスクを回避できる会社分割の方法を採るのが無難です。
そして、事業譲渡・会社分割は株式譲渡と比較して専門的です。そのような場合の事業譲渡・会社分割は、税理士にとって明らかに信用のできるM&Aコンサル会社及び専門の税理士・弁護士と相談する必要があります。
そもそも、事業承継・M&Aの仲介会社自体を、税理士にとっても十分信頼できる会社に選定することも、極めて重要です。
業務上横領・特別背任のリスクを最小化するためには、会社の役員・従業員の方々に以上の重大なリスクをご理解頂き、会社組織の中で「横領・背任が生じないよう相互にチェックする機能を体系的に整えること」、「会社の社長・オーナーといえどもチェックされる機能を体系的に整えること」が重要であると考えます。
税理士がこのような相互のチェック体制を指導助言することは、「納税義務の適正な実現」(税理士法第1条)と「関与先会社及び会社役員の方々の税務リスク軽減」にも資すると考えます。
〔参考文献〕
前田雅英「刑法各論講義(第8版)」(東京大学出版会)
江頭憲治郎「株式会社法(第9版)」(有斐閣)※善管注意義務に関し
以上
執筆:北出 容一 税理士/監修:冨永 典寿 税理士
