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キャッシュレス決済と領収書

2023/03/02

1.はじめに
 FinTechの発達により、キャッシュレスによる様々な決済や支払手段が生まれてきています。国税も昨年12月からスマートフォン決済による納付ができるようになり、また、今年4月から電子マネーによる給与の支払いが可能となるなど、本来、現金が原則だった納税や給与支払いもキャッシュレス化されるようになってきました。

2.キャッシュレス決済の定義
 キャッシュレス決済とは、文字どおり「現金(紙幣・硬貨)を使わないで対価を支払うこと」をいいます。日本政府は2025年までにクレジットカード、デビットカード、電子マネー(suica、pasmoなど)やいわゆる「〇〇Pay」といったスマートフォン決済(QRコード決済)によるキャッシュレス決済比率を40%(21年32.5%)に、将来的には80%まで引き上げることを目標にしています。

3.キャッシュレス決済の支払方法
 キャッシュレス決済による支払いは次の3つの種類に分けられます。
・プリペイド方式(前払い):支払い(先)→利用(後)
 事前に現金を入金し(チャージ)し、チャージ分の電子マネーを使用する。
・リアルタイムペイ方式(即時払い):利用=支払
 決済と同時に銀行口座から利用金額が差し引かれる。
・ポストペイド方式(後払い):利用(先)→支払(後)
 決済額をまず決済サービスの提供会社が立て替え、利用者は後日提供会社へ支払う。

4.キャッシュレス決済と領収書
 領収書は民法486条に規定されている受取証書に該当します。代金を支払った人は代金を受け取った人に対して領収書の発行を請求でき、請求をされた人には領収書を発行する義務が生じるものとされ、領収書の交付は代金の支払いと同時に行われるという「同時履行の原則」があります。キャッシュレス決済では領収書が発行されない場合があります。たとえばクレジット決済の場合、小売店等は商品やサービスを購入した人に信用取引で商品等を引き渡し、クレジットカード会社などの決済サービス会社を通して間接的に代金の支払いを受けるので「同時履行の原則」に該当しないからです。一方、領収書が発行されるのは、前払い方式や即時払い方式で、小売店等と決済サービス会社の間に代金の弁済受領の取り決めがある場合になります。印紙税も同様な考え方に基づいて課税されます。

5.領収書とレシート
 会社や個人事業者が経費処理をする際に、領収書やレシートは重要な証憑です。領収書は法的にはその形式に特段の定めはなく(法人税法や所得税法も)、①発行者、②宛名、③交付日、④金額、⑤取引内容が記載されていれば足りるとされています。一般的に領収書とレシートの違いは宛名の記載の有無です。現金には匿名性(いつ、どこで、誰が使用したかということがその券面上に記録として残らない)という特徴があるために、現金決済の場合は領収書が商品やサービスの代金を確実に支払ったことの証拠となります。
 また、消費税法では仕入税額控除の要件となる請求書等への記載事項に宛名が定められているので領収書が必要となるでしょう。ただし、小売業、飲食店やタクシーなど不特定多数を取引先とする業種の場合は宛名なしの領収書の発行が認められています。さらに、今年の10月から始まるインボイス制度でも、これらの業種では「受領者の氏名又は名称」を省略した「適格簡易請求書」の交付が認められています。記載要件を満たせばレシートも「適格簡易請求書」となります。


6.最後に
 キャッシュレス決済は小売業、飲食店などで利用されるケースが多く、現金とは違い利用履歴が残ります。レシートは店名、日付、品目、税率ごとの対価や消費税額など経費処理に必要な項目が記載され機械的に発行されます。そのため、キャッシュレス決済の場合は利用履歴の保存とあわせてレシートの保存することで、あえて領収書の発行を求めなくても経費処理は十分となるでしょう。

<追記>
 最近、(私の関与先で)会計ソフトや経費精算アプリではクレジットカードの利用明細書やスマートフォン決済などの利用履歴を取込んで自動仕訳を起こせるようになったため、領収書やレシートを保存しないケースがあります。「利用明細書」はクレジット会社が「代金を立て替えた事実の証明」であってお店などへの支払いの証明にはならないので領収書等ではありません。また、消費税法上の請求書等や「適格(簡易)請求書」の記載要件を欠きますので、「利用明細書」だけでは課税仕入れができなくなるので注意が必要です。また、電子メールやクラウドから利用したクレジットカードやスマートフォン決済の利用明細書等は電子取引に該当しますのでデータ保存が必要となります。

執筆:髙橋毅 税理士/監修:村田光央 税理士

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